障害×性『37secands』が素晴らしすぎた。
2月7日から公開された『37seconds』
この作品は、生まれつき脳性麻痺で手足が動かなくなった女性が、ある出来事をきっかけに成長していく姿を描いた人間ドラマだ。シネスイッチ銀座で1回目、アップリンク吉祥寺で2回目を鑑賞してきたが、素晴らしい作品だったので、今作を紹介しておきた。
【障害×性をテーマに切り込んだ意欲作】
『潜水服は蝶の夢をみる』(2007年)、『最強のふたり』(2011年)、『世界一嫌いなあなたに』(2016年)、これらの作品に共通する事と言えば、障害者とのコミュニケーションがテーマという事。これまでにも障害を抱えた人をテーマにした作品は描かれてきた。
本作も障害をテーマにしているが、更に「障害者の性」という、一歩踏み込んだ題材をテーマにしている事が特徴の一つとして挙げられる。
無論、『ブラインドマッサージ』(2014年)、『パーフェクトレボリューション』(2017年)など、障害者の性を題材にしている作品はあるが、その数は決して多くない。(ちなみに『パーフェクトレボリューション』は今作の製作キッカケ&今作に登場もしてる熊篠さんによる話。より深く「障害と性」について知れるだろうし、今作にも通じる点があると思う。残念ながら、筆者はまだ観れてないが早く観てみたい)
障害者の性が題材と聞くと、筆者などは、ついかまえてしまいがちになってしまいそうだが、今作はポップかつ爽やかだったのが、とても印象的。かつ「障害」というデリケートな題材に深く切り込んでいて、その本気度に感心してしまった。
特に驚いたのが、序盤の主人公マユが外出先から帰ってくる場面。母親の恭子がマユをお風呂に入れる場面があるのだが、そこで多くの人が、この映画の本気度を知る事になるのではないだろうか。ライムスターの宇多丸さんが自身のラジオ番組でも、やはりこの場面の事を語っており、観る人にとって記憶に残る場面である事は間違いない
【漫画にYoutuber…今の日本を象徴する題材を扱っている所が面白い】
この作品、面白いのは主人公のマユが性に興味を持つキッカケが、エロ漫画=成人漫画だという事。アニメ・漫画というのは、名実ともに日本を象徴する文化だが、その中でも成人漫画を題材に扱ってるのはとても珍しい。劇中でもマユが描く漫画が、アニメーションとして人表現されるが、海外で評価されてるのは、こういう物珍しさもあるかもしれない。
漫画というフィルターを通すことで、「性」という題材をポップにしているのも本作の特徴といえる。また主人公の友人のサヤカがYoutubeをしているところも、そのいそうな感じも「今」を象徴してて面白いと感じた。
【監督は今作が初長編デビューとなるHIKARIと脇を固める豪華スタッフ】
監督は今作が初長編デビューとなるHIKARI。この映画を観るまでは名前も知らなかったし、正直「HIKARIって名前はどうなんだろう…(何かSABU監督を思い出す)」なんて失礼な事も思っていたが、いやいや、すみません、素晴らしい監督でした。
HIKARI監督、パンフによれば、18歳の時に女優兼パフォーマーを目指し渡米し、ウェイトレスをしながらオーディンションを受ける日々を送っていたそう。
しかし、ある時、友人を35㎜フィルムで撮った事をきっかけに映画作りを目指すようになる。南カルフォルニア大学院(USC)映画芸術部で、映画・テレビ制作を学び、NasやEminemなどのヒップホップアーテストを撮ったり、短編を撮りながら満を持しての長編となる。短編は観ていないが、宇多丸さんのラジオによると、HIKARI監督、今作もこれまでの短編もそうなのだが、その時代のマイノリティの人達を題材に作品を撮り続けてきてるとの事。経歴を見てると、短編も映画祭などで高い評価を受けており、是非とも観てみたいものである。
この作品、実はサンダンス映画祭とNHKが主宰の「NHK/サンダンス・インスティテュート」のNHK推薦作品の1本に選ばれた事が製作のキッカケという事で、その為か、脇を固める製作陣もそうそうたる面子が顔をそろえている。プロデューサーはフランスの鬼才、ギャスパー・ノエ監督の「エンター・ザ・ボイド」(2009)などで知られる山口晋。
音楽は『スケート・キッチン』(2018)の作曲などを担当したAska Matsumiya。サウンドデザインを担当したのは、ポン・ジュノ監督の『ほえる犬は噛まない』(2000)、『スノーピアサー』(2013)などを手掛けたサンロック・チョイなど、ベテラン勢が脇を固めている。
【母と娘のドラマに泣かされる…キャスト陣の演技が素晴らしい】
主人公のユマを演じたのは、自身も生まれた時に脳性麻痺になった佳山明。
実は今作は、最初はラブストーリーがメインの、もっとリアル寄りの作品で考えていたとの事。しかし、オーディションでHIKARI監督が、佳山明にあった事で、彼女よりのストーリーに変更しようと決断。結果、佳山明本人の経験談も基に本作のストーリーが出来上がっていった。そんな佳山明さんだが、とにかく声が印象的。一声聞いたら、思わず目を向けてしまうような可愛い声をしている。しかし、その可愛らしい声とは裏腹に、前述したような体を張った演技が、観客の心を揺さぶってくる。
そして、ユマの母、恭子を演じた神野三鈴さんの演技が本当素晴らしい。
娘を大切に思うがゆえに、過剰といえる愛情に満ちた母を演じており、優しさと厳しさを持ち合わせた、これまた観る人の心を揺さぶる素晴らしい演技をしている。
脇を固める俳優も豪華だ。河瀬直美監督、園子温監督作品など世界的に有名な監督作品含め80本以上の映画作品に出演している実力派女優の渡辺真紀子の姉御的な存在感は流石だし、ユマの親友、サヤカを演じる萩原みのり、奥野瑛太、石橋静河、宇野正平、成人雑誌の編集長の藤本を演じる板谷由夏と、主要登場人物からチョイ役まで、長編デビュー作にしては、豪華すぎるキャストが顔を揃えてる。個人的には渋川清彦の役所が、まさしく本人のキャラクターと似合い過ぎてて、思わず顔がにやけてしまった。
ここまで、作品の概要をまとめてみたが、いかがだっただろうか。この作品、筆者が語るまでもなく既に海外の映画祭で数多くの賞を受賞してるほか、観た人の感想でも絶賛もしくは好評が目立つので、観て損のない作品である事は間違いない。
この作品、感想を見てると、後半に大きく物語が展開する場面があり、そこが賛否両論になってる印象も受ける。筆者は、映画のスケール感が大きくなるし、ツイストもきいてるのであの展開自体はむしろ良かったが、さやかとの関係性をもっと掘り下げて欲しいという気もある。どちらにせよ素晴らしい作品である事は変わりないが。
コロナ恐怖が蔓延してる中で、劇場鑑賞もなかなか薦めづらいが、気になる方は間違いなく観るべき作品だと思う!
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