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道 021 バードランド
ニューヨーク滞在中のある日、ドミトリーの同じ部屋に宿泊でやってきた日本からの旅行者で、同年代の女性と一緒にジャズバーに行くことになった。
「よかったら一緒にいきませんか」と自分から誘ったように思う。
どうやってそのお店を知り、たどり着いたか覚えていない。
ただ、お店の名前は25年経った今でも忘れることはない。
バードランド(birdland jazz club)だ。
お店に入り順番を待っていると、スラっと背の高い黒人の女性が笑顔で出迎えてくれた。
「ハロー。今日はお二人ですか。こちらへどうぞ。」
そう案内してくれたスタッフは本当に素敵な女性で、席につく前からとても心地よい気分に浸れた。
このスタッフに出迎えられたシーン、彼女の笑顔、雰囲気は今でも鮮明に覚えている。
そのワンシーンはものすごく印象的だったのだ。
それほど彼女が生み出してくれたお出迎えの空気感は素晴らしかったのだ。
私は施設運営のコンサルタントとして接客姿勢を教えることがある。
そのマインドの根幹を築き上げてくれた一つが、ほんのわずかな時間であったけれども、バードランドでの素敵な女性スタッフとの出会いの思い出なのだ。
接客に正解はない。どれだけこちらが良いと思ってやったことであっても、相手がどう受け取るかわからないからだ。
だからこそ、常に精進して接客に取り組む姿勢がいる。
お客様の雰囲気から機微を察して最良の応対を心がける必要がある。
素晴らしい接客を受けた経験は、自分自身の接客スタイルやおもてなしの心を育ててくれる。
彼女との出会いはたまたまであったのかもしれないけれど、自分にとっては生涯忘れることのないワンシーンとなっているのである。
さて、テーブルに案内され席についたが、そこで聴いた演奏は本当にすごかった。
オーケストラ形式で総勢25名ほどでの演奏だった。
どうやら結構有名なバンドだったらしく、その席にノルウェーのプライム・ミニスター(首相)がゲストとしてきているらしい。
トランペットやサックスなどそれぞれ4~5名ほどいるビッグバンドだった。
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「きっと”圧巻”とはこのことを言うのだ」
そう感じるほど素晴らしい演奏だった。
決して広くはないバー内に響き渡る演奏。
楽器から奏でられる音楽だけではない。
演奏者たちのパッションとあわせて、観客の感動が伝わってくる。
バードランドを訪れた時間は、一番忘れられない夜の出来事となった。
そして10日間のニューヨークの遊学を終え、私は思い出をいっぱい抱え帰国したのである。
022につづく