必要とされるもの
アメリカを旅した時のこと。
物流従事者ということもあり、どうしても道行く貨物車に目が行ってしまう。
インターステート・ハイウェイ(州間高速道路)など、長距離輸送に従事するトラックはもっぱらアメリカ製なのに対し、都市内での配送車両(日本でいうところでは、スーパーの配送で使われる4t車のイメージ)はもっぱら日本製。
帰国後、お付き合いのあるトラックメーカーの営業マンに尋ねたところ、明確な答えが返ってきた。
「アメリカ製のトラックのエンジンは長距離の巡航に向いているのに対し、日本製のトラックのエンジンはゴー・ストップが多い、配送や信号待ちで止まったり動いたりを繰り返す動きに向いているんです」
即座に、日本とアメリカの地理的な特徴の違いが頭に浮かんだ。
それぞれの国の地理的事情の違いが、それぞれ異なる強みを持つエンジンを生んだのかと思うと、やはり「必要は発明の母」なのだと強く実感し。
近年、日本では中国製の電気バスが各地で導入されている。
この件については、政治的な主張や民族的国家的な感情も絡みつつ、日系メーカーから購入しない、そもそも作っていないことに対する批判もよく見聞きする。まぁ確かに、かつて韓国製のディーゼルバスの導入がぽっしゃった時のようなことと同じことが起こる恐れは否めないのは事実だとは思う。
まぁしかし、韓国製のバスが日本でうまくいかなかったのは、アフターフォーローの戦略が不十分だったこと、あとこちらもやはり、韓国のバスのチューニングが日本の道路事情や乗務員さんの「なれ」にフィットしなかったことの方が大きいのではないかと感じ。
韓国で路線バスに乗りまくった経験からすると、必ずしも韓国のバスが「悪かった」のではなく、「日本に合わなかった」という方が正しかったのではないかと感じるところもあり。
話が横道に逸れてしまったけれど
中国製の電気バスが、近所の路線バスを担当するバス会社の営業所に配備され、私も時々乗る機会が巡ってきた。
私ももの好きなので「わざわざ」乗ってみたりもした。
その時に感じた率直な感想。
「……これ、トロリーバスだな」
私は、黒部アルペンルート、およびサンフランシスコでトロリーバスに乗車した経験がある。
乗り心地はまさしく「トロリーバス」と似ていると感じた。
まぁ、考えてみれば、その感想は間違っていないはず。いや、専門家の人に言わせれば「当たり前だろ」と突っ込みを受けるかもしれない。
飽くまで電気を「バッテリーから供給を受ける」のか「電線から供給を受ける」のかの違いであって、「モーターで駆動する」のは同じなわけだから。
トロリーバスはアメリカでも多数運行されているけれど、日本人の間では「共産圏の国々」で運用されている場合が多い、というイメージを持つ人も多いのではないか。
確かに、旧東側の東欧諸国、北朝鮮と聞けば「トロリーバス」をイメージする人はそれなりにいるかもしれない。
そこで、ふと、昔読んだ鉄道ジャーナルの記事を思い出したのが。
20年以上前の記事。
中国もかつてトロリーバスが多数運行されていたものの、20年前の当時、街の景観などの問題で電線を撤去せざるを得ず、トロリーバスの運行に支障が生じたケースが出てきたそうで。
その時にとられた対策というのが
「バッテリーを積んで、電線のない区間はトロリーポールをたたんで運行する」というもの。
記事を読んでいて「ディーゼル転換しないんだなぁ」という程度の感想しか持たなかったけれど、でもおそらくすでに当時、中国の大都市の大気汚染が問題になっていたから、簡単にディーゼル転換というわけにもいかなかったのだろう。
いずれにせよ、ここで感じたのが。
「待てよ。考えてみれば中国はすでに20年以上前から、バッテリーを積んだバスを作らざるを得ない状況に追い込まれていたんだ」ということに気づいたわけで。
冷静に考えれば。
黒部のアルペンルートのトロリーバスはいわば「特殊品」。
日本はすでに1970年代にトロリーバスを都市交通としては見放し、以降バスはディーゼルバスを中心に運行を行っており。
日本はむしろ、ディーゼルエンジンを積むことを前提としたハイブリッド車に傾倒しており、やはり「ディーゼルエンジンに対するこだわり」を強く感じるわけで。
いずれにせよ、そもそもトロリーバスを作っていた中国からすれば、純粋な電気駆動バスの技術は持っているわけで、要するに電源供給をどうするかだけの問題であり。
ただ、調べてみると現在展開しているBYD社とトロリーバスを製造している会社とは接点があまりなさそうで、私が主張した説は的外れなのかもしれないけれど、ただ1点言えるのは、架線によらない電気バスの実用的な利用という意味では、中国も比較的昔から取り組んでいるというのは事実であり、そういう意味では、確かに電気バスは中国の方が強いかもしれないという考えに至るのは本音であり。
5年後、10年後辺りにはこのあたりの結論も見えてくるだろうから、しばらくは、近所に導入された電気バスの動向を、静かに見守っていこうと感じている今日この頃。
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