瞬間の中に永遠在り
私は月1で代々木八幡の小顔マッサージに通っている。
施術をしてくれるのは50代のOさん(♂)、平日は大手の証券マンで土日だけ趣味でサロンを開いているのだ。いつもなら株の話や経済の話をしながら寝落ちるのだが、先日は違った。Oさんが興奮して施術を投げ出した(笑)
きっかけは芸能人の自殺の話から、Oさんが学生時代にアイドルの追っかけをしていたという話題になった。松田聖子や中森明菜が全盛の頃、Oさんは仲間と川島なお美を追いかけていたと嬉しそうに語り始めた。
(※当時はアイドル活動していたそうだ)
「東京ドームができる前、あそこには後楽園ジャンボプールというのがあったんです。そこで川島なお美が水着で歌うって言うので仲間4人で流れるプールに流されないように、食い入るようにライブを見ました!」と興奮気味に語る。
心なしか、ヘッドスパの握力も増してきて頭が揺れる…
大学生になり、伝説のライブハウス新宿ルイードで川島なお美のライブに行った時のエピソードに私の胸は躍った。
大学生になったOさんたち4人組はマルイでカードを作り、一張羅のブレザーを買ってルイードへと乗り込んだそうだ。そして、会場で川島なお美さんが、こんな言葉をかけてくれたそうだ。
「いつも来てくれている君達ね。今日はいつもと違ってカッコいいわね!」と…。
「あの言葉は私の目を見て言ってくれたんで、私に言ったんだと思います!」とOさんは続けるが、寝落ちスレスレの私もさすがに突っ込む。
「それ、その場にいた全員が思ってますよね?」(笑)
目を閉じていたが、少年のような眼をしているOさんを近くに感じた。
50代のおっさんから、一瞬で20代の大学生にタイムスリップしたのだ。
瞳の奥に、鮮やかに新宿ルイードが蘇っているOさんが羨ましくて、唸るような声をあげ嫉妬した。「うーううう、めちゃくちゃいい話ですね」と私まで興奮。瞬間が生き続けるとはまさにこの事だ。
「その4人組とは今でも定期的に会うんですか?」と聞いた私。
すると少し曇ったような声で「実は4人のうち、2人はもう亡くなってしまったんですよ」と…
意外な事実に胸が詰まった。そうだ、こんなに興奮しているが川島なお美さんも、もうこの世にはいない。新宿ルイードも閉館してしまっている。
ただ、ルイードでの川島なお美さんの一言を私は今、Oさんを通して聞いている。
映画「海の上のピアニスト」の冒頭に、いいストーリーがあって、それを語る人がいる限り、人生は捨てたもんじゃないという台詞がある。私は、頭を揉みしだかれながら想像する。
いつかあの世で、あのズッコケ4人組が再会したら、あの頃の笑顔で新宿ルイードでの話に花を咲かせるのだろう。(※大先輩に対して失礼w)
そんな瞬間を天国に持っていけるOさんは豊かな人生を歩んでいる。