【コンタクトセンターで働くセンター長、SV向け】CSの現場を翻弄する「AIバブル」の正体
先日のnoteがわりと好評だったのですが、『ちょっと分かりづらい』という声も受けたので、よりCSの現場目線でリライトしました。
――私たちの仕事を理解しない“提案”に惑わされないために
コンタクトセンターやカスタマーサポートの現場にいると、近頃は「AIで効率化できます」「チャットボットで問い合わせ数を激減させられます」「応対品質を自動で評価可能です」といった声を日常的に耳にします。こうした魅力的な謳い文句に、皆さんの中には「本当にそうなのか?」と首を傾げている方も少なくないでしょう。
100を超えるAI導入事例を分析して見えてきたのは、「現場を理解していないベンダーが、高額なツール提供で利益を得ている」という、やや不健全な構図です。なぜ、こうした状況が生まれるのか?
ここでは、その背景にある「見過ごされている三つの真実」を示しながら、私たちがどのような道筋で真のAI活用へと進むべきかを考えていきます。
見過ごされている三つの真実
1. 「そのまま使えるデータ」など存在しない
「生データをそのままAIに食わせるだけで、有益な知見が得られます」――。こうしたフレーズは魅力的ですが、多くの場合、現場の実態とは乖離しています。
マニュアルやFAQを機械的にチャットボットへ投入しても、現場のニーズを満たす回答は得られません。日々蓄積される応対ログやVOC(顧客の声)データも、ただ保有しているだけでは「ただの記録」にすぎず、そこから価値を引き出すためには整理と意図的な設計が必要です。
鍵となる視点は「顧客のどの部分を理解すれば、サポート品質は向上するのか?」という問い。現場で得られる情報は貴重ですが、それを活かすにはデータを目的に合わせて精選し、構造化する取り組みが欠かせないのです。
2. 高額ツール=最善策ではない
生成AIを活用したPoC(概念実証)の提案書には、数百万円、時には数千万円単位の投資を求める内容が並びます。しかし驚くべきことに、こうした取り組みの一部は、月額数千円レベルのサービスと自前のスクリプト(例:ChatGPTやClaudeの活用、GASによる自動化)で再現できてしまうのです。
ある企業のSV(スーパーバイザー)は、商用ツールに飛びつくのではなく、小規模実験で内製化を進め、VOC分析や応対評価をほぼコストゼロに近い形で実現しています。この実例が示すように、最初から高額なシステムに頼る必要はありません。「手頃なコストで試し、ノウハウを蓄える」選択肢は常に存在します。
3. 「丸投げ」が組織を弱くする
多くのAIプロジェクトは「まず無料トライアル→カスタマイズ要請→追加費用発生」という流れを辿ります。気づけば、高価なシステム依存体質ができあがり、社内には知見もスキルも残らず、柔軟な改善が難しい状況に陥るケースが少なくありません。
最も深刻なのは、このプロセスで「自社内にノウハウが蓄積されない」点です。結果として、外部ベンダーの提案に翻弄され、主体性を失った組織が残されてしまいます。
現場主導のアプローチこそ、真の力になる
では、私たちはどうすべきなのでしょうか。その答えは極めてシンプルです。
小さく始める:まずは月額数千円程度の小規模ツールや無料トライアルを活用し、実際の応対課題に焦点を当てて試行錯誤する。
内製化とスキル蓄積:ChatGPTやClaudeなどの汎用的なサービスを使いこなし、そのうえで簡単な自動化(GASなど)を試してみる。こうした小さな成功体験が、現場に「AIを活用する目利き力」を与えます。
現場の知見を活かす:「AIをどう使うか」ではなく、「自分たちの業務をどう良くするか」を主軸に考える。現場スタッフが、自分たちの業務にフィットするデータ設計やプロンプト工夫を重ねることで、システム導入後も柔軟な改善が可能となります。
こうした段階的な取り組みを通じて、現場は自然と強くなり、外部パートナーとも対等な立場でコミュニケーションが図れるようになります。
真のAI活用へ――情報を武器に
カスタマーサポートの現場が、最も自分たちの仕事を理解しているのは言うまでもありません。だからこそ、安易な「AIバブル」に踊らされず、自ら情報を蓄え、スキルを磨き、自分たちで舵取りを行うことが必要です。
真のAI活用は、高額なツールの導入からはじまりません。現場主導の地道な改善、そのための適切な情報取得と活用が、その道筋を拓きます。情報を持たない組織は「カモ」にされるリスクを常に孕んでいます。知見を重ね、現場主導で価値を引き出すプロセスこそが、私たちの仕事をより豊かにし、最終的に顧客価値へと還元する鍵となるのです。
この記事が、あなたの現場を強くし、柔軟に変化させる一助となれば幸いです。
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