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晩翠怪談 第15回 「林の手」「どう見ても」「昼ぬりかべ」「意思の疎通」「擬態」

割引あり

■林の手

 街場に暮らす会社員の永露さんが、お盆に田舎の実家へ帰省した時の話である。
 昼食を済ませた昼過ぎ、食後の軽い運動も兼ね、近所にある自販機へ飲み物を買いに出掛けた。
 幼い頃から歩き慣れた細い生活道路を歩いている時だった。
 道端に生い茂る雑木林の中から、白い手が伸びているのが目に入る。
 おそらく女の手だと思う。仄暗い葉陰が揺らめく路傍の虚空に、肘から先をするりと突きだし、ひらひらと手首を上下に振っている。手招きしているようだった。
 不審に思いながら近づいていくと、手はふいに木立ちの中へ引っこんでいった。
 首を伸ばして覗きこんでみたところ、雑然と生え散らかる下草に紛れて、裸のマネキン人形が仰向けに転がっていたそうである。



■どう見ても

 こちらも手にまつわる話である。
 美容師の絵里さんが、シルバーウィークに宮城県の某所にある自然公園に出掛けた時のこと。
 公園内は深い緑に包まれ、丈高い樹々に挟まれた小道を歩けるようになっている。
 ウォーキングとハイキングが趣味の絵里さんは公園に到着するなり、さっそく小道のコースを歩き始めた。
 ところが歩きだして十分ほど経った頃から、俄かに両の足首がなんとなく重苦しくなってきた。小道の先へ向かって進ませる足の動きが妙にだるく感じられ、颯々と歩くことができない。
 歩くのは日頃から慣れているし、体調が悪いわけでもないというのに大層おかしな具合だった。なんだか嫌な胸騒ぎも覚えてしまい、途中でコースを引き返すことにする。
 帰宅からしても足首はまだ重ったるく感じられた。
 様子を確認すべくソックスを脱いでみると、両の足首に青黒い痣が浮いていた。
 それはどう見ても、人の手首にがっしり掴まれた形にしか見えなかったという。

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