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爆音を浴びて厄を払う『破壊の日』

7月24日に公開された『破壊の日』。新型コロナウイルスが拡大する中で撮影され、上映まで漕ぎ着けた豊田利晃監督の意欲作ともいえる作品だ。
筆者は、7月27日に渋谷ユーロスペース、19:30の回にて鑑賞してきた。

破壊の日ポスター

最初に結論から言えば、合う・合わないは当然あれど、本作は今、まさに映画館で観るべき作品だと断言したい。
なぜ「今」、「映画館」で観るべきなのか?その理由を本作の感想、魅力と共に述べていこう。

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製作年:2020年 製作国:日本 監督:豊田利晃

2020年、疫病の噂が拡がっている田舎町で、妹を失った賢一は生きたままミイラになることで、この世を救おうとしていた。賢一の友人の鉄平はそんな賢一の身を案じるが、目を覚ました賢一は、「物の怪に取り憑かれた世界を祓う」と東京へ向かってしまう。暴走しつつある賢一を止めに、鉄平も東京へ向かうのだが…

【豊田監督からこの時代へのアンサー、今だからこそ観るべき作品】

本作は、本来は今年開催される筈だった「東京オリンピック」に向けて作られる筈だった作品だ。本作の企画意図について、豊田監督は「東京オリンピックは賛成と反対の多くの分断を呼ぶ、亀裂が走る、何かが破壊される予感がする、それは暴力ではなく生き方や考え方、格差の衝突だ。分断と不寛容の時代、まるで『破壊の日』だと思った」と述べている。そして、映画に何ができるかとも。要はこれは「東京オリンピック」に浮かれる社会に対する豊田監督の怒りにも似た叫びにもなるはずだった。

思えば去年、拳銃所持で逮捕され、SNSを中心に理不尽な誹謗中傷の数々に合った時も、豊田監督は映画という手段を用いて世の中に対する痛烈なメッセージを発信した。自身の社会に対する怒り、憤りを、会見でもSNSでもなく映画で表現するというのは、まさしく映画監督、ひいてはアーティストを体現しているともいえるだろう。

狼煙が呼ぶ②

劇中の台詞でもオリンピックに対する痛烈なメッセージは伺えるが、現実では、新型コロナウィルスの感染拡大によりオリンピックは中止。本作も一時期は撮影が危ぶまれたが、豊田監督は、何と6月22日から7月22日の約1ヵ月で本作を撮り終えて、本作を上映まで漕ぎつけた。本作の上映日は7月24日、それは本来ならば「オリンピックの開幕日」でもある。その日に間に合わせたという所に監督の並々ならぬ衝動とも執念ともいえる感情が伺える。

破壊の日①

社会に取り憑いた物の怪=東京オリンピック(資本主義にまみれた社会)から、新型コロナウイルスの恐怖が蔓延する社会(人々の心に巣食う病への恐怖心)に変わった脚本は、まさしく今を象徴している。「今観るべき」というキャッチコピーをつけられた作品は数多くあるが、これほど本当に「今観るべき」という言葉が似合う作品はないんじゃないかと思う。

【映画というより、もはやライブ!音の洪水を全身に浴びろ】

映画が始まって、驚かされたのが『音』。まるで轟音ともいえる音量が、観客に浴びせかけられる。筆者はこれまで「爆音映画祭」などには参加した事もあるが、通常の上映形式の作品で、ここまでの音量で鑑賞したのは初。この音の迫力は、DVDや配信などの環境では、まず体験できない。ここに『映画館』で観る意味がある。

今回、参加してるアーティストはGEZAN、照井利幸、切腹ピストルズ、Mars89。豊田監督の作風の特徴の一つは、映像と音楽の親和性だ。『青い春』(2002年)のTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT然り『ナイン・ソウルズ』(2012年)のdip然り、これまでの作品においても、激しい音楽が観る者の感性を激しく刺激させてきた。
今作でも、やはり音楽が、強烈なブローを放つが如く、脳内に鳴り響く。今回、俳優として映画に参加しているマヒトゥ・ザ・ピーポー率いるGEZAN、予告編で使われてる曲(『壊日』)を聞いたときは、「ミッシェルっぽい(豊田監督好きそうだな)」と思っていたが、オープニングに使われてる『証明』を聞いた時は、そのラップ調な歌い方とのギャップに驚いた。

