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彼女のチョコレートテリーヌ
お客さんに思い入れのある一品があるように、お店側にも思い入れのある一品というものがあります。
物語を消費されるのは嫌なのでおおっぴらには言わないけれど、通っている人たちにだけ「実はあれはね…」とこそっと耳打ちしたくなるのです。
それなりの年月を続けている個人商店は大体そうである様に、もれなくクラシックでもいくつもの物語の続きを引き継いでいます。
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最近、数年ぶりに出しているチョコレートテリーヌは"彼女"から受け継いだレシピ。(この皿も。普段はプリンを型から外す時に受け止める重要な役割を担っている)
4年ほど前からクラシックとお付き合いがある人たちは、この皿に見覚えがあったり、食べたことがあったり、"彼女"というワードでピンとくるかもしれない。そう、今はなきあのお店。
私たちは毎週定休日の夜にここに着地して、ケーキを半分こして休日を締めるという日々を過ごしていたのでした。
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ここ数年、滅多に食べ物の写真を撮らないけれど過去の自分よ、気まぐれで撮っておいてくれてありがとう。何気ない日々の記録が宝物になる可能性があるのですよね。急逝した妻のおじいちゃんのアルバムをパラパラめくりながら、早く写真を自由に撮ってもらえるようにしたい(現状はおひとり1枚まで)と強く思ったのでした。もう大丈夫だろうか。いや、まだ早いか。
この投稿はSNSで流れてくる情報から、一歩先へ能動的に更なる情報を取りに来る人がどれくらいいるのかという実験を兼ねています。
ようこそ。時間を使ってここまで文字を追って頂き嬉しいです。ありがとうございます。
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Instagramブームが最も加熱していた頃に苦しみを分かち合った彼と彼女。年末に数年ぶりに顔を見て、時計の針を進めたくなりました。
「彼女が教えてくれたんだ」そうやって耳打ちで伝わっていくようにとSNSの時代に彗星の様に現れ、去っていったお店。
昔ながらのという意味も持つclassicという言葉。クラシックがその物語の続きを引き継いで、昔ながらのこそっと耳打ちで伝えたくなる様な店で在り続けられたらなと思います。
もうひとつレシピを託されているのですが、いつか出した時、それは何も知らない人は新しいメニューだなと思うだけ。食べた事のある人だけが再会できるように内緒にしておきます。
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