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晩翠怪談 第8回 「リーガン地蔵」「おねだり地蔵」「SМ地蔵」
■リーガン地蔵
「かなり変な話なんですけど、実際本当にあったんですよね……」
現在、50代半ばを迎える保険業の中森さんが、遠い目をしながら語ってくれた話である。
彼が中学生の頃のことだという。
春休みにテレビの洋画劇場で、映画『エクソシスト』が放送された。
中森さんは家族と茶の間でこれを観た。心臓が凍りつくほど恐ろしい映画体験だったが、同時に凄まじく面白くもあった。
翌日、部活の練習で登校すると、部員の大半も『エクソシスト』を観ていて、部活の時間は映画の話題で持ちきりとなった。
とりわけ中森さんが印象に残ったのは、悪魔にとり憑かれた少女リーガンの首が360度、ぐるりと一回転するシーンである。
映画ゆえ、トリックなのは分かるのだけれど、仕組みについては皆目見当もつかなかった。
「あれは一体、どういうふうに撮ったんだろう?」
部員らと熱く議論を交わし合っても、納得のいく結論は得られなかった。
映画の話題は、家路をたどる段になってもなお続いた。
夕闇迫る通学路を部活仲間の小杉君と歩きながら、『エクソシスト』の凄さについて身震いしながら語り合う。
「やっぱり分かんねえよなあ、あの首の動き方。もしかしたら、あの首のシーンだけ、本物なんじゃねえかと思うんだ……」
腕を組みつつ、ありえないことを口走っていると、ふいにごりごりと乾いた音が聞こえてきた。
なんだと思って視線を向けた道端には、小さな地蔵が立っている。
その昔、交通事故で亡くなった幼稚園児を弔うために立てられたという地蔵である。
地蔵はごりごりと乾いた音を響かせながら、首の上で丸い頭をコマのように回している。その様はまさしく、悪魔にとり憑かれたリーガンの異様そのものだった。
小杉君とふたりで「うえっ!」と声をあげてまもなく、首の動きは静かに止まった。
恐る恐る近づいて頭に触ってみたのだけれど、押せど捻れど、びくともしない。見れば頭と首の間には継ぎ目もなく、首だけ回ることなど、物理的に考えて絶対に不可能なことだった。
だが、首は確かに回っていた。物理的にありえないことが起きたとなれば、原因は超常現象のたぐいだろうという結論に至る。
その後、中森さんたちが吹聴したことで、首が回る地蔵は俄かに脚光を浴びることになった。
誰ともなしに「リーガン地蔵」と呼ぶようになったこの地蔵の首が回るところをぜひ見たいと、物好きな生徒が足繁く通うようにもなった。
けれども中森さんが知る限り、実際に首が回るところを見た者は、その後に誰もいなかったそうである。
「リーガンの首が回る仕掛けについては、大人になってから分かったんですが、地蔵の首の仕掛けについては、今になっても全くもって分かりません」
本当にあれは一体、なんだったんでしょうか……。
やはり遠い目をしながら、悩ましそうな面持ちで中森さんはつぶやいた。
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