晩翠怪談 第7回 「羽ばたいていく」「盗り風」「捻じ折りの牽制」
■羽ばたいていく
夕暮れ時、築地さんが近所の狭い路地を車で走っていた時のこと。
少し離れた前方の路上に、小さな影があるのが見えた。
形といい、サイズといい、一目して雀だと思う。
雀は道のまんなかにうずくまって微動だにしない。
速度を緩め、距離が近づくにつれ、徐々に仔細がはっきりしてくる。
雀ではなかった。
路上にうずくまっていたのは、ひどく小さな老婆だった。
雀の羽と同じ茶色い着物を纏った、白髪頭の老婆である。
背丈はせいぜい、丸めた人の拳ほどしかない。
はっとなってブレーキを踏んでまもなく、老婆はすっくと立ちあがると、着物の袖をばたばたとはためかせ、夕空へ向かって飛び立っていった。
予想だにしない光景を目の当たりにしてしまった築地さんは、それからしばらくの間、外で雀を見かけるたびに背筋を震わす羽目になったという。
ここから先は
1,113字
¥ 100
よろしければサポートをいただければ幸いです。たくさん応援をいただければ、こちらの更新を含め、紙媒体の新刊を円滑に執筆できる環境も整えることができます。