相手山成泰のクリエイティブ日記
相手山 成泰(あいでやま なりよし)はアパートに一人暮らしをする学生である。彼は小学校から高校にかけて、とりわけ国語と美術の成績が良かったことだけを根拠に、自身を希代のアイデアマンと信じている。しかし、特に何かを成すことなく、自分のクリエイティブさに歓びを感じながら日々を過ごすのであった。
相手山は考えた、もう秋も終わり、クリスマスのムードさえ匂わないこともないこの時期に、紅葉をたのしんでいないと。例年なら「そうだ、京都に行こう」の広告の清水寺などの紅葉や、テレビで放送される山の紅葉を見るのだが、今年は御時世のせいか少ない気がする。また、相手山は外出の機会が激減している。街を歩けば見れる紅葉黄葉は今年は堪能できていない。しかし、そうなるともうすぐ紅葉もおわってしまう。これはいけない。これは例年のように座って待っていてはいけない。相手山は能動的に紅葉を楽しむ必要があった。
そんなこんなで相手山は近所の大きめの公園に移動した。午後5時半のことである。あたりはだいぶ暗くなっている。ランナーや犬の散歩をしてる人、帰りはじめる小学生。さまざまな人がいた。公園は家からは遠くはないが、相手山が来るのは久しぶりのことであった。
30分くらい歩いて午後6時ごろ。紅葉が暗くてあんま見えねえ、というのが相手山の感想であった。もっと早くに家出ろよ、という正論もあるが、何故か逆ギレ気味である。しかし、これは彼のこの公園への期待の高さゆえのものである。
この公園は桜が綺麗であることで有名、とは言わなくとも花見客で賑わうくらいはソメイヨシノがいっぱいあるところである。また、池があり、落ちては危ないので街灯もいっぱいある場所でもある。街灯が先か、ソメイヨシノが先か、とにかくソメイヨシノのある場所と街灯の設置場所は被っていた。だから、相手山は街灯に照らされる夜桜を晩酌にするのを好んでいた。
さて、日が落ちてからの紅葉を楽しみたい相手山だが、公園にはもみじはあんまりないし、ましてやもみじの近くに街灯がない。暗くとももみじが燃えるように、赤々としているのはわかるがあまりエモいとは言えない。これが相手山をがっかりさせたのだ。
相手山が不満げに歩いていると滑り台のあたりが眩しい。どうやら、子供が滑り台で遊んでおり、母親が自転車のライトで当たりを照らしているようだ。暗い場所の遊具は危ないからだ。さて、相手山が親子を横切る時、子供が口を開いた。
「星がキラキラしてて綺麗」
相手山は困惑した。あたりが暗くなったといっても空はまだ黒くはなっていない。星空を楽しむには早すぎる時間だ。現に相手山が天を仰いでも月すら見えない。それは母親もそう感じたようだが、彼女はすぐに子供の発言の意図に気づいた。
「これホコリだよ」
なんと、子供は公園の砂埃を星と表現していたのだ。たしかに暗くて見えなかった砂埃が自転車のライトに照らされて突然視認できるようになり、それが光り輝き浮かんでいれば、それは星である。その子供はそれを星だと思ったのだ。
相手山は驚愕した。子供の発想力は目を見張るものがある。同時に今日の態度を恥じた。綺麗な紅葉がないのではない。俺が見つけられなかったのだ。悔しさを噛み締め、相手山は家路についた。
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