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最近の記事

登った山を降りた先にーー『音楽と生命』坂本龍一×福岡伸一(集英社/2023年刊)

音楽家・坂本龍一と生物学者・福岡伸一の対談集。 全体は3部に分かれており、根底に流れるテーマは「ロゴスとピュシスの対立」で、トークテーマとして明確に打ち出されているわけではないのに、二人が話しているとどうしてもそこに収斂していくのが面白い。 ロゴスとは言い換えれば言葉であり、論理であり、人為であり、再現性であり、脆弱性。 ピュシスとはそれ以外。人間を含む自然のことを指す。 人間は元来自然な存在であり、ピュシスに属しているが、同時に脳の構造的な傾向、つまりロゴスから逃れるこ

    • 『十一人の賊軍』(白石和彌監督/24年11月1日公開)

      ネタばれ含みます。 舞台は明治時代の始まり、戊辰戦争下の新発田藩(現在の新潟県新発田市)。 薩長を中心とする新政府軍を支持するか、地縁のある奥羽越列藩同盟に与するか。あえて曖昧な態度を貫き出来るだけ領内に戦火が及ぶことを避けようとしたのが新発田藩の首脳陣で、状況が進むにつれ新政府軍の優勢が明らかになると、加勢を迫る奥羽越列藩同盟に対して距離を置く必要が出てくる。 そうした中でトカゲのしっぽ切りとして用いられたのが本作の主役となる「決死隊」であり、新発田城下に囚われていた

      • 江古田コンパーー行動こそ人生だという話

        西武池袋線「江古田駅」。創業は1968年になるという江古田コンパ。 入店すると下ネタのシャワーを浴びせてくる女性バーテンダーのNさん。なんでもパズルが趣味だそうで、店内にはご自身で仕上げたものが至る所に飾られている。嫌いなものはテレビ。「なんでも自分でやんなきゃだめよ」がモットーのようである。 そんなNさんが好ましい目線と語り口で捉えるのが男性バーテンダーのHさん。ふらっとカウンターにやってきては手品を披露してくれたり、絵を描かせてくれたり、頭をどうすっきりさせるか秘訣を

        • 小庭のアボカドーー土壌を破壊する悪魔の果実

          1年ほど前、家人が庭に植えたアボカドが思いのほか成長し、すっかり大きくなった。 一方、その周囲の草花たちはすっかりしおれてしまい、噂通りの「悪魔の果実」ぶりを発揮している。 一粒の種がここまで生態系にインパクトをもたらすのだ。 アボカドは脂肪分が多く、「森のバター」と言われているらしい。色合いや風味、舌触りに独特のものがあり、日本でも人気の食材となって久しい。 その原産地は南米であり、はるばる海を越えて運ばれてくる。日本語を母語とする我々の多くにはなじみがなく、そこに

          異質な他者との出会いが人生を変えるーー映画『グリーンブック』(2018年公開)

          舞台は1960年代のアメリカ。 黒人ピアニストのドクター・シャーリーと、イタリア系アメリカ人のトニー・ヴァレロンガの二人が、人種差別が色濃く残るアメリカ最南部をめぐった演奏ツアーの様子を切り取ったもの。 タイトルの『グリーンブック』とは黒人が宿泊可能な施設のリストを指す言葉であり、作中たびたび登場するレストランの入り口にも「COLORS ONLY」という看板があったりする。 シャーリーは貧しい家に生まれたがその音楽の才能を見込まれ、援助を受けながら音楽大学への進学を果た

          異質な他者との出会いが人生を変えるーー映画『グリーンブック』(2018年公開)

          「能力」は個人の所有物ではないーー鈴木宏昭『私たちはどう学んでいるのか』(ちくまプリマー新書/2022年刊)

          『急に具合が悪くなる』(宮野真生子×磯野真穂/晶文社/19年刊)に続き、これも編集者であられる井上慎平さんのエントリーを通じて知った本。 そもそも井上さんを知ったのは『キャリアづくりの教科書』(徳谷智史/NewsPicksパブリッシング/23年刊)がきっかけ。実にエモーショナルで美しい本。自分自身のキャリアに悩んでいる方はもちろんだが、マネジメントの立場にあられたりとか、周囲に「この人もったいないな~」と思うプレイヤーがいるような方もぜひ。損するとか得するとか以前に、こうい

          「能力」は個人の所有物ではないーー鈴木宏昭『私たちはどう学んでいるのか』(ちくまプリマー新書/2022年刊)

          「いま」が生み落とされる瞬間の美しさーー宮野真生子×磯野真穂『急に具合が悪くなる』(晶文社/2019年刊)

          編集者であられる井上慎平さんのエントリーを通して出会った一冊。 今日手に取ってまだ読みかけだけど、左胸のあたりにぐさーっと刺さったのでメモを残しておく。 たぶん追記すると思う。 癌になった(という表現自体が非常にナンセンスだけど)哲学者・宮野真生子さんと、その後輩的立ち位置であられる人類学者・磯野真穂さんとの往復書簡という体裁。 タイトル通り、「急に具合が悪くなったら」あなたはどうするーー?という備える方向ではなくって、「急に具合が悪くなるかもしれない」自分なんて、そもそ

          「いま」が生み落とされる瞬間の美しさーー宮野真生子×磯野真穂『急に具合が悪くなる』(晶文社/2019年刊)