前立腺癌3 手術編
いよいよ、治療です。
日程調整
手術は入院を伴うので、治療日を決める際は仕事の調整が必要です。私はそんな準備をしないまま、診察室でいきなり手術日を決めることになりました。
2023年12月10日に入院
翌11日に手術
退院は一般的には10日程度
大病院なので手術スケジュールが一杯で、この日を逃すと月単位で先延ばしになってしまうので、即決しないといけない雰囲気に押されて、仕事はなんとかなるだろうと見切り発車で入院日を決めてしました。案の定、仕事の調整が大変でした。準備不足でした。
ロボット支援 腹腔鏡下 前立腺全摘除術
私が受けた手術は、
「ロボット支援 腹腔鏡下 前立腺全摘除術」
というものです。
医療ロボット"ダビンチ"を使います。
このロボット手術は、2012年に前立腺癌手術から保険適用となった技術です。
お腹に小さな穴を開けて、ロボットアームを挿入します。アームの先端には3Dカメラや鉗子などが付いていて、お医者さんはモニターを見ながらアームを遠隔操作し前立腺を除去する術式です。
特徴
◯切開による傷口が小さい。
→出血が少ない
→傷跡が残り難い
◯精度の高い手術が可能
→高倍率3D画像を見ながら精密なアーム操作ができるので、精度が高い手術が可能
→隣接する健全臓器を痛めない。
手術の内容
①全身麻酔
点滴で全身麻酔をします。痛みはありません。あっという間に意識がなくなります。
②お腹に穴を開ける
お臍の右側に2箇所、左側に2箇所、右上に1箇所、お臍の直ぐ上に1箇所の合計6箇所を切開してロボットアームを挿入する穴を開けます。傷跡は横2センチ程度ですが、お臍直ぐ上の穴は前立腺を取り出すための穴なので縦4センチくらいあります。
③前立腺を摘出する
前立腺を摘出すると言っても、この辺りはたくさんの臓器が密着していて、簡単な話ではありません。前立腺の他に、精嚢、尿道、勃起神経、リンパ、膀胱、直腸などが関係してきます。
まずは射精の仕組みから。
陰嚢(睾丸)で作られた精子は精管を通って、途中で精嚢や前立腺から分泌液と混じって精液となり、尿道から体外に出ます。
国立がんセンター がん情報サービス
・前立腺
前立腺は、全て摘出します。
骨盤の一番奥、膀胱の直下にあり、尿道や射精管を取り囲んでいます。精液の一部に含まれる前立腺液を造る臓器です。
したがって射精機能がなくなります。
・精嚢
精嚢も全て摘出します。
前立腺上部に左右一対あり、精管と合流して射精管を形成し前立腺の内部を通って尿道につながっています。 精嚢液を分泌して射精時に精子と混ぜ合わせ精液を造る臓器です。
したがって射精機能がなくなります。
・尿道
前立腺を切除する際、尿道も一緒に切断します。そして、短くなった尿道と膀胱を縫合します。前立腺の大きさの分、膀胱が下がり、尿道が短くなるイメージです。
この傷が治るまでの約一週間は、尿道の先、つまり、陰茎の先から膀胱まで管を通して排尿します。これがなかなか大変で、痛くはないのですが、重いというか嫌な感触なのです。
術後数ヶ月間、尿漏れが生じるので、尿漏れパットが必要になります。
・神経
前立腺を切除する際、勃起神経も一緒に切除します。
したがって、勃起する機能がなくなります。
ネットでは、出来るだけ神経を温存して云々という情報を多く見かけますが、私の印象では、大概は無理なんだろうと思います。神経は前立腺周りに繊細に張り付いていて技術的に温存が困難のようです。命に関わる癌細胞を残さないことが最優先って感じです。
勃起不全、所謂EDです。若くて元気な方が手術を選択しない理由は、ほとんどコレではないでしょうか。ちゃんとセックスできなくなるということ、男として役に立たないという精神的なダメージが大きい後遺症です。このあたりは、家族らの意見と本人の意思とが乖離しがちなことのようですが、私の場合は、あまり深く考えなかったです。家族や医者と話しているうちに、なんとなく、自分の状況では手術がベストのように感じて、次々と進んでいきました。
・リンパ節
癌が前立腺の外側まで広がっている場合は、前立腺周りのリンパまで取り除きます。
私の場合は、一応、前立腺内に癌がとどまっているという診断だったので、リンパは残す方針になりました。もし、リンパも切除する場合は手術時間が数時間延びるそうです。
・膀胱、直腸
膀胱や直腸は、前立腺の直ぐそばにあるので、手術で傷付く可能性があります。
特に直腸は膜一枚程度しか離れていないので手術が難しいそうです。
