『告白タイムスリップ』#ショートショート
三十路のおっさんになって、ふと思うことがある。
あの頃に戻れたら、と。
――
今日も学校はつまらない。
少数ながら友達はいる。
でも、彼らから俺を誘うことはない。
もし、仲間に加わりたければ、自分から入ってこいという感じだ。
それはつまり、彼らにとってその選択が安パイなだけであって、俺に対する友達としての感情は極めて希薄、親密度は明らかに低いのだ。
それでも話していると楽しくなってくるから、初めのうちは自分から輪の中に混ざりに行っていた。
でも、その付き合い方に疑問が湧いてくると、途端に接することをやめてしまった。
それからというもの、俺はひとりだった。
しかし、「ひとり」が「独り」になりきれないのには理由がある。
――隣の席のMさんだ。
俺は不登校気味だった。
それでもMさんの笑顔を思い出すたび、登校したくてたまらなくなった。
決めていることが一つある。
「中学を卒業したタイミングで告白する」
そのためには、同じ高校に進学したほうがいいよな。
そんなことを考えていたら予鈴が鳴った。
――
結局、俺は告白もできなかったし、同じ高校にも行けなかった。
何もできなかった。
あれから十五年も経って、Mさんはどうしているのだろう。
結婚して、子をもうけて、円満な家庭を築いているのだろうか。
その旦那さんのポジションが俺だった世界線もあったのだろうか。
でも、好きだった人が幸せなら、それでいいんじゃないか。
それによって俺が不幸せになっても、情けをかける人は誰もいないんだけどな。
――見返りを求めない献身性。
それが持てるほどの「好き」だったのかどうか。
……。
そこまで問い詰めてみると、言葉に窮した。
同じ本でも何度も読み返すうちに別の解釈が生まれることがあるように、
もう一度あの頃に戻って、彼女のことを本当に好きだったのかどうか、確かめてみたいと思った。