【作品から読み解く】ちいかわを考察するVol.3【謎と作風】
ちいかわ、それは「なんか小さくてかわいいやつ」の略称である。イラストレーターのナガノさんによって生み出されたSNS発のキャラクターだ。
今や『ちいかわ』の人気は凄まじい。フジテレビ系列の「めざましテレビ」ではアニメが放映され、毎週何らかの新商品やグッズが発売している。
最近ではスマホ/PC向けゲームの『シャドウバース』とコラボをしたり、明星食品の『明星チャルメラ』のCMでタレントの本田翼さんと共演も果たすなど、その勢いはおとろえることを知らない。
「ちいかわ」がここまで多くの人を引き付ける理由はなんだろう?愛くるしいキャラクター達の容姿と言動?確かにそれが一番の理由だろう。
だけど、筆者はちいかわの人気の可愛さだけではないと思う。愛くるしいキャラクターとシビアな世界観、そのギャップも魅力の1つに挙げられるのではないだろうか。
筆者はこれまでに過去記事(Vol.1,Vol.2)で、ちいかわ世界の謎を考察する記事を挙げてきた。第3弾となる今回の記事では、ちいかわ世界の考察と作者であるナガノさんの作風について考察してみた。
【「あのこ」共食い事件】
まずはSNSを大いに賑わした「あのこ」の回について語っていきたい。これはあのこに討伐隊が襲い掛かるが返り討ちに遭うという回だ。
この回が更新されるやSNS上では大きな話題となった。というのも「あのこ」がモブのちいかわ族を食べたと思われるからだ。
その根拠となるのが最初と最後のコマでの反応の違い。最初「あのこ」は木の実を食べているが吐き出しており、表情もどこか不満気だ。それに対して最後のコマでは食べてるモノは吐き出さず笑顔で尻尾まで揺らしている。
最初と最後のコマの間に「あのこ」に何があったのだろう?コマとコマの間は想像するしかないが、純粋に読み解くなら「あのこ」がモブの子を食べたと解釈するのが1番近い気がする。
もし本当に「あのこ」がちいかわ族を捕食したとなれば相当ショッキングな事実だ。ちいかわたちはこれまでも何度か捕食の危機にはあってきた。ただし、それは討伐対象であったり擬態型と明らかな「敵」だった。
今回の場合、姿は変わったとはいえ同族を食べた(共食いをした)ことになる。
無論これは憶測に過ぎない。もしかしたらちいかわ族の匂いを嗅いだことにより、自分がちいかわ族だった時のことを思い出して、木の実を食べれるようになったということも考えれる。
しかし、この回の「あのこ」の行動を裏付けるような回がある。それが食糧危機の時に登場するモモンガの回だ。
ちいかわの世界は白米が湧き出る電子ジャーがあったり出汁が流れ出す木があったりと、基本食べ物には困らない。ところが食糧が全く出てこなくなる事態が発生したことがあった。
モモンガも食糧を探すがどこにも見当たらない。食べ物に困ったモモンガは何とちいかわにかぶりつくのだ。
衝撃的な行動だが、皆さんここでモモンガのことを思い出して欲しい。
モモンガの中身はでかつよと入れ替わっているということを。
つまり、モモンガの行動からは「でかつよ達は、ちいかわ族を食べることに抵抗がない」ということが推測できる。
その後の言動では、モモンガはちいかわを嚙みちぎることができないし、うまみを感じないとも言っている。
嚙みちぎることができないのは姿が変わったからだと考えられるが、入れ替わったことにより味覚そのものが変化した可能性がある(でかつよ側からちいかわ側に味覚が変化した)。
身体が変わったことで味覚が変化するというのなら、「あのこ」の身体にも同じことが起きていると言えるのではないだろうか。
【2022/11/10追記分】
最近の更新回で、今回の推測がより濃くなる回が更新されたため追記しておきたい。
それが「あのこ」を討伐しにいったちいかわ族たちが返り討ちにあうというエピソードだ。
注目はこの鳥が飛んでる間の場面。この間に何が行われたのか?最後のコマで、モモンガと心が入れ替わったでかつよがおびえているが何を目撃したのか?
