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[第7回]妻が選んだものは拒否?~妻のすすめる育児書を読まないパパたち~

こちらの記事は,『チャイルドヘルス2023年7月号』に掲載されたものです.



【はじめに】

『チャイルドヘルス』は,子どもの保健と育児を支援する専門誌として,毎号,子どもにかかわる専門職の皆さんに役立つ情報をお届けしています.
本誌の2023年1~12月(26巻1~12号)にて,連載「奮闘するパパ,揺れるパパ」をご執筆いただいた渡邊先生は,産後ヘルパーの会社を運営されています.このほか,マタニティ夫婦向け講座の「両親学級」の講師を務められたり,男性育児に関する書籍を多数出版されたりするなど,幅広くご活躍されています.
 子育ては夫婦で協力してするもの,ということは一般的になりつつあるいま,子育てを頑張りたい父親も増えています。しかしその際, 世間にはびこる「性別役割分業」「子育て神話」などに戸惑う方も少なくありません。そんな迷える父親にどのように向き合っていったら よいのでしょうか?
 渡邊先生に事例を紹介いただきながら,一緒に考えましょう!

【渡邊大地先生 プロフィール】

株式会社アイナロハ代表取締役。札幌市立大学看護学部助産学専攻課程非 常勤講師。1980 年,北海道札幌市生まれ。産婦人科や自治体などで産前産後の夫婦向けの両親学級,ワークショップを実施。受講者は累計 2 万人を超える。『産後が始まった!』(カドカワ,2014),『ワタナベダイチ式!両親学級のつくり方』(医学書院,2019)ほか著書多数。

 子育て世代からよく挙がるパパの戸惑いエピソードを紹介しつつ,現場でそれにどう向き合っていくべきかを考えるコーナーです。
 今月は,夫婦間のオススメ育児情報の共有について考えてみたいと思います。

妻からのオススメは無条件で拒否?

「渡邊さんの講座に夫婦で参加したいんですが,夫がその気になってくれません。どうしたらよいですか?」という相談をいただくことがあります。
 私がやっているような「夫婦向け」講座は,1 人が受講したいと思ってもパートナーの了承を得るというハードルがあり,結果的に受けたかったけど受けられなかった,というケースがあります。
 会社のようにトップダウンで「受けて来い」ですめば話は早いんですけどね。
 パパというのは,どうやら「妻からすすめられたものには無条件に抵抗する」という性質をもつ人が少なくないようです。妻がよいと言った食材やサプリについて「どうせネット情報だろ」とバカにしてみたり,妻が調べてきた保険や金融情報について「そんなのカネの無駄遣いだ」と相手にしなかったり。
 実は私も以前はそうでした。妻が調べてきたものには取り合わず,でも,自分がよいと思ったものは熱心にすすめる。どうもパパって,「家庭内の決めごとは自分がリードしなければいけない」と思い込んでいる節があります。
 ですから,妻がすすめてくれた本は相手にしなかったのに,自分は育児情報誌などを買い込んでまず自分で目を通し,「これを買おう!」「これをやろう!」と熱っぽく語ったものです。パパは,身近な人であればあるほど,アドバイスに耳を傾けづらくなるようです。


 同じことがわが子にモロに引き継がれるもので,私たちは子どものことを思ってあれこれアドバイスするにもかかわらず,子どもたちは聞く耳をもちませんよね。ただ,不思議なことに,私たち親がいくら言っても響かないことが,ある日塾の先生やスポーツクラブのコーチに一度言われると素直に従ったりすることがあります。この「第三者に言われる」というのが大切なのかもしれませんね。

育児書を夫婦で共有できない?

 夫婦向け講座と同じように,妻からのすすめに夫が応じないものに「育児書」があります。
 ママ達は授乳にしろ,寝かしつけにしろ,日々よい方法を模索したり,そもそも自分のやっていることがあっているのかどうかに迷っているものです。これだけインターネット上に情報があふれ,「スマホ育児」とまでいわれる現代でも,かなりのママ達が何かしら育児書を購入しているようです。 
 育児書を読んで「これだ!」「この方法を試そう!」と思ったら,当然パートナーに伝えたいですよね。“育児の”パートナーですから。でも,それが受け入れられないと大きなショックを受けます。
 これも先ほど述べたような理屈で,パパは自分で見つけてきた本だったら従うことができても,妻が見つけてきた本に対しては関心を示しません。“もっとも身近な妻”からの情報をもっとも軽んじるからです。
 私は産後ヘルパー派遣会社をしています。日々,産後真っ最中の家庭にスタッフがお手伝いに行ってくれています。ときどき,サポートの初日にお母様から育児書を渡されて,「このとおりにやってください」と言われるケースがあります。本にはふせんがたくさん貼ってあり,「ミルクの間隔は 2 時間おき」とか「ミルクは 1 回に 150 mL」とか「2 時間以上お昼寝したときは 1 度起こしてミルクを飲ませる」などにマーカーが引かれてあったりします。なかには,さまざまな育児書をコピーした分厚いファイルを渡されて,「次回までにすべて読んでおいてください」と言われたこともあります。
 では,そんなママ達が夫にも同様にその本を読ませているかというと,やはりそうではないようです。一人ずつ確認したわけではありませんが,スタッフから聞いたニュアンスでは「夫はまったく関心を示さない」という意見が大半のようです。
 やはり,ママが見つけた育児書をパパに読ませるというのは至難の業のようです。

秘技! 「置いておくだけ」

 では,ママの探してきた育児書は絶対に読まれないかというと,そうとも限らないんですね。
 私の講座に来てくれる夫婦には,「パパが渡邊さんの本を読んで,この人の話なら聴いてもいいと言ってくれた」という人が一定程度います。もちろん,妻が先に読んで,その後に夫が読むパターンです。普通に考えると,妻が「この本面白いから読んでみて」と夫にすすめたところで撃沈するはず。そして,なかにはそういう人もいたはずです。
 では,「うまくいった」人は,どのように夫に本を読ませたのか。
 やり方はカンタンです。
 リビングの目立つ場所に,本を「置いておくだけ」だそうです。ポイントは,「敢えてすすめない」こと。


 読まれる本はこれだけで読まれるようになり,読まれない本は見向きもされないそうです。
 ただし,活字系の本は読まれる確率が非常に下がるらしく,オススメは「マンガ」とのこと。どうりで私の本がよく読んでもらえるわけです(笑)。今はマンガで書かれた育児書もありますし,育児系のエッセーマンガもたくさんあります(私の本も,大方エッセーマンガの棚にあります)ので,そのなかから夫に読んでもらいたいものを探すのもありかもしれませんね。
 世の中,すばらしい育児書はたくさんありますので, 専門職の皆さんはあれもこれもおすすめしたくなると思いますが,まずはハードルが低くてパパと1 冊共有できるようなものをおすすめしてあげて,夫婦で育児書を読めるようなお手伝いができるといいですね。
 
 本連載では,皆さんからの「こんな状況のパパとのかかわりに悩んでいる」という声を求めています。現場の悩みを教えてくださいね。

【おわりに】

※雑誌『チャイルドヘルス』では、他にも子どもの健康や育児に役立つ情報を掲載しております。
また、kindle、kobo、kinoppy、hontoの各電子書店で、一部の号を電子書籍として販売しております。そちらもぜひご覧ください。


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