「必勝しゃもじ」の何が悪い?当のウクライナ人たちの思いを聞いてみよう
3月21日、岸田首相はウクライナを訪問しゼレンスキー大統領と会談した。ロシア軍による虐殺のあったブチャで献花もしたわけだが、同時期にプーチンと習近平による中露首脳会談が行われていたタイミングであったことも重なり、岸田首相のウクライナ訪問は成功に終わったと私は考えている。
岸田首相キーウ訪問「効果的」 習氏訪ロと重なり 本格検討年明けから(時事通信) - Yahoo!ニュース
岸田総理大臣のウクライナ訪問|外務省 (mofa.go.jp)
さて、岸田首相はウクライナ訪問時、彼の地元広島県産の「必勝しゃもじ」をゼレンスキー大統領に贈呈したのだが、この行為について野党の国会議員から少なくない批判を受けている。
何をくだらないツッコミを入れているんだ馬鹿政治家どもがと思ってたまらない。
例えば、次のツッコミなんてスゲー馬鹿馬鹿しいんだけど?
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●立憲民主党 石垣のり子(※岸田首相との国会でのやり取りから)
石垣「必勝というのはあまりにも不適切ではないかと思うんですが、その点いかがでしょうか?」
岸田「ウクライナの方々は祖国や自由を守るために戦っておられます。こうした努力に対して我々は敬意を表したいと思いますし、我が国としてウクライナ支援をしっかり行っていきたいと考えております」
野党 “必勝しゃもじ”めぐり追及 ゼレンスキー氏への土産品(日テレNEWS) - Yahoo!ニュース
……私は「必勝しゃもじ」の何が問題なのか全く分からないし、岸田首相の考えに全く同意するのだが(上記の切り返しについては物足りないくらいだ)、しかし石垣のようにツッコミを入れる政治家が後を絶たない。以下に気になる例をいくつか紹介する。
●立憲民主党 泉健太代表
「戦争中の緊迫した国家の元首に受験やスポーツの応援で使われている『必勝しゃもじ』を贈るのは違和感が拭えない。験を担いで今のウクライナに『もっと戦え』『必ず勝て』というメッセージを送るのか」
「日本の国民の税金を使ってウクライナを支援しているのに、地元の名産品をアピールしている場合ではなく緊張感のなさを露呈した。国民を代表して電撃訪問したのであれば、日本全体としての支援をアピールすべきだった」
ウクライナへ“必勝しゃもじ” 立民 泉代表「違和感拭えず」 | NHK政治マガジン
●日本維新の会 馬場信幸代表
「一言で言ってノーセンス。ゼレンスキー大統領は毎日生きるか死ぬか、生死を賭けた戦いをしている。命をかけている。だから、お邪魔する側は相手側の立場をおもんぱかって、どういう精神状態でどういう日々を送っているのか考えてお邪魔しなければならないことを私はずっと言ってきた」
「向こうが生きるか死ぬかの戦いをやっている、そのサポートを向こうは求めているわけだから、そういう場に地元の名産だということでしゃもじを持って行くのは、ちょっとお気楽すぎる。私なら怒る」
必勝しゃもじ贈呈に「お気楽すぎる。私なら怒る」 維新・馬場代表 [維新]:朝日新聞デジタル (asahi.com)
●立憲民主党 蓮舫
官邸スタッフ、総理側近、外務省までもが今のウクライナの状況で「必勝しゃもじ」を贈呈することに意見はしなかったのだろうか。
選挙と戦争の区別がつかないとしか思えないのです。
誰も止めない、身内が秘書官でいるのに彼も止めない、本人も躊躇しなかったのだろうか。
●立憲民主党 小沢一郎
岸田首相、ゼレンスキー大統領に「必勝しゃもじ」と折り鶴ランプ贈呈
多くの命が犠牲となる戦争というものの本質を、全く理解していないからこそ、このような無神経なことができる。言葉も無い。戦争をまともに理解できない人物が、防衛費を倍増。総理をやってはいけない人。
●(ついでに)タレント ラサール石井
これ日本ではどう使うものか説明したのか。家を追われまともな食糧もない「戦地」だぜ。 しかも戦争放棄を謳う国の総理が、侵略された国に「必勝」って。祈るのは平和だろう。
岸田首相、ゼレンスキー大統領に「必勝しゃもじ」と折り鶴ランプ贈呈
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以上だ。
どれも何だか「違和感を拭えない」「ノーセンス」で「お気楽すぎる」コメントばかりで「私なら怒る」レベルなのだが、まぁいい、では当のウクライナ人が「必勝しゃもじ」についてどのように思っているのか見てみよう。当事者たちがどのように思ったのかが一番大事な筈だからね。
さて、ウクルインフォルム編集者の平野高志氏のツイッターによると
