【映画】「から騒ぎ?胸騒ぎだろ」~「テノール!人生はハーモニー」鑑賞記
やっぱり音楽モノはいいですよね、基本的に外れがない。ストーリーはそれこそベタな展開ですが、それで全然いいんですよね、むしろそれがいい。ということで今回はタイトル通り「テノール!人生はハーモニー」を観てきま
したので鑑賞記録として残しておきたいと思います。(例によってネタバレを含みますので、気になる方はご鑑賞後にお読みください!)
ストーリーはあちこちで宣伝が書かれていますが、「パリの寿司配達員が配達先のオペラ座でひょんなことから美声を披露したことで、女性教師にスカウトされて・・・」というもの。繰り返しますが、展開もベタですよ、本当に。でもそこで「いやいやー、そんなことありえないでしょ」とか突っ込んだらダメなんです。ありえないストーリーをいかに、「ひょっとしたら、あるかも」「こんな展開あってもいいよね」と引き込んでくれればいいんです。
以前、「シング・フォー・ミー・ライル」を見ましたが、あれなんて最高にありえないシチュエーションですよね、屋根裏でワニを飼っているんですから(笑)。しかもそのワニが歌って踊れるエンターテイナーという・・・!もちろんうまーく作ってあるので、そんなあり得ない設定が全然気にならなくなるほど面白いし内容にのめり込めるんですけどね。
話はもどって「ハーモニー」。主演のアントワーヌを演じたMB14さんは本物のビートボクサーであり、フランスのオーディション番組で準優勝した実力派。うーん、そう考えると素人さんから一気にスターダムへという展開も「なくはないかも?」という気持ちになっていきますね。オペラ教師マリー先生役のミシェル・ラロックさんも素晴らしい!途中、アントワーヌに借りた2PACのラップを聴きながらノリノリで踊るシーンは最高です。ちょっとした何気ないシーンなんですが、彼女がバリバリのオペラだけを愛するのではなく、別ジャンルであっても「良いものは良い!」と認める考え方の持ち主なんだな、という一面が伝わってきます。
アントワーヌはパリ郊外の(おそらく)低所得者層の地域在住。兄はボクサーで、兄の資金援助を得て学校で会計について学ぶ傍ら、趣味のラップで敵対地域のグループとラップバトルを繰り広げる日々。本人はそんな生活を好んでおらず、そんな時にオペラと出会い、少しずつ自分の可能性、そしてやりたいことが見えてくる。しかし、そこに向かうには様々な困難、苦悩があり・・・という流れ。しかし、劇中でアントワーヌの住むアパートの屋上で夜、オペラをイヤホンで聴くシーンがあるのですが、ここがまた素晴らしい!パリ郊外から遠くにエッフェル塔が見え、光り輝くパリ市街と自分たちの郊外とを対比しているようでした。
もちろん最後は大団円。ここは分かっていても泣けてきます(笑)。もちろん「おいおい、そんなことあるか?」という演出もありますが、そこはご愛敬。やっぱり映画はハッピーエンドがいいですよね。なんだか最近歳のせいでしょうか、涙もろくなったことと、そりゃ、時には(本当に時々)は悲しい話とか人生を考えさせるような映画もいいですが、基本的には終わった後、笑ったり泣いたり、ホッとできる映画がいいですね。ラストの音楽もそうですが、途中に流れる音楽もいいので、これは大画面&大音響がおススメです。
ここからは補足というか、蛇足というか・・・という話なのですが、数年前に「パリに見いだされたピアニスト」という作品があって、これもまた「パリの駅ピアノを演奏していた青年が、音楽教師に見いだされ、ピアノの世界大会を目指す」というもの。ちょうど舞台がパリということもあり、似ているというかリンクする点があったように思いました(この映画もおススメです!)。どちらもほんのりですが、匂わせているのが「階級社会」。
先ほども郊外と書きましたが、そこは低所得者の地域であり、そこから中心地を目指すのは並大抵ではない、いや不可能に近いくらい難しいことなのでしょう。「テノール」でも音楽学校で見た目もブルジョア男(←とはいえ終盤からいいヤツに!)に偏見の目で見られ、本人も「マイノリティ枠で入ったんだ」と嘯くシーンも。それ以外にも嫌がらせを受けるシーンなどもあり、根が深い社会問題なんだろうな、と思いました。
これは何もフランスだけの話ではなく、そういえばイギリス映画「リトルダンサー」も同じような対立が描かれていましたね。こちらは地方の炭鉱地区の少年がバレエダンサーを目指すというもの。今回の「ハーモニー」では、郊外の青年がオペラ、先ほどの「パリに見いだされたピアニスト」では、同じく郊外の青年がクラシックに挑戦する・・・。オペラ、クラシック、バレエそれぞれが上流階級のイメージが強く、そうしたモノにチャレンジする、というだけで逆に偏見の目で見られるという、ここにもまた深い問題点が。うーん、本当に難しい。いずれの作品内にも階級社会への偏見がサラッとですが、それでも記憶に残る形で描かれていました。
とはいえ、(もちろん映画のストーリーですから当然なのですが・・・)目標に向かって必死に取り組む主人公の姿は胸を打ちますし、徐々に周りが応援体制になっていく様子にはこちらも胸が熱くなります。水野晴郎さんではないですが「いやー、映画って本当にいいですね」で締めくくりたくなりました。
おいおいタイトルの「から騒ぎ?胸騒ぎだろ?」の回収はどうなっているんだ?という話なのですが、詳しくはぜひ本編をご覧いただきたいのです。これは主役兄弟のやりとりです。主人公のお兄さんがいい味を出しているんですよ。めちゃくちゃイカツイボクサーなんですが、超弟思いで、母思い。そして自分の住んでいる地域の仲間を愛する町のリーダー。でも、ちょっと抜けてて・・・というギャップに笑わせてもらいました。
で、なぜこれをタイトルにしたかというと、今回はフランス映画だったのですが、字幕が出る前からこの言い間違いギャグを理解されて吹いていらっしゃる方が何人かいて、「すげーな!」と思ったという話です。なんだろ?フランス語が分かるってカッコよくないですか?ただの憧れ?、いや、かぶれたいだけなんですが(笑)。