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晩翠怪談 第32回 「光りし者」「からからからから」「特攻」

割引あり

 ■光りし者 

 兼業農家の加納さんは、こんなものを見たことがあるという。
 ある年の秋口、地元の寄合いに出掛けた、帰り道のことだった。

 自宅へ向かってまっすぐ延びる田んぼ道を歩いていると、田んぼの中にちらりと人影が見えた。
 視線を向けたところ、漆黒に染まった田んぼのはるか遠くにセーラー服を着た少女が突っ立ち、こちらをじっと見つめている。
 加納さんは即座にその場を駆けだし、家へと全速力で逃げ帰った。
 まずいと感じたからである。

 少女は路上から50メートル近くも離れた距離に立っていたにもかかわらず、顔の表情を始め、髪のてかり具合やセーラー服に浮かんだ皺の様子など、全てがつぶさに視認することができた。
 星ひとつ浮かばない夜空の下、その身はまるで、内側から発光しているかのように明るかった。
 一目するなり普通の人ではないと確信できたので、すかさず逃げだしてきたのだという。


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