夏の終わり頃からだったろうか 悩んだり迷ったり苦しんだりすることが多くなった そんなとき優愛さんから 「可愛く撮って」 東京国際フォーラムとか なまいきリボンスタジオとか ふだん撮る写真のスタイルからしたら絶対無縁な所へ 優愛さんが行きたがるから 生まれて初めて行ってみた 柄にもないことをした でも 楽しかった 芸能人を撮る仕事は気に入った写真があっても自由に使えない そこでプライベートのポートレート撮影を始めたのが6年前 そして5年前に出会ったのが優愛さんなのだが そ
今回ではなく過去、仕事で松永さんを撮った日 スタッフさんたちと休憩に入ったカフェで 胃の激痛に襲われた 痛みを秘してなんとか撮影だけは終えた そして1ヵ月後 僕は深夜、血反吐とともに救急車で搬送された 7時間半におよぶ手術を受けた だからその時の撮影の記憶はほとんどない 本能だけで写真を撮っていたのだ 僕が僕であるために 写真だけは撮らねばならなかったから いつか松永さんを撮り直したいと思っていたけど 彼女がアイドルをやめてから機会がめぐってきた 松永梨加が松永梨加で
19歳まで尾道で育った彼女はその後も何年か広島で過ごし 今年の夏に東京へ移り住んだ 何かを探すような目をしていて とても惹かれるものを持つひとなのだ 撮り手である僕は彼女の親御さんより歳上なのだが 東京しか知らないときてる その代わりといってはなんだが 僕の父親はホスト 母親はダンサーからクラブ経営という家に育ち 親の商売の都合で都内だけでも十数回引っ越してる この東京という場所で彼女を撮ることによって 何かを探し続けるひとの 物語を綴れるのではないかと思った 生きること
