Blog goes on (あるコーヒー焙煎人のこと)
まずは、2020年に書いた以下の文章を読んでいただきたい。
ーー以下ーー
2020年の秋は進んでいる。
コーヒー焙煎人の中川ワニさんのことを知ったのは、高校1年生の時だった。
当時、ファッション誌の「smart」でオシャレな人の部屋紹介みたいな特集記事があった。
今でも覚えているのだが、その雑誌の表紙はいしだ壱成さんだった。
ええ。そうだったよ。
ミュージシャンや服屋さんとかの部屋が紹介されている中に中川さんの部屋もあった。
当時のワニさんの肩書きは絵描きでコーヒー焙煎人だったような気がする。
(確か)古いアパートの一室には、ジャズのレコードが沢山あり、さらに焙煎機、絵などがあり、当時の僕はこれこそ憧れの部屋やん!将来はこんな感じがいいねん!などと思っていた。いや、ほんとに。
そうこうしているうちに、大学生になった。
当時付き合っていた子に中川ワニ珈琲の豆をもらった。
なんでくれたのかはわからない。
でも、ほんとに申し訳ないが、コーヒーミルもなかったし淹れることもなく、そのままダメにしてしまった。
今でも忘れられない。
その後は、ワニさんと関わることもなく、長い時間が経った。
2015年、今から5年以上前に思い立って、珈琲サイフォン社が主催するセミナーに参加した。
珈琲サイフォン社がある巣鴨で2日間という日程のセミナーだった。
河野社長や金澤珈琲の金澤さんに、色々と教えてもらうことができた。
そのセミナーに僕と同じく大阪から参加していたTさんと知り合いになった。
インスタでTさんと繋がっていたら、Tさんのフォロワーの中に中川ワニさんがいた。
あっ、あの中川ワニさんや!
久しぶりにワニさんのことを思い出した。
ワニさんのインスタは、CDのジャケットの写真とともに、そのCDの所感と日々の生活が備忘録的に、あるいは散文的に書かれていた。
今はこんな感じで音楽を聴いてはるんやな〜と眺めていた。
そんなこんなで、なんやかんやしてたらまた時も過ぎていきますわね。
2019年の春頃、僕の所属するバンドでアルバムをリリースするかもみたいな話になった。
マスタリングも出来上がっていなかったけど、ワニさんのCDの帯の文章を書いて欲しいなと思い、酔った勢いもあり、インスタのDMでメッセージを送ってみた。
帯の文章を書いてもらえませんか?と。
非常に失礼な話だったのに、ワニさんはとても真摯に対応してくださった。
せっかくの話なので、ラフミックスを聴いてからでもいいですか?と。
僕みたいな奴からのメッセージにもちゃんと対応してくれて嬉しかった。
返事が来ただけでとても嬉しかった。
しかし、だがしかしである。アルバムは、思うように仕上がらず、2年経った今もお蔵入りしたままである。
出来上がりが遅くなっている旨、ワニさんに連絡したら、ゆっくり良いものを作ってくださいと言ってくれた。
中途半端なことをしたのに、本当に温かい人だと思った。
と同時に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
そんな時、中川ワニ珈琲をまだ飲んだことがないんだと気づいた。
(何てことだ)
インスタのDMからください送ってもよかったんやけど、そもそも正規ルートはどうなっているのだろうと調べてみた。
インターネットで中川ワニコーヒーと調べてみると、中川ワニさんの奥さんが管理しているFacebookのページに行き当たった。
そのページに載っていたGmailのアドレスにメールを送ってみた。
豆200gくださいと。
それから何度か豆を買っている。
いつも豆が届くのを妻共々楽しみにしている。
話は変わるが、大阪に中川和彦さん(同じ中川さん!)という方が経営されている「スタンダードブックストア」という本屋がある。
2018年にアメ村で営業していたお店をたたんで、今は天王寺で営業されている。
天王寺の店舗を開店するにあたってクラウドファンディングをしていた。
僕は好きな本屋さんだったので、少しでもサポートできればと、僅かながら寄付した。
ある日曜日の朝、ふとスタンダードブックストアのことが気になり、というのもコロナで開店を延期していたからなんだけど、どうしてるのかなーとネットで検索してみた。
お!もうやってるやん!
