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「人間として何が正しいかで判断する」~「稲盛哲学」実践者の声
今回も引き続き「稲盛哲学」に関する話題になります。ここでは稲森イズムを引き継ぐ二つの会社が登場します。特に私は日本航空の破綻から復活までのサクセスストーリーに非常に感動したもので、JALの現在について特集された記事を中心に紹介したいと思います。
「謙のみ福を受く」
「2009年の世界大会で「謙のみ福を受く(謙虚でなければ幸せにはなれない)」との言葉を掛けられた。当時は売り上げが右肩上がりで伸びていた時期だった。「没落していった経営者を多く見てきたが、それは謙虚でなくなり、おごり高ぶっていたためだ。いつまでも謙虚でいる姿勢が大事だ」と指摘された。この言葉は今でも心に打ち込まれたくさびのようになっている。」(井上高志 LIFULL会長談)
これはどの世界、どの時代においても当てはまる言葉ですよね。「実るほど垂れる頭と稲穂かな」「おごる平家は久しからず」という諺もありますし、古今東西、同じような表現が残っていることが物語っています。ここでもやはり残念なことに「人は変わらない」ということでしょうかね。そうであるからこそ、「勝って兜の緒を締めよ」ではありませんが、常に気を引き締め、謙虚に謙虚に。それでも時に顔を出してしまう「傲り」を戒めてくれる良き師匠であり、仲間であり、部下の存在が大きいのでしょうね。とはいえ、これって本当に難しい。自分ではそうならないようにと思っていても、なぜかそうなってしまっている・・・なんてこともありますからね。
「JALフィロソフィ」~人間として何が正しいかで判断する
「2010年の経営破綻からJALフィロソフィを制定しました。企業理念の実現のため、社員が持つべき意識、価値観、考え方を言語化したものです。「一言一句覚えてその通りにやる」というものではなく、「人間として何が正しいかで判断する」ということがベースになっています。同じ業績を上げるにしても、人間として正しい判断を積み重ねた結果、成し遂げられたのかということを大切にしています。」(清水かおり 日本航空・意識改革推進部長談)
個人的に日本航空の経営破綻のニュースは本当に衝撃的でした。日本を代表する航空会社が「潰れてしまう」日が来るとは!そしてそこから奇跡の復活劇もまたサクセスストーリー好きの私としては胸熱でした。しかもその復活に京セラの稲盛会長が携わっていたとなれば、稲盛ファンとしては嬉しすぎる展開でした。稲盛会長によるJAL再建ストーリーに関しては、関連書籍をいくつも読みましたが、やはり清水部長が仰るように「人間として何が正しいか」という基本に立ち戻ることから再建をスタートしたようです。破綻前は「お役所日の丸」意識が強かったJALが倒産を経て「人間味」を取り戻した、ということでしょうか(情緒的に言うと)。もちろんそこに至るまでには壮絶な奮闘(と現場の方々の粉骨砕身の努力)があったことは特筆すべきでしょう。
人間として何が正しいかで判断する
フィロソフィの根本にあるのは「人間として何が正しいか」ということです。「正直であれ」「うそをつくな」「人を騙すな」「約束を守る」「他人を思いやる」といったような、子供の頃、親や学校の先生から教わった非常にベーシックな道徳観のことでもあります。「なんだあたりまえのことではないか」と感じるぐらい当然のことに思えますが、実際にこのことを100パーセント実行できている人はいないのではないでしょうか。常に「人間として何が正しいか」を自らに問い、勇気をもって正しいことを貫いていくことが大切なのです。(出所:JALフィロソフィより編集部抜粋、作成)
そうなんです、一見「なんだ、当たり前だろう」と思うことが行われていない企業(や団体)の多いこと!いや、政治家もそうでしょうし、お役所、官庁なども同じでしょう。そして私を含めた個人もです。本来はそうあるべきなのに、できていない、守られていない、そんなことを考えさせられる稲盛会長からの「喝」であるように感じました。私も改めねば。
