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第1章: 「落ちこぼれの入学」
早朝の陽光学園。まだ太陽が昇りきらない中、広大なキャンパスの前に立っている少年がいた。白石翔、16歳。彼は今日からこの学園の生徒となる。
「…ここが俺の新しい学校か。異能力者ばかりの…。」
翔は目の前にそびえ立つ巨大な門を見上げ、ため息をついた。入学が決まったとき、彼は喜んだが、それはほんの一瞬のことだった。周囲の期待が重荷に感じられたからだ。翔が持っている異能力は、他の生徒たちの強力な力に比べて、あまりにも微弱だった。彼の能力は「運が少し良い」こと。それだけだ。火を操ったり、空を飛んだりできるわけではない。
「なんで俺なんかがこんなすごい学校に入れたんだろう…。」
翔は一歩、また一歩と学園の敷地内に足を踏み入れた。その瞬間、彼の頭の上を何かが通り過ぎた。
「わっ!?」
彼は反射的に頭を抱える。頭上で風がビュンと鳴り、視界の端に何かが高速で飛んでいくのが見えた。それは、まるで竜巻のように回転しながら空中を舞っていた。
「やっほー、翔!」
高く飛んでいたその影が、突然降りてきた。着地したのは、風見リナ。翔の幼馴染であり、学園でも有名な異能力者だ。
「リナ!お前、また飛んでたのかよ…危ないって!」
「なによ、ただの風使いじゃん。翔には当たんないから大丈夫!」
リナは笑いながら言った。彼女の異能力は「風を操る」力。彼女にかかれば、風に乗って空を飛ぶことも、竜巻を作り出すこともできる。翔はその力にいつも圧倒され、少し嫉妬すらしていた。
「それより、今日から正式に陽光学園の生徒だね!一緒に頑張ろうよ、翔!」
リナは嬉しそうに笑っているが、翔は微妙な気持ちを隠せなかった。
「いや…俺、ほんとに大丈夫かな?ここ、すごい奴らばっかりだろ?」
リナは腕を組み、少し考え込んだあと、にっこり笑った。
「まあ、翔は翔らしくやればいいんじゃない?能力なんて関係ないよ!」
リナの言葉に、翔は少しだけ気が楽になったような気がした。
「そうだな…とりあえず、やれるだけやってみるか。」
そう言って、翔は歩き出した。しかし、彼の心にはまだ不安が残っていた。周囲の生徒たちが次々に強力な異能力を披露しながら歩いている姿を見て、自分がどれほど「普通」であるかを再認識させられる。
学園の中庭に到着したとき、遠くから騒ぎ声が聞こえた。生徒たちが集まって、何かを見ている。翔とリナもその集団に近づいてみた。
「おい、あれ見てみろよ。」
一人の男子生徒が興奮気味に指さした先には、氷でできた巨大な壁がそびえ立っていた。そして、その壁を作り出した少年、斉藤直人が立っていた。彼は冷静な表情で、周囲の賞賛を一切気にしていない様子だった。
「やっぱり斉藤君はすごいね…あの氷の壁、いったいどうやって…?」
リナが驚きの声を上げた。翔も、斉藤の圧倒的な力に唖然としていた。こんな人たちと同じ学校でやっていけるのか…そう思うと、不安がますます大きくなった。
そのとき、斉藤が翔たちの方に視線を向けた。鋭い目が一瞬、翔の存在を見逃さなかった。
「…白石翔だな。」
斉藤の口元が少しだけ動いた。翔は驚いて答えた。
「え?俺のこと知ってるのか?」
斉藤は何も言わず、ただ冷たく微笑んだ。
「まあ、見ていろ。お前の運が、どこまで通用するか。」
そう言って、斉藤は去っていった。
翔はその言葉に背筋が凍る思いをした。斉藤が意味するところはわからなかったが、間違いなく簡単にはいかない学園生活が始まろうとしていた。