この次のエピソードに注目したい。リーダー格であったと思われる子が1人とぼとぼ歩く場面だ。この子は討伐時の自分の行動や仲間を思い出し泣き出してしまう。その姿はまさに慟哭といってもいいかもしれない。
果たして残りの2人はどこに行ったのか?もしかしたら現地で解散しただけかもしれない(そうすると何故頭に思い浮かべるのかという疑問が湧くが)。だけど、この激しい悲しみ方は何だろう。
筆者には残りの2人のメンバーの身に何かが起きたとしか思えない。
ネット上では食われたか殺されたかと噂されている。実際のところ、食べられたのか、大怪我を負ったのか、殺されたのか、詳しいことは分からない。ただ、これだけ激しく悲しまなければならないことが起きたことは確実だ。
「あのこ」の共食いの可能性をより濃くする描写として、このエピソードを紹介させて頂いた。
【スーパーアルバイター制度からわかる資格社会】
ちいかわに途中から登場したシーサーには他のキャラクターとは違う特徴がある。それはお店でバイトをしているということ。
このシーサーのバイトに関する描写で聞き取れない言葉が出てくる。それが「スーパーアルバイター」という言葉だ。
名称とハチワレの台詞から、「スーパーアルバイター」は、恐らくお店で働くために必要な資格であること、資格を取得するのが簡単ではないことが伺える。
ちいかわたちもお金を稼ぐために働いている。ただしそれは主に単発や日雇いと言われる仕事のみである。このエピソードから、ちいかわの世界では固定で働くにも資格が必要だということが分かる。
思えば、ちいかわの世界では資格や検定が登場する頻度が高い。「スーパーアルバイター」以外にお酒を飲むための「お酒の資格」や、草むしりも検定も存在する。
資格というのは言い換えると許可を取るということだ。私たちの世界では、アルバイトするのもお酒を飲むのも特に資格は必要ない。しかし、ちいかわの世界では私たちと同じように生活するにも制限が掛かっている。
このことはVol.1で述べたちいかわ世界は管理社会という考え方を裏付けにもなっている。
ちいかわの世界は生きていくうえで食べ物には困らない。学校や会社もない。その代わり自分たちの生活を豊かにしようとすると途端にシビアになるのである。
そんな資格制度だが、その存続について暗雲が立ち込める。次の項目ではその回とその原因によって生まれる新たな謎について語っていきたい。
【ちいかわの未来=討伐される運命なのか?】
事件はシーサーが喫茶店でお酒の資格の勉強をしている時に起きる。突然、店内でガラスの割れる音がして擬態らしき怪物(討伐対象?)が現れる。店内は大パニックになり客は一斉に外に飛び出していく。シーサーもその後を続く。
注目なのは、突然現れた怪物はそれまで店内で働いていたちいかわ族の可能性が非常に高いということだ(下記図参照)。
なぜ突然変身したのか?その理由は分からない。ただ、私たちは同じようなケースを知っている。ある日突然、ちいかわの前から姿を消した「あのこ」だ。
そして、この騒動の回の後にヨロイさんたちの話を聞いてしまうシーサー。その内容は「スーパーアルバイター」の制度が無くなるかもしれないというショッキングなものだった。
なぜ「スーパーアルバイター」の制度は無くなってしまうのか?ここまでの話の流れを考えたら、「店で働くちいかわ族が突然変異を起こした⇒固定バイトとして雇うのは危険すぎる⇒廃止検討」となったのではないかと推測できる。
Vol.2で述べたが、この一連のエピソードによって「ちいかわ=討伐対象」とうい可能性は一層濃くなった。
では、ちいかわが討伐対象に変わるとするならその条件は何だろう?規則性はあるのだろうか?下記に考えられる可能性を挙げてみた。
1番上から考えていこう。「老化」が原因だとしたらちいかわ族全員がそのうち変化するということになる。この説は正直考えにくい。ちいかわ族全員が、いずれ討伐対象になるなら「スーパーアルバイター」という制度をわざわざ設ける必要がないからだ。
2つ目の「ウイルス」、これは可能性は充分にあると思う。ちいかわの世界は。病気などに対する安全面が不十分な気がする。そもそも医療技術が発達してない可能性もあるので、ウイルスの存在自体に気付けてないのかもしれない。
3つ目の「種類」とは、ちいかわ族の中でも「最初から変異する種族としない種族に分かれている」というものだ。昆虫の世界をイメージしてもらうと分かり易い。この可能性もあるんじゃないかと思う。種類が多すぎてヨロイさんたちも種族を判別できてないだけで、ちいかわたちの運命は最初から決まっているのかもしれない。
