道化師は予感する
ヨーロッパ史上でも有名な宮廷道化師であるポーランドのスタンチク。
彼はただの芸人というわけではなく、知性と政治的な才にあふれ、宮廷に出入りする政治家や貴族たちも顔負けの弁士として、風刺や皮肉を交えた鋭い指摘で一躍、時の人となったようだ。
彼の数々のエピソードが言い伝えられているが、特にポーランドの画家のヤン・マテイコが描いた、その名も『スタンチク』という絵画で描かれた場面は有名である。
1541年のポーランド。貴族たちが連日の戦況に大盛り上がりの華やかな宮廷、その舞踏会の出番前、楽屋にて原ロシアのスモレンスクで自軍の拠点が陥落したという知らせを聞いて、浮かれる人々の声が漏れ聞こえる舞台の袖で、一人うなだ物思いにふけるスタンチク。この些細な知らせから、ポーランドを没落を予感する、勘のいい道化師の姿が描かれている。
道化師の真骨頂は、即興の芸、サーカスでも道行く中の大道芸でも、その時々のお客さんと瞬時につながり、相手が何を求めているのかを感じとり芸をする媒介者である。
道化師たちは、相手の顔色や振る舞いを先取りして読み、さらにそれを裏切ったりすかしたりしながら、その場での最適解をまさに観客や通行人との相互作用の中で、瞬時に見出す。
道化師の予感力、その場の応答力、そして観客と舞台、観客同士を媒介する媒介力。今、自身で道化師の養成課程に通う体験を通じて、道化という営みがいかに臨床的感性を触発するかを実感している。
ちかぢか、研究として自分の道化師養成課程の体験をまとめられたらと思っているが、道化師はまさしく予感的な存在である。
その卓越した予感力から、人を裏をつき、笑いや人とのつながり、新たな理解を生み出すことができるのである。