《2人の放課後》第1話:静かに過ぎていた日常
君に話をかけたあの日から
僕の中で全てが変わった。
そこから始まる【僕と君の運命の物語】
教室の窓から差し込む午後の陽射しは、
どこか柔らかく、穏やかだった。
季節は秋に差しかかり、
風が少しだけ冷たくなり始めている。
教室の中では、
生徒たちが各々に放課後の時間を楽しんでいた。
夏樹はその一角、
教室の隅にひっそりと座っていた。
彼の机には、
広げられたノートと数本のシャープペンシル。
だが、書かれている内容は大したものではなく、意識は遠く窓の外に向いている。
「今日も、また声をかけられなかったな…」
心の中で、ため息をつく。
夏樹の目線の先には、いつもと元気で、
笑顔で友達と話している遥の姿があった。
彼女はクラスの中心にいる遥。
いつも明るく、誰にでも優しい。
クラスの男子たちが憧れる存在だ。
もちろん、夏樹もその一人だった。
だが、夏樹は自分の気持ちを口に出すことはできなかった。
無口で、誰かに話しかけることすらためらう自分が、彼女に近づけるはずがない。
遠くから見ているだけで、
満足するしかなかった。
「夏樹、また窓の外見てんの?」
突然、後ろから声をかけられて、
夏樹は少し驚いた。
振り返ると、颯太がにやりと笑って立っている。
彼は夏樹の幼馴染で、
学校ではいつも賑やかで社交的だ。
夏樹とは対照的に、
誰とでもすぐに打ち解けることができる性格だ。
「別に、ただ考え事してただけだよ」
と、夏樹は軽く答えた。
「ほんとかよ?
俺には、いつものことって見えるけどなぁ。
遥のこと、見てたんだろ?」
颯太の冗談めいた言葉に、
夏樹は焦りを感じながらも、
顔を赤らめないよう必死にこらえる。
彼は自分の気持ちが他の誰かにばれることを少し恐れていた。
「そ、そんなことない」
と、夏樹は動揺しながら答えたが、
颯太には見透かされていた。
「図星かよ、、、
でも、気になってるなら何か話しかけたら?
ずっと見てるだけじゃ、何も始まらないだろ」
颯太の言葉は的を射ていたが、
今の夏樹にとっては厳しい現実だった。
夏樹は心の中で、
(遥に話しかける?
そんなこと、考えたこともない。
彼女の周りにはいつも友達がいて、
僕がそこに割って入る余地などないし、
いや、そもそも遥にとって、
自分はただのクラスメイトにすぎないだろ。
それができれば苦労しないよ)
と、思い小さく笑った。
「まあ、夏樹がいいんなら別にいいんだけどさ」
と颯太は肩をすくめて、
別の友人たちの元に戻っていった。
彼はいつも軽い冗談で周囲を和ませるが、
時折真面目なことも言う。
夏樹は颯太が言ったことを、
内心で反芻(はんすう)しながら窓の外を再び見つめた。
教室では遥が友達と楽しそうに話している。
その笑顔は誰にでも向けられる、
暖かいものだった。
、、、だが夏樹はふと気づいた。
彼女の笑顔は、どこか少しだけ寂しそうに見える。
「…気のせいだよな」
そう自分に言い聞かせながら、
夏樹は目を伏せた。
遥は、明るくて元気で、
何の悩みもないように見える。
自分が彼女のことを気にかける理由なんて、
どこにもない。
だが、どこか心の片隅で、
夏樹はその小さな違和感を拭いきれなかった。