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記憶の行間

1976年の夏、真新しいキヤノンAE-1とカリフォルニアを旅したことがきっかけで写真にはまった僕にとって、この曲は特別な存在感のある曲です。想い出を振り返る意味ではなく、ずっと「ing」のままなのです。

サンタモニカからサンフランシスコ、ヨセミテ、ロサンゼルス、アナハイムと建国200年のアメリカをめぐりました。
AE-1はこの旅のため親から買い与えられたもので、中学生にとって一眼レフなんて宝物です。レンズは50ミリF1.4と135ミリF2.5。スピードライトとワインダーもセットで。フィルムはコダカラーIIを十数本、X線防止のフィルムシールドに入れて持っていきました。
カメラを買ってもらったのは6月下旬だったので渡航前に1ヶ月以上練習する期間があったのですが、まだビギナー。本番で致命的なミスを犯します。

映画ファンの僕にとってディズニーランドやナッツベリーファーム、ヨセミテよりも楽しみにしていたのがビバリーヒルズ。許可されたエリアでたくさん写真を撮って大満足だったのですがホテルへの帰路、なんとフィルムを巻き戻さず裏蓋を開けてしまったのです。
「やば!」
すぐ閉じたのですべてのコマが感光してはいないだろう、なんてその時は気楽に考えていました。だから撮り直しにも行かず、翌日は翌日の予定通りの行動をとりました。

夏休みが終わり、帰国して現像から上がってきたフィルムを見て大ショック。ビバリーヒルズで撮った写真はものの見事にすべて感光していました。

ちょうど僕がカリフォルニアを旅していた頃イーグルスが『Hotel California』をマイアミでレコーディングしていたようです。リリースは12月。日本でも広く聴かれるようになったのは翌年シングルカットされてからのことだったと記憶しています。

ラジオから流れるこの曲は写真を始めるきっかけとなったカリフォルニアの旅とともに、心にやきついています。アルバムのジャケット写真に使われたホテルはビバリーヒルズホテルです。

残念なことに一枚も写真が残っていないビバリーヒルズ。あの体験は「撮らなかったもの」「撮れなかったもの」に限って鮮烈に心にプリントされてしまうことを教えてくれました。僕の写真は、一枚で決める写真ではないと思っていて。僕の写真は、記憶の行間にあるのかもしれません。

『Hotel California』を聴くたび最後のフレーズに胸を打たれます。物語の主人公が出口を求めてホテルを走り回っていると警備員にたしなめられる、例のフレーズです。 

写真からチェックアウトできずにこの夏で49年が過ぎます。

Canon AE-1  model:水上涼菜/タンバリンアーティスツ


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