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再会
そうだ、彼に会いに行こう
彼なら手を貸してくれるだろうか。
10年振りの再会となる。手を伸ばしたらこの手を掴んでくれるだろうか。
初めて小説を書いてから早10年。この10年間物語は考えたものの、文字に起こすことは無かった。だが今年、友人からの誘いで小説を書くことになった。とはいったものの前から小説を書くのが得意だった訳でもないし、今となっては案すらない。なので当時書いていた小説の登場人物に助けを求めることにした。
確か引き出しの奥にノートが…あったあった。
どうして開くのも嫌なノートを置いているのだろう。こういう時のためだろうか。とりあえずノートに語りかけてみる。この物語の主人公の名前はレイジか。学生が考えそうな名前だな。イタイイタイ……。この物語は夢で起きたことが現実で起こるというホラー系の物語だ。最初で最後の小説のつもりだったのになぁ。
「レイジ、久しぶり」
「おや、作者さん。10年ぶりだねぇ。10年も放置してて何の用で?」
ごもっともです。すいません。
「また小説を書くことになりまして、どんな感じだったかなと」
「なるほどねぇ。それで一度しか書いたことないけど俺を使おうと?」
「…はい、そです」
こんな子だったっけ?今にも食われそうな雰囲気なんだけど。
「まぁ、いっか。俺も退屈してたし、久々の再会だ。楽しもうじゃないか」
前言撤回!いい子じゃないか!優しい子に育ってた!
「んで、案あるの?」
「全く。1000字位の小説を1つ書く予定ってくらい」
「最近楽しかったことは?」
「家と会社の往復で特に何も」
「物語にできませんねぇ」
「歳をとると発想力なくなるのかもね」
「そんなことないだろう」
バイアス発言でした。すいません。
「普段アイディアが浮かぶのはどこ?」
「お風呂か布団のどちらか」
「今夕方だけどお風呂入るか?」
「夜入るし、夜に寝る」
「だよなぁ、なら映画でも見に行く?」
家から映画館までは1時間。映画を観て帰ってきたときにはもう夜。そこから夕食食べたら……。
「明日仕事だし、今日はやめとく」
「賢明な判断だ」
他の物書きさんはどうやってアイディアを出して物語を進めていくのだろう。起承転結なんて考えて作ったことないもんな。というか1回しか物語書いたことないし。
「いっその事このやり取りを物語にしてみるのは?」
「レイジ、それはいい発想だ!」
結果的にレイジは手を貸してくれた。ありがたい限りだ。次もお願いしようかななんて思っていると
「次からは1人で頑張れよ」
手を伸ばしても空を掴むだけだった。