道 006 ストリートミュージシャンとの出会い
将来は人に夢と感動を与える仕事がしたい。
そう思っていた大学3年生のある日の出会いの話です。
その日、大阪城から京橋駅(JR・京阪線)に向かって歩いていました。
そこで見かけたストリートミュージック。
外国人の男性がギターを弾きながら、確かビートルズの曲を歌っていたように記憶しています。
優しい表情でギターを弾きながら歌う彼の歌声になぜか心惹かれ、立ち止まって少しの間彼の歌を聴いていました。
いくつか曲が終わったタイミングで声をかけました。
片言の英語です。
彼は「もう少しで演奏が終わるから、よかったらその後バーに行こう」と言いました。
演奏が終わった後、私は彼について駅近くの飲食街へと向かいました。
入ったお店は焼き鳥屋さんでした。
「バーじゃないのか(笑)」と心の中でつぶやきつつお店に入りました。
彼はポールという名でした。
もう30年も前のことなので何を話したかは覚えていませんが、焼き鳥を食べながら話したこと、一緒に写真を撮った記憶が鮮明に残っています。
歓談の後、ポールは京都に住んでいるとのことで、同じ沿線だったこともあり一緒に駅に向かいました。
そして、私の乗る電車は急行か準急だったのですが、もう少しポールと話がしたくて、私の降車駅には停まらない特急に乗り込みました。
確かポールは日本語はほぼ話せなかったので、必死に片言の英語で話したように思います。
私はポールに伝えました。
「僕は人に夢を与える仕事がしたい。そんな空間を作る仕事がしたいんだ。」
彼は笑顔で話を聞いてくれ、こんなことを言ってくれました。
「それはすごくいい夢だね。」
「もしかしたら今、成功しているように見える人は高いところにいるように思うかもしれない。」
ポールは片手を少し高い位置に上げ、もう片方の手をそれより少し低い位置に置いて話をつづけました。
「そして今自分はこの位置にいるように思うかもしれない。でもね、最初の一歩は皆一緒なんだよ。人は海を前にすると、水面の中がどんな風になっているかわからないから戸惑う。でも、飛び込んで見ないとわからない世界がある。Shin、まずは一歩を踏み出すんだ。」
そう話してくれたのです。
この言葉で、私の夢に対する思いは一段と強くなりました。
「Shin、まずは一歩を踏み出すんだ。」という言葉は、今でも私にとって宝物です。
ずっとずっと心の中に残っていて、時折後輩たちへのアドバイスの際にこの話をします。
その後何日かして、京都にあるポールの家を訪れ、シナモンがかかった焼きリンゴをふるまわれ、初めて焼いたリンゴを食べたこともいい思い出です。
また、奥さんも紹介してくれ、別の日には奥さんが出演する舞台を見に行ったりもしました。
それから彼は奥さんと一緒にオーストラリアへ渡ってしまい、何度か手紙を交換して連絡をとらなくなりましたが、その後10数年の時を経てFacebookでポールを見つけオンラインですが再会することができました。
出会ったときから30年近くの年月を経た今、私は当時思いもしなかった道を歩めているように思います。
そんな自分に成長できたきっかけの一つに、ポールからもらった言葉が大きく影響しているのは間違いありません。
人との出会いは不思議です。
わずかな時間でも人生が変わることがあります。
私自身が、将来を夢見て頑張る若い世代の人たちに勇気を与えられる存在になれるよう、これからも自己研鑽に努めていきたいと思います。