ツイッター上で、私の周りのウクライナ人たちに、私の必勝しゃもじ解説記事を(多分)読んでもらった上で「日本の首相のそのプレゼントをどう評価しますか?」と質問した結果は以下のとおり。
肯定的 88.2%
否定的 0.6%
中立的 4.2%
回答困難 7.0%
――という結果になったそうだ。
岸田は訪問中にゼレンスキーに何を与えましたか? (ukrinform.ua)
まぁ、この結果が大方のウクライナ人の考えだと想像するのだが、ウクライナ人それぞれの思いを見てみることにしよう。
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●駐日ウクライナ特命全権大使 セルギー・コルンスキー氏
これからは、日本からの贈り物として「必勝しゃもじ」がとても喜ばれます。私はまだ持っていませんが))))
●国際政治学者 グレンコ・アンドリー氏
必勝しゃもじの件で「大変な状態にあるウクライナ人に『勝て』と言うのは可哀想だ」とか、ウクライナ人に寄り添うふりをして、岸田首相を批判する人達は本当にモラルの欠片もないのですね。彼らにとって、ウクライナ人の命など、本当にどうでもいいです。ウクライナの悲劇を利用して、自分達のイデオロギーを広めたいだけです。(※一部修正:筆者)
ウクライナ人の常識では、平和や終戦は、勝利という形でしかあり得ないのです。勝利以外の形での平和や終戦は敗北の意味をしています。敗北はロシアによるウクライナ民族のジェノサイド、そして絶滅という結果に繋がります。
●政治評論家・コメンテーター ナザレンコ・アンドリー氏
10人中9人のウクライナ人は、「平和を願う」より「勝利を願う」と言われた方がずっと嬉しい。前者を言われたら敢えて直す人もいるくらい。
野党の「武器はあげないけど平和を願う」のほうが100倍軽薄。日露戦争(≒勝利)にも深い縁がある象徴の方が喜ばれるのです。
●ウクライナについての講演や翻訳業に従事。最近では自身のドキュメンタリー番組も放映された 片岡ソフィヤ氏
ソフィヤ 百年の記憶 - ETV特集 - NHK
全く違和感ありません。
ウクライナの完全勝利のない「終戦」は民間人の虐殺を意味します。中途半端な終戦ではもっと多くの人が亡くなります。
占領地域の集団墓地も見つからないまま、戦争犯罪は裁かれないまま、拉致された子供達も親の元に戻らないまま。そして数年後、また同じ形で襲ってきます。
●言語学博士 ジャブコ・ユリヤ氏
ウクライナ人にとって「平和」は「勝利」という意味しかありません。 ロシアがずっと起こしている虐殺の歴史からたくさん学んでいますので。
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以上だ。
う~ん、この日本の国会議員と当のウクライナ人との差は何なんだろうか? 日本の国会議員の他人事感と平和ボケ感、そしてただただ政争の具として扱っている感から来るそこはかとない偽善感。これらが甚だしくて恥ずかしくてたまらない。
やはり岸田首相の「必勝」なのだ。ウクライナ人が望むのは勝利による和平なのだ。元外務省欧亜局長、東郷和彦の考えるような
「プーチンにある程度『お土産』を渡した形で収めない限り、戦争は終わらない。長引けばウクライナ人がどんどん死ぬ。それでいいんですか」という声が出てきています。
――的な和平などあり得ないのだ。そんなことをしてしまうほうが、さらにさらに多くのウクライナ人が死ぬことを、彼らウクライナ人は分かっているのだ。それほどまでにロシアが残虐で容赦がないことなど、ブチャでの虐殺を知るだけで容易に想像がつくだろう。ロシアは占領した地域であのようなことを行う連中なのだ。
(2ページ目)東郷和彦氏「世界は『ウクライナの正義』か『一刻も早い和平』かで揺れている」|日刊ゲンダイDIGITAL (nikkan-gendai.com)
【検証】 ウクライナ・ブチャの住民虐殺 衛星画像がロシアの主張を否定 - BBCニュース
日本の国会議員たちよ聞きなさい。ロシアとウクライナの戦争は幼稚園での子供のケンカとはワケが違うんだよ? 最後は先生がやって来て丸く収まることなんてないんだよ? ロシアが勝利すれば、ウクライナは必ず滅亡させられるんだよ?
「そんなことまでしやしないやい!」
こう考えるのだとしたら甘すぎる。ジェノサイドが起きるに違いないし、何より当のウクライナ人たちがそう考えているんだよ。
「必勝」しかない。岸田首相は(この件に関しては)間違っていないし正しいし、当のウクライナ人たちの気持ちに寄り添えている。
日本のアホ国会議員たちよ、ウクライナの平和は勝利によって得られるものだということを理解してくれ。
どうしてもソレが嫌ならば、「必勝しゃもじ」ではなく、ヨネスケのしゃもじでも持ってウクライナに現地入りして大いに馬鹿にされてきてくれ。