放射線治療の場合は、どんなに慎重にやっても、膀胱と直腸への照射は避けられないようで、15-20年後に放射線障害が後遺症として出てくるようです。
前立腺、精嚢らを取り出した後は、お腹の傷口を縫合して手術は終了となります。
手術前説明
手術の2週間前、麻酔科の先生から様々な説明を受けました。
結構な大手術なのでリスクもあるが、ちゃんと対処するので安心して大丈夫ということで、次のような話をされました。
◯麻酔の話
全身麻酔をする。麻酔技術は近年とても進歩していて、10年前の薬はもう使われてないくらい。何種類もの薬を点滴投与してコントロールする。投与を開始すると直ぐに意識が無くなり、手術終了後、麻酔投与を止めるとこれまた直ぐに意識が戻る。その後は体に残らないので後遺症もない。
◯眼や歯の話
普段飲んでいる薬や持病の確認は当然だけど、驚いたのは、眼や歯の健康状態まで聞かれます。
眼については、手術中は仰向けで頭側が下がる姿勢を長時間とることになるので、眼圧が上がり、最悪は目の毛細血管が破れる場合もあるそうです。怖い怖い。
歯については、呼吸確保のために口から喉に管を突っ込むので、その際、歯がグラグラしていると、ポロッと気管に落ちて危ないとのこと。これも怖い怖い。
◯二酸化炭素の話
腹腔鏡手術では、お腹の中の視野を確保するために、お腹を二酸化炭素でパンパンに膨らませます。二酸化炭素は無害で、手術後数日で自然に体内で吸収される。手術後に運動するとより早く抜けるとのこと。
つまり、手術にはリスクがあって、それらをクリアするだけの体力が必要なんだと実感しました。
僕はある程度若くて、体力があって、大きな持病もなかったことから、手術という治療方法を選択できた訳で、これはラッキーだったと考えるようにしました。
治療方法の選択枠を広げる意味でも、健康は大切なんですね。
手術日の一日
2023年11月11日
手術当日の経過です。
◯8時30分 手術準備
入院病棟の病室で紙パンツ、弾性ストッキング、ガウンを着用後、手術セット(服帯、吸口)を持って、家族と一緒に手術棟へ歩いて移動します。手術棟入り口で家族とさよならし、ここからは一人です。薄緑色の薄い生地でできたオペ着、オペ帽子を身につけて、一人不安になります。
手術棟は、病棟と雰囲気が一変。広くて長い廊下の両側に鉄色の自動扉が12箇所ほど整然と並んでいます。医師、看護師の服装も一般病棟と違い、まるで医療ドラマのような緊迫した世界です。
各扉の奥が手術室ですが、僕には大きな火葬場に見えて、自分は今から焼かれるんだな、と一瞬嫌〜な気分になりましたが、考える暇もなく、二人の若い女性医師がテキパキと僕の体に様々なセンサー器具を付けていきます。いつの間にか手術台に仰向けに寝ていました。
オペ着は、いちいち脱がなくてもセンサーが取り付けられるように、要所要所にスリットが入っていて、うまくできてるんだな〜と天井を見ていたら、数秒"眠いかも"と思った途端、聞こえる音が遠ざかり意識を失っていきました。全身麻酔凄し。
◯09時 手術開始
〜
◯14時30分 手術終了
5時間半の手術が終了。
◯16時30分過ぎ 麻酔から覚める
うつらうつら、妻のホッとした笑顔が見えたのと、何かを話しかけてくれたことは覚えてきます。痛みが強くて苦しくて、その後すぐに、また眠ってしまいました。
◯17時 HCUへ移動
翌朝目が覚めたと思いきや、17時頃だったはずです。頭が混乱してます。手術台から車椅子に移るのが一苦労。身体に管がたくさん繋がっているし腹が痛くて動けない。麻酔でふらふら。頭はモヤモヤ。若くて美人の看護師さんに相当介助してもらってなんとか車椅子に移り、手術室からHCU(High Care Unit、高度治療室)へ移り、今晩ここで一泊します。
この時の僕の体に繋がっていた管はこんな感じです。
・飽和酸素濃度計→手の指先
・鼻酸素吸入→鼻
・点滴(+麻薬)→ 左手の甲
・尿を出す管→陰茎の先っぽ
・血液を出す管→右腹
正直、予想以上に大変な手術だと実感しました。もっと簡単に考えていました。
HCUでは、たくさんの管で不自由なのと、傷跡があちこち痛むのと、全身麻酔後の影響か医療用麻薬の影響かわかりませんが意識がはっきりしないこともあり、なかなか不安な状態でした。
ただし、HCUでは看護師さんが常に体調を見ていてくれるという安心感もあり、医者や看護師に身を委ねる"まな板の鯉"状態なので、ある意味、気は楽です。痛い時は痛いと言えば良いし、仕事の悩み事から解放された気楽な状態とも言えます。
手術日の一日はこうして終了しました。