流れ星

【人類、ついに光を手にする】 
大都会では、誰もが空を忘れたようにうつむいて歩く。しかし、その日は少しばかり様子が違っていた。
多くの人が行き交う大都会の中心には、大きな電光掲示板があった。そこには目がチカチカするような色で大きな見出しが表示されていた。その見出しによると、ついに人類は光の速さを手に入れたであろうことが分かった。
これを応用することで、世界中はもちろんのこと、宇宙旅行も短時間で行けるようになる。人間の持つ時間では行くことが不可能な場所にまで行くことができる。

【注目せよ。人類が光速になる。その時を。時は正午。歴史をその目に刻め】

その日は、どの会社も午後からは休みになった。国会ではこの日を光の日と名付けて祝日にしようじゃないか、そんな気の早い話が出ていた。

「おいおい、ついに人類が光速を手に入れたって」

「あぁ、でも本当かな。一気に信じがたいよ」

「まぁな。ただ保守的なマスメディアがあそこまで言ってるんだ。あんなに強気なメディアを俺は見たことがないぜ」

「確かに。そう言われると信憑性が増すな」

その日の午前中は元旦のように、メールも電話もチャットも何もこなかった。永遠のように感じた午前は過ぎ、どこの会社でも一気にモニターが付けられた。

「さぁ、ついに我々は光速を見るのです。それはきっと人類にとって希望の光となるでしょう」

光速を手に入れると、今まで語られたSFの物語も現実になっていくだろう。まだ見ぬ惑星に思いを馳せる人間も少なくなかった。

「さて、では博士。早速私たち人類に希望の光を届けてください」

「うむ」

博士はゆっくりと体にぬるぬるとした何かを塗り始めた。

「博士、それは?」

「摩擦熱で自分が焼けてしまわんようにな」

「なるほど」

塗り終わった後、博士はクラウチングスタートの構えをとり、前を見ながらいつでもいいぞと言った。

「えー、では三、二、一、でいきましょう!皆様瞬きは厳禁です。一瞬の出来事ですので」

ごくり…。
唾を飲み込む音がそこかしこから聞こえてきた。緊張は最高潮に達していた。

「では、いきます!三、二、一…!!!」








「あ、流れ星…」
どこか遠くの惑星で誰かが呟いた。
月が二つ浮かぶ夜空に、全ての生物に希望をもたらすような閃光が、その光を絶やすことなく夜空を駆け抜けていった。

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