ということで、早速行ってみた。
結果から先に言うと、新しくなったスタンダードブックストアで、僕は中川ワニさんの本を買ったのだ。
ナカガワワニジャズブックという、小さな絵本のような装丁のその本は、ワニさんの、何というかジャズ対する思いというか愛というか、姿勢というか、そういったものが沢山詰まった素晴らしい本だった。
今はレコードは聴いていないこと、CDショップで現代ジャズを中心に良盤を探していることなどを知った。
すっと読み進めていける文章が素敵だった。
僕は思った。「うわ、なんてすごい人にアルバムの帯に文章を頼んでしまったんだ」と。
40歳を目前にした若気の至りとは、このことである。
恥ずかしい。
これからもワニさんの焙煎したコーヒーを楽しみにしながら、ジャズブックに載っているCDをちょっとずつ聴いていきたい。
できることなら、会って話を聞いてみたい。
それは、今いる場所から遠く離れていることように思われるが、実は地続きでもあるんじゃないか。
そう思うことにしたコロナ禍の秋。
ーー以上ーー
その後の話を少し書いておきたい。
バンドはその後もふにゃふにゃしながら、なんとか踏ん切りをつけて、2022年1月1日にセカンドアルバム『Mouthtache』をリリースすることになった。
ワニさんに帯の文章をお願いした件をそのままにしておくことが、どうしても気持ち悪くて、ラフが仕上がった時点で再度連絡した結果、CDを送ることになった。
確か2021年の秋頃にCDを送ったのだが、しばらくリアクションがなかった。
連絡をとってみると、「CD‐Rを再生する機器が自宅にないので、算段している」ということだった。
あっ、またこちらの都合で面倒をかけているなーと申し訳なく思った。
ちゃんとしたCDではないもんなと。
とにかくゆっくりとワニさんのペースで聴いてもらおうと、2022年の1月にアルバム自体はリリースしたものの、その後も返事を待っていた。
定期便で購入しているワニ珈琲の豆が届く際には、いつもワニさんからのお手紙が入っている。
そのお手紙には、ようやくCDを聴くことができたこと、感想は改めてちゃんと送ることが書いてあった。
僕からは、お手数をかけて申し訳ないことを手紙で返事した。
そうこうしていたら、僕が指に怪我を負い、入院してしまった。
インスタの投稿で僕が入院したことを知ったワニさんは、珈琲豆の定期便を送る時期を敢えてズラしてくれたりした。
ワニさんは優しかった。
退院してからは、自分のことで精一杯でいずれワニさんの手紙が届くということが頭から消えてしまっていた。
あるいはもう来ないかもしれないなと思っていたのかもしれない。
通院、リハビリを続けながら、なんとか仕事にも復帰し、2023年を迎えた。
少しずつ春に向かっていく中、ワニさんからの手紙が届いた。
2019年3月に突然話を持っていってから、実に4年の歳月がたっていた。
何度もその手紙を読み返した。
便箋にびっしり書かれた文章は、正直耳障りの良くないコメントも含まれていたが、我々を表現者として扱ってくれた上での叱咤激励だった。
正直に伝えていただいたことへの感謝と、この文章を書くまでに何度も我々の音楽を聴いていただけたことに尊敬に似た念を抱いた。
少し間があいたが、ワニさんにお礼の手紙を書いた。
コロナ禍もあけ、ワニさんは台湾やロンドンなどを旅していることをインスタグラムで知った。
次にアルバムを作れることがあるなら、またワニさんに聴いてもらいたい。
その時には『僕たちにしかできない音』を表現できるように。
2023.6.29
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