《2人の放課後》第7話: 嫉妬と誤解
外の空気はますます冷たくなり、
季節は冬へと移り変わっていた。
そんな中、夏樹の心もまた、
これまでに感じたことのない冷たさを感じ始めていた。
颯太が遥に対して抱く感情が、
夏樹にとって予想以上に重くのしかかっていたからだ。
授業中、夏樹は何度も颯太と遥の方に目をやった。
二人が笑顔で話している姿を見ていると、
胸の中で言いようのない不安が湧き上がってくる。
遥は颯太のことをどう思っているのだろう。
そんな想いが夏樹の心を揺さぶっていた。
放課後、夏樹はいつものように教室に残り、
遥と話す時間を待っていた。
しかし、その日は何かが違っていた。
遥が教室に戻ってこなかったのだ。
いつもこの時間戻ってくるのに今日は来ていない。
夏樹はしばらく待ってみたが、
何かで不安に居てもたってもいられず、
教室を離れた。
校舎の裏手にある中庭へ向かうと、
遠くから颯太と遥の声が聞こえてきた。
夏樹はその声に足を止め、
物陰に身を潜めた。
颯太は遥に何か話しかけ、
遥は微笑んで彼の話を聞いている。
夏樹の胸に、鋭い痛みが走った。
(何の話をしているんだろう?)
夏樹は心の中で呟いた。
夏樹の中で言い表せない感情が
ただ立ち尽くしていた。
その時、颯太が遥に向かって一歩近づいた。
彼の表情は真剣で夏樹でも初めて見た。
「遥、ずっと言いたかったことがあるんだ」
颯太の声が静かに響き、
夏樹は思わず息を呑んだ。
颯太が遥に何を言おうとしているのか、
わかっていてもその瞬間を目の当たりにするのが怖かった。
「俺、ずっと前から遥のことが好きだったんだ」
颯太の言葉がはっきりと耳に届いた瞬間、
夏樹の胸が強く締めつけられた。
今日、颯太が遥に告白するとは思っていなかったからだ。
夏樹は心の中で何度も叫びたくなるほどの感情が渦巻いていたが、何も言えず、その場に立ち尽くしていた。
「颯太君…」
遥の声もまた、困惑しているように聞こえた。彼女はしばらく言葉を探しているようだったが、やがて静かに答えた。
「ごめんね、颯太君。私…颯太君の気持ちは嬉しいけど、、、。私ね、、、」
遥のその言葉に、
夏樹は驚きと同時にほっとする気持ちを抱いた。
颯太の告白が断られたことに対して
安心感を覚えた自分に、
少し罪悪感を感じながらも、
どうしようもない感情に包まれていた。
「あちゃー、ふられた…?」
颯太は少し寂しそうに笑っていたが、
無理に明るさを取り戻そうとしている様子だった。そして、すぐに冗談めかして続けた。
「まあ、そんな簡単にはいかないよな。
でも、ありがとう遥。言えてよかった。」
夏樹は颯太が振られてしまった後、
静かにその場を離れた。
この言葉にできない感情が嫌で
そこの場には居た堪れなかった。
逃げたかった。
夏樹は自分の胸の中に広がる感情を整理することができず、ただ歩き続けた。
(颯太はしっかり自分に向き合い、
隠さず僕に遥が好きだと伝えた。)
この場で振られたことを見て知ってしまい、
颯太との友情がどこか壊れてしまうのではないかという不安も募っていた。
翌日、教室に入ると颯太は
いつも通り元気に話していた。
彼が昨日のことを気にしていないように見えたことが、夏樹にとっては逆に不安だった。
颯太が本当に大丈夫なのか、
夏樹には分からなかった。
授業が終わり、放課後になっても、
夏樹は颯太にどう接していいのか分からず、
教室の片隅でただ座っていた。
遥が来るはずの時間になっても、
教室に戻ってこない。
ただその日だけは来てもうまく話せないと
少しほっとしてた。
やがて、颯太が部活終わりに
帰ろうとするところを見て、
夏樹も後を追った。
颯太は一人で校舎を歩いていた。
夏樹は彼の背中を見つめながら、
何か声をかけるべきだと思いながらも、
最初うまく声が出せなかった。
(このまま逃げるのか僕は...)
そんな自分が嫌で勇気を出し、
「颯太…颯太!!」
夏樹の声が響いたその瞬間、
颯太が振り返った。
その顔には、いつものような笑顔が浮かんでいたが、どこか作り物のように見えた。
「よお、夏樹。どうかしたのか?」
颯太のその軽い調子に、
夏樹は少しだけ戸惑ったが、
覚悟を決めて話し始めた。
「昨日、遥に告白したんだよな?
…ごめん、偶然見ちゃって。」
その言葉に、颯太の笑顔が一瞬だけ消えた。
しかし、すぐに笑顔を取り戻して答えた。
「ああ、見られちゃってたのか。
そうだよ。まあ、残念だったけど。。。
でも、ちゃんと言いたかったことだし平気だよ!」
「振られて平気なわけないだろ!」
夏樹は思わず強めに言葉を発した。
颯太の無理に明るさを装う態度が
前の初めて話した時の遥と似て非なるものだったのだ。
颯太は驚いていた。
夏樹が颯太に強く言うなんて
颯太にとっても初めてのことだったからだ。
颯太はしばらく黙っていたが、
やがて深い息をついて答えた。
「正直言うと、ショックでかいかな。
でも、こればっかりはどうしようもないだろ? 」
颯太のその言葉に、
夏樹はどう答えればいいのか分からなかった。
颯太が遥に対して真剣な感情を抱いていたことが痛いほど分かったからだ。
「俺、颯太が振られてホッとした自分がいたんだ。
もちろん遥のこと好きって言われた時、
びっくりもしたけど嬉しかった。
隠さず好きな人を言ってくれて...」
「なぁ夏樹。」
「...ん?」
「遥、好きな人がいるんだってさ。」
颯太のその言葉に、夏樹は息を呑んだ。
「遥の好きな人は俺にはわからない。
ただ夏樹がどう思ってるのか知らないけど、
遥はお前を特別な存在として見てる。
悔しいけど、もし夏樹に負けるなら納得できる。だからお前も自分に正直になれよ!」
颯太はそう言って、
夏樹の肩を軽く手を置いた。
「まぁ俺のことは気にせず頑張れよ!
でもちゃんと報告はしろよな!」
颯太はただ自分の気持ちを伝えたくて動いた。
颯太が手が肩に触れた時、
僕は胸が熱くなった。
その行動のおかげでその言葉のおかげで
今、自分がどうすべきか答えは出たが
勇気を出せない自分が少し嫌になった。