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逆説のAI戦略:なぜAIプロジェクトは失敗するのか?
今年の池袋のコールセンター/CRM デモ&コンファレンス 2024 in 東京(第25回)でカラクリのセミナー枠でお話した内容を記事にまとめておきます。
ChatGPTやClaudeなど、生成AIの発展により、多くの企業がAI導入を加速させています。特にカスタマーサポート領域では、チャットボットやFAQの自動生成、応対品質の評価など、様々な活用方法が提案されています。
しかし、実際にAIプロジェクトを成功させている企業は少数派です。なぜでしょうか?
大小100以上のAIプロジェクトの知見から、ある重要な発見がありました。
「落とし穴には共通項があり、それはベンダー側が掘っている可能性がある」
でした。その落とし穴になるべくハマらないように、または、ハマっている場合は早期に抜け出せるようなエッセンスを持って帰ってもらえればと思い、セミナーを構成していきました。
展示会で多くの出展者、多くの事例セミナーがありましたが、誰も話していない内容かなと思います(自己観測)。
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また、今回の展示会等や、事例セミナーによく参加している方ほど落とし穴にハマりやすいなとも感じているので、そういう方に良きメッセージとなればと考えました。
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AIプロジェクト失敗の3つの盲点
1. データに関する根本的な誤解
「Garbage in, Garbage out(ゴミを入れればゴミが出てくる)」
これは、データサイエンスの世界では当たり前の格言です。しかし、多くの企業がこの本質を見落としています。
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特に生成AIの時代になって広がっている危険な誤解があります。
「生成AIは構造化データだけでなく、非構造化データも扱えます」というベンダーの説明が、むしろ落とし穴を作っているのです。
データに関する誤解は、3つのレベルで発生しています:
レベル1:「生のデータをそのまま使える」
典型例:「PDFやマニュアルをRAGに入れれば、会社のことを回答するチャットボットができる」
現実:AI用のデータ精錬が必須。そのままでは機能しません。
参考:RAG時のクエリ ドキュメント ミスマッチについてはこちら。
レベル2:「データは量が重要」
一般的な思い込み:「ビッグデータがあれば、AIの精度は上がる」
真実:データの量よりも質が圧倒的に重要
レベル3:「VOCは宝の山」
よくある誤解:「顧客の声が大量にあるのだから、価値がある」
実態:AHT(Average Handling Time)だけを追っている限り、それは単なるログに過ぎません
必要な視点:「顧客の何を知れば、もっと顧客のためになることができるのか?」という観点で顧客と対話しないと示唆的なデータにはなりにくい(どちらかというとAHTは増える方向に影響する)
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2. 内製化という選択:意外なコストの真実
多くの企業が、AIツールの導入に数百万円、時には数千万円を投資しています。しかし、実は以下のようなツールは、ほぼ(PoCレベルだと)月額数千円でも実現可能なのです。
応対履歴の要約
音声データの文字起こし
RAG型チャットボット
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なぜ、このような差が生まれるのでしょうか?おそらく、自らが生成AIツールを手元で実際に使って、実務で試してみるということをサボっているからかと思います。
コンタクトセンターのタスクで、『まずは生成AIで』となるタスクとして、音声ログ→テキスト化や、ログの要約・ログの評価などがあります。『数万件をリアルタイム処理したい』や『結果を特定にシステムに連携したい』などの大量処理要件・データ連携要件がない場合や、PoC的に実施してみる、という点において、まずは自らの手を動かして試してみましょう。
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外注依存の問題点は、実は単純ではなく、長期的に見ても自社を弱くする・自分やチームのスキルアップ・成長の機会を奪っているといえます。
シンプルにお金面でも、自分たちでやれば数千円でできることに、下手をすると数千万円払ってしまっている、ということも実際に起きています。
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お金だけの問題だとまだいいですが、お金以外の重篤な問題も3つほど挙げさせていただきました。
そもそも自社に知見が貯まらない
AIはAI以外の問題で失敗することが多いが、外注先はその問題の解像度が低い
現場の知見が活かされないため、本当に必要な機能が実現できない
『外注依存』がいかにデメリットが多いか?ご理解いただけたかなと思います。
3. 問いの立て方の重要性
多くの企業が「AIをどう使うか?」という問いから始めます。しかし、これは間違った問いの立て方です。
正しい問いは:「AIを使いこなすスキルを身につけるには?」
この視点の違いは、以下のような大きな差を生みます:
「どう使うか?」の視点
目的:効率化/コスト削減のみ
データ:ありものを使う
アウトプット:評価して終わり
現場のスキル:変化なし/衰退
「使いこなすスキルを身につける」視点
目的:効率化 + 品質向上・高度化
データ:作るという発想で取り組む
アウトプット:さらに利活用/発展
現場のスキル:向上する
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実際に、この後者のアプローチで成功を収めているSVの方の例もあります。
ChatGPTやClaudeを使いこなしてGASプログラミング
プロンプトエンジニアリングのスキル獲得
応対ログの評価やVOC分析の自動化を内製で実現
オペレーターとの1on1での効果的な活用
プロダクトチームへのVOCからの洞察を即時発信
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ぜひ、想像してみてください。
カスタマーサポートに携わるメンバー全員がAIを使いこなすスキルを持っているとしたら、どんな成果を上げることができるでしょうか?
まとめ:逆説のAI戦略
AIプロジェクトの成功は、意外なところにあります:
AIの性能ではなく、データの質にこだわる
高額な外注ではなく、まずは内製からスタート
AIそのものではなく、人材育成に注力する
先進的な企業はすでに、外注依存から内製へと移行を始めています。なぜなら、内製で実践してこそ、適切なパートナーを選定できる目利き力が養われるからです。このあたりは特に、展示会ではベンダーからは一言も発信されていません。
カスタマーサポートの業務と生成AIの相性は抜群です。長年カスタマーサポートの分野にいますが、最先端テクノロジーの恩恵を『この業界』が真っ先に受けるの初めてではないでしょうか?
基本的には今までの先端テクノロジーは、金融業界や広告業界が恩恵をまずは受けて10年から20年かけてカスタマーサポート業界にやってくる構図でした。
生成AIは、カスタマーサポート業界での相性が良く、真っ先にスキルアップできる環境にあると思っています。効果的なAI活用のスキルを身につけるという観点でもまたとないチャンスではないでしょうか。
真のAI活用とは、テクノロジーの導入ではなく、組織と人材の変革なのです。
共感いただける企業様に、『内製化』を1つの価値提案として、AI時代のBPOサービスを展開も開始しています。よろしければぜひご相談ください。
カラクリでは、引き続き『カスタマーサポートをエンパワーメントする』ためのサービス提供を推進していきます。応援のほど、何卒よろしくお願い致します。