JALフィロソフィ誕生の経緯
「当時を知る幹部に聞くと稲盛さんは「あなたたちには経営哲学がない」ということは仰っていたものの、フィロソフィを作れと直接命じられたわけではないようです。(経営破綻時の勉強会から)繰り返し稲盛さんのお話を聴くうちに社長を含めた幹部から「自分たちの中で軸を作らないとだめだ」との声が上がり、フィロソフィ制作プロジェクトが立ち上がったそうです。」
(清水かおり 日本航空・意識改革推進部長談)
これがもし稲盛会長から「フィロソフィを作りなさい」という上からの命令だとしたら、ここまで上手くいったか分からないと思います。あくまでも草の根、というか下からのボトムアップで「稲森会長の言葉の一つ一つを大事にしよう」「自分たちでJALらしいフィロソフィを作ろう」という空気が醸成していったからこそ、あれだけ短期間に、そして莫大な負債を抱えて倒産した企業が復活したのだと思います(もちろん債権放棄や上場廃止など多方面の影響はありましたが・・・)。
答えを「自分で考えさせる」稲盛流
「当時の日本航空には稲盛さんの右腕のような存在の京セラ社員さんも来てくれたそうですが、答えをすぐに教えることはなく、自分で考えさせたそうです。(フィロソフィは具体的には)例えば朝礼の際に、手帳の項目から一つ選んで自分の体験に当てはめて話す、ということをやっている部署が多いです。グループ社員の勉強会や役員・部長級を集めたリーダー勉強会でもフィロソフィを学んでいます。」(清水かおり 日本航空・意識改革推進部長談)
「考えなさい!」・・・これは私も長年勤めた会社で最初の上司に毎日のように言われた言葉です。当時、血気盛んな生意気盛りだった私としては、毎日注意やお小言の嵐で「だったら、言われたとおりにやりますから、答えを仰って下さいよ!」などと刃向かったものです(苦笑)。そのたびに上司は「とにかくまず考えなさい!」と繰り返すばかり。本当に辛かったんですが、それが実は私を育ててくれているということが分かったのはだいぶたった後でした。言われたことをやるのは簡単なんですよね、当たり前ですが。しかもその方が上司にとっても「早い」わけです。しかし、遠回りになりながらもペーペーで仕事もできない私のために「考える」という行為をさせてくれた上司に今も感謝しています。
風化させないために「変化と継続」が重要
「(経営破綻からの再建を)風化させないためには「変化と継続」が重要です。「人間として何が正しいか」という部分は変えませんが、勉強会の中身などの施策は変えています。浸透に向けた取り組みとして、入社年次が浅い社員向けに組織風土や価値観を伝える勉強会を今年から始めました。月に一度、社員が自分の体験を話す発表会も設けています。」(清水かおり 日本航空・意識改革推進部長談)
文化の継続・・・実はこれが一番大事なんですよね、恐らく破綻当時の社員たちはその衝撃を目の当たりにして、これから会社はどうなっていくんだろう?自分たちはどうなるのか?どうしていけばよいのか?と悪戦苦闘し、稲盛会長らの献身的なサポートの甲斐もあって奇跡の復活を遂げるわけです。こうして平常に戻ると、当時の危機感や熱い思いが風化され、「過去」のものになってしまうわけです。そうすると「守り」に入るというか、「経営破綻は昔のこと」という空気が蔓延し、会社自体にマンネリ化の文化が出来てしまう。
そうではなく、常に組織を良い意味でピリッとした緊張感を持ちつつ、常に発展していく空気にするため、「変化と継続」に努める・・・この努力は本当に大変な労力だと思います。しかし、これを続け、語り続けてい行くことで二度と経営破綻という憂き目に遭って欲しくないですし、時々、パイロットの飲酒問題等でも話題となりますが、昨年1月の衝突事故ではなんと全員救出という「羽田の奇跡」のような素晴らしい組織マネジメントのお手本のような快挙もあるわけです。これぞ語り続けていく地道な努力の賜物なのではないでしょうか。