4つ目は「感情」によるもの。『ドラゴンボール』のスーパーサイヤ人ではないけども、例えば一定以上ストレスが溜まると、感情が爆発して変異してしまうとか…
「あのこ」は変異後の回想場面から楽しい思い出は少なそうにみえるし(ちいかわとのことを忘れているのが悲しい)、今回変異したウェイターの子も仕事が忙しすぎて限界を迎えたとかありうるかもしれない。
5つ目が「人為的」なもの。ちいかわ初期のエピソードで「ぬいぐるみと中身が入れ替わる」という事件があった。それと同じく、実は外部で変異させている第3の存在がいる。その可能性もあるかもしれない。
ということで、現時点で考えられる可能性をひと通り挙げてみたが、どれも確証を得る程の根拠は無い。今後のエピソードでこの謎は解明されるのか?期待して待ちたいと思う。
【ナガノ先生の作風についての考察】
ここからは作品の謎だけではなく、作品を通して作者であるナガノ先生の作風についても考察していきたい。
1.対比で分かるキャラクターたちの多種多様な生き方
『ちいかわ』にはこれまでに多くのキャラクターたちが登場している。彼らの生き方は実にさまざま。こうしたキャラクターたちの生き様を見比べてみると、ナガノ先生自身の考え方も見えてくる。
・ちいかわとモモンガの人生観
最初はちいかわとモモンガ。これはちいかわだけが同じ1日を繰り返すというタイムリープに囚われてしまったエピソードの回だ。
タイムリープの原因は、ちいかわが黒い流れ星に「こんな日々が続きますように」と願ったことだった。
タイムリープを解除するよう迫るちいかわだったが「逆に先行き不安な未来を生きるより、同じ日を繰り返した方が幸せなのではないか?」と黒い流れ星に返されてしまう。
上記の回はその問いに対してちいかわがハッキリと断る回だ。ちいかわは、黒い流れ星の問いに一瞬躊躇するが、未来を生きることを決める。
対してモモンガの回。お腹を満たし、気持ちよくなったら眠るという自由気ままな生き方をしているモモンガ。
モモンガが誰にともなくいう台詞が印象的「毎日、毎日繰り返し最高に決まっている」。
変化のある未来を選択をしたちいかわ、同じことの繰り返しに満足するモモンガとの対照的な生き方がよく分かる。
・ちいかわと「あのこ」の生き方
次にちいかわと「あのこ」との比較である。
これは、うさぎが持ってきた木の置物によって妖精の姿に変えられたちいかわたちの奮闘が描かれる一連のエピソードの回。
色々あったが、元凶の木の置物を見つけたちいかわたちは置物を高い所から落として元の姿に戻ろうとする。
その時にちいかわが一瞬、思いを巡らす場面がある。今の妖精の生活を名残惜しく思うちいかわ。何故なら妖精の姿のままなら労働や資格の勉強など嫌なことから逃れられるから…が、すぐに思い直し元の姿になることを選択するのであった。
それに対し、同じく姿を変えられた「あのこ」も草原で寝ころびながら、昼の出来事を思い出している。自分の変わってしまった手を見ながら、元の姿だった頃のことを思い出している。
あのこはちいかわと違い、姿が変わってしまった自分に満足しているような姿が印象に残る。
この2つの比較場面から3つ読み取れることがある。
1つ目はモモンガとあのこ、どちらも元の姿から容姿が変化していること。
2つ目が、選択を分けた背景に「ひとりか友達がいるか」という点が影響していること。ちいかわが自分を振り返るときは必ず、ハチワレやウサギがいる。特にタイムリープの時のちいかわはハチワレの約束を思い出しているのが胸が熱い。
そして最も重要なのが3つ目。それぞれが自身の生き方に納得しているということだ。
特に面白いのは「あのこ」の描かれ方だ。あのこが初登場した当時、SNS上では可哀想などの同情的な感想を多く見かけた。
確かに「あのこ」に関しては自分の意志ではなく不可抗力で変身してしまった可能性が高いことからそういう感想が多く出るのもよく分かる。
だが、「あのこ」自身は今の生き方に納得しているというのがとても興味深い。
さらにモモンガの回も「あのこ」の回も、ちいかわが選択を決断した直後の回に更新されている。
このことからナガノ先生が、敢えてキャラクターの生き方を対比させようとしてることも分かる。
こうした比較から読み取れるのは、ナガノ先生が多種多様な生き方とそれを肯定しているという考え方だ。
「生き方に正しいも悪いもない。それぞれが自分の人生に満足できればいい」そんなメッセージが作品を通じて伝わってくる。
2.敢えて描かないことで増幅する恐怖と面白さ