『狼煙が呼ぶ』に引き続き、本作にも参加している切腹ピストルズは、プロダクションノートによると、映画のチラシデザインなどにも携わったとの事で、本作とは深い関わりがある事が伺える。照井利幸も『泣き虫しょったんの奇跡』(2018年)に続いての参加となる。Mars89も筆者は初めて知ったが、ファッションブランド「UNDERCOVER」のコレクションの音楽や、トム・ヨークと共演している。世界を股にかけるDJという事だ。本編でも多数の曲が使用されていた。舞台挨拶で本作を「映画か何か分からない」という発言があったが、筆者は、まさにライブを見に来ているような高揚感を感じた。これだけのメンツと迫力ある音楽は、なかなか体験できるものではない。


【豊田組勢揃い!豪華キャスト陣】

本作の見所の一つでもあるのが、豪華キャスト陣。筆者が本作を観たいと思った理由の一つでもあるし、恐らくキャストにつられて観に行ってる人も多いのではないだろうか。
主演は『青い春』、『ナイン・ソウルズ』をはじめ豊田組常連の渋川清彦。共演のマヒトゥ・ザ・ピーポーは、本作が俳優デビューながら雰囲気が抜群だった。イッセー尾形は、腹に一物抱えてそうな曲者役が良く似合ってる。そして、豊田監督の作品の多くで主演をつとめてる松田龍平に『モンスターズクラブ』(2012年)、『プラネティスト』(2020年)で豊田作品に出演している窪塚洋介。これだけの豪華キャストの共演もなかなかないのではないだろうか。新型コロナウイルスの影響も大きいだろうが、劇中で、全員が一堂に会することはない。そこは残念だが、筆者的にはこの面子をスクリーンで観れただけでも充分に価値があった。

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※写真は、映画ナタリー様の記事より

【まるで『AKIRA』を彷彿させるかのような物語】

本作を観て思ったのは、舞台設定が「AKIRAっぽい」という事である。舞台がオリンピックを翌年に控えた日本。そして渋川清彦演じる鉄平とマヒトゥ・ザ・ピーポー演じる賢一の関係性は、金田と鉄平のようでもある。(実際、プロダクションノートのも「現代版のAKIRA」と指摘されている。)
正直、物語に関しては、中二病っぽさがあるので、そこは賛否分かれる部分かもしれない(実際、感想でもそこは合わなかったという感想を目にした)。しかし、「験力(げんりき)」の描かれ方といい、指パッチンのような仕草といい、筆者の心には見事に刺さった。

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また、本作ではこれまでの豊田作品でみられた演出も見受けられた。賢一の渋谷での場面は、『モンスターズクラブ』の良一の姿と重なるし、ラストシーンは『青い春』のラストシーンのようである。映画は『AKIRA』と違い、これからという所で終わっている。そういう意味で本作は盛大なプロローグのようにも思える。

【まとめ】

いかがだっただろうか。『破壊の日』、豊田監督の作品の多くがそうであるように本作もかなり尖った作風なので、手放しではお薦めはしづらい。しかし、この記事で述べたように、本作は今、映画館で観る事に意義がある作品だ。もし迷ってる人がいるなら、是非映画館で観るよう強くお薦めしたい。


【追記】

ちなみに筆者は、本作のクラウドファンディングに参加していたのだが、公開直前にリターンとして、豊田監督からのお手紙と鑑賞前売り券が届いた。名前を直筆で書いて頂いたのには感動したし、エンドロールで名前が出るのはやはり嬉しいものだ。

破壊の日①


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ヴィクトリー下村
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