ナガノ先生の作風でもう一つ特徴的なことがある。それは直接的な描写をしないということ。
どういうことか?これまでの記事を振り返って欲しい。「あのこ」の共食い事件の時もカフェでのウェイターの突然変異の事件の時も決定的な描写はされていない。
この決定的な描写がないということが、ちいかわの魅力に繋がっているのである。
最近だと、廃旅館のお土産石事件。ウサギが持ってきた石が原因で謎の廃旅館に導かれたちいかわたち。謎の力に魅入られて石を削るちいかわたちだったが、ふと石の原料に思い当たるというエピソードだ。
夏頃に更新されたこともあってか、ちいかわの中でも群を抜いてホラー色の強いエピソードだ。SNS上では「この石は元々はちいかわ族だ」という推察がされたが、最後まで石の正体はハッキリさせないまま話が終わる。
ちいかわは読者が考察をしたくなるような謎めいたエピソードが多い。その中にはひどく残酷と思われエピソードもある。しかし、そうしたエピソードでも残虐描写自体が描かれることは決してない。
決定的な場面は描写しない、そして謎に対する回答も描かれない。それがナガノ先生の作風だ。だからこそ読者は描かれていない部分を想像し恐怖する。そして残された謎に対して考える。
この想像と考察が「ちいかわ」をより面白くしている理由の1つでもある。
【その他】
ここでは考察とは違う小ネタを紹介したい。本筋には関係ないが、こうした小ネタを意識しながら読むと、より楽しめるかも。
・コラボレーションから分かるちいかわエピソード
ちいかわはコラボが決まっている商品をエピソードに反映させる回がある(自主的なのか契約内容に含まれてるかは不明)。
コラボ内容が判明すればそこからエピソードの行方を推測できるかも。
・鳥は不吉の予兆?
これまで何度か「鳥」登場するエピソードがあるが、いずれも鳥は不吉をもたらす象徴として描かれている。青いリボンを盗んだ鳥やパジャマパーティーズを襲った鳥型の擬態など。
実は「ちいかわ」に限らずナガノ先生の作品に登場する鳥は主人公たちに「害をなす存在」として描かれることが多い。
ナガノ先生が猫を飼っているということで、ナガノ先生はそこまで鳥が好きじゃない…という勘繰りもしてしまう。
【まとめ:人間世界とちいかわ世界を比較!どっちに住みたい?】
ここでは現在まで分かっている情報で、ちいかわ世界の良い点・悪い点をそれぞれ下記にまとめてみた。
こうしてまとめてみて思ったが、ちいかわ世界って「ファンタジーで色付けされた野生の王国」という風にもみえる。
全て自然の摂理と考えると、ちいかわの世界で時々感じられる諸行無常感も理解できる。
最後にある質問を投げかけてこの記事を終わりにしたいと思う。
ちいかわの世界と人間の世界、あなたはどっちで暮らしたいですか?
【あとがき】
・考察範囲をどこまで拡げるか問題
ということでVol.3になる今回。前回から1年以上も期間が空いてしまって、お待たせしていた方がいたら申し訳ないです。
更新期間が開いた原因としては、考察したいと思えるネタがなかったというのもありますし、考察する人たちも増えたので、自分が敢えて記事を挙げる必要性を感じなかったということもあります。
後、ちいかわの考察においてしばしば出くわすのが「考察範囲をどこまで拡げるか?」という問題。例えばちいかわの世界は「赤福」が降ってくるエピソードがあります。
かなりシュールなエピソードですよね。ちいかわってこういう風に「これはネタか?それともマジか?」で分かれる話があります。
最近だと、ちいかわたちが「下剋上」というパソコンゲームをする回があります。
これも大真面目に考察するなら「ちいかわの世界は人類が滅んだ後の世界である(だから概念や言葉だけが残っている)」というようにも考えられるんですが、筆者はちょっとそれは違うのかなと思ってます。
赤福にしろ下剋上にしろ、こういう描写はナガノ先生のシュールな作風に含まれる表現だと解釈していて、いわゆる考察で扱うことと分けて考えたりしています(もちろんこれは筆者個人の意見でこうした描写を考察するのも面白いとは思いますが)。このどこまで考察の範囲と見なすかで迷ったりしたこともありましたね。
長々書きましたが、ちいかわ考察も第3弾、ここまでお付き合いいただいてる方には感謝しかありません。
ちいかわ考察については、ちいかわが続く限り、不定期ですが挙げていきたいと思うので読んで頂けると嬉しいです。
また「ちいかわのここを考察して欲しい」とか要望がありましたら、コメントいただけるとありがたいです。
ここまで読んで頂きありがとうございました、それではまた。