コックスバザールもインフラ工事中。静かな日々への期待は打ち砕かれた
バングラデシュのダッカは、街全体が工事現場のようだった。ダッカメトロ、立体交差、高速道路⋯⋯。考えられないスピードで街のインフラ工事が進んでいた。その勢いに圧倒された。その夜、夜行バスで南部のコックスバザールへ。そこでは30年以上、運営に関わる小学校がある。バングラデシュ政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために全学校に休校を指示。2年近く休校がつづいた。再開された学校はどうなっている? コックスバザールの南に広がるミャンマーからのロヒンギャ難民のキャンプも気になっていた。しかしコックスバザールでまず目に入ってきたのは、ここでもインフラ工事だった。
旅の期間:6月17日~6月20日
※価格等はすべて取材時のものです。
US-バングラエアラインがコックスバザールまで片道1万円前後
(旅のデータ)
僕はコックスバザールまで夜行バスを使った。いまは複数の会社がバスを運行させている。ENA社は3列シートで1800タカ、約2592円だった。他社も3列シートの場合、1700タカから2000タカ、約2592円から約2880円といったところだ。所要時間は約9時間。
飛行機もある。コロナ禍で減便がつづき、まだ運航は完全に戻っているわけではないが、US-バングラエアライン、バングラデシュ航空などが就航している。運賃はUS-バングラエアラインが片道1万円前後、ビーマンバングラデシュ航空が片道1万3000円から2万円といった価格帯。今後、就航する航空会社が増えると思うが、運賃は片道1万円前後と思ったほうがいい。早く買ったほうが安くなる。現在、US-バングラエアラインが1日6便。ビーマンバングラデシュ航空が1日3便。所要時間は1時間ほど。
北海道の2倍ほどの土地に1億6000万人。人口密度をバスで実感します
(sight1)
3列シートの夜行バス。一見、混みあっているように見えるが、シートは大きく、かなり後ろに倒れるので、狭苦しい感じはしない。けっこうしっかり眠ることができる。これまで何回もこの種の夜行バスに乗ってきたが、いつも満席。北海道の2倍ほどの広さの土地に1億6000万人を超える人々。その密度をバスで実感します。
(sight 2)
バスには原則、トイレがないので、2~3時間に1回はドライブインでのトイレ休憩がある。いま午前2時。ダッカから南に向かう夜行バスが次々に停車し、ドライブインはにぎわっている。20分程度の休憩だが、その間にがっつり食事組もいる。皆、食欲旺盛。エネルギーが違う。このハンバーガーの量。ちょっと腰が引ける。
(sight 3)
ドライブインは深夜にもかかわらずキンキラ照明。街ではしばしば停電が起きているというのに、節電の発想は微塵もない? ドライブインとは道を挟んだ建物もこの照明。訊くとホテルだという。夜通し、極彩色のネオンが輝いて眠ることができる? 眠い僕はその光を眺めながら頭が痛くなってくる。
バスはコックスバザールのビーチサイドに着いた。リゾート気分を盛りあげる?
(sight 4)
朝7時、コックスバザールに着いた。バスターミナルでなくビーチロードの端。ここをまっすぐ進むと海に出る。そこが世界でいちばん長いというビーチだ。コックスバザールはバングラデシュの人にとってはビーチリゾート。その気分を盛りあげるため? 僕はただ眠いだけでしたが。
(sight 5)
バスを降り、ふと見あげると、目の前に建設中の建物。リゾートホテルができるのだという。コロナ禍でリゾート客も減ったはずなのに、やがて客は戻ってくると読んでいるのだろうか。日本ではコロナ禍で資金繰りに苦しむホテルの話は、耳に痛いほど聞いたが、新しくホテルををつくるという話はとんと聞かない。この違いってなに?
コックスバザールも街全体が工事現場だった
(sight 6)
コックスバザールではいつも知人の家に泊まる。そこまでオートリキシャに乗ったが、その家の手前で停車。「ここから歩いてください」。目に前に現れたのはこの光景。「な、なんだ?」。コックスバザールのメインロードは全面通行止め。拡張工事の真っ最中だった。ダッカで工事現場ばかり目にしてきた。コックスバザールでは少し静かに⋯⋯という思いは、みごとに打ち砕かれる。
(sight 7)
知人の家で少し休み、街を眺めに出てみた。もう工事だらけ。雨季に入り、工事はあまり進んでいない、と知人は説明するが、道を広げるために街路樹の伐採は着実に進んでいた。かなりの人力作業。工事中だというのに、オートリキシャが入り込み、前よりひどい混乱。いったいどうなる?
(sight 8)
ロヒンギャ難民キャンプの状況を訊きに現地のNGOを訪ねると、その前の道もこの工事。実は1年ほど前、コックスバザール市街の排水溝の工事がはじまったという話は聞いた。雨が降ると排水溝がゴミで詰まり、しばしば洪水。それはいいことだと思ったが、それは序章だった。本格道路工事がコロナ禍のなかで進むとは。
街の郊外には駅までつくっていた。駅? 鉄道も敷くのか⋯⋯
(sight 9)
すでに工事が終わった道もあると耳にして見に行ってみた。ビーチ沿いの道。道路は広くなり、ちゃんと歩道までできている。歩道の記憶……コックスバザールではなにもない。市内の道が全部こう変わっていく? 以前から計画されていた都市計画なのかもしれないが、コロナ禍でも工事を止めない。やはりテンションが違う。
(sight 10)
「駅もつくってますよ」。「駅?」。鉄道はダッカからチッタゴンまでしかなかったはず。線路も同時に建設中だという。これが建設中の駅。大きい。ダッカ駅の数倍はある。インフラ工事は市内の道だけではなかったのだ。ダッカから列車でコックスバザールへ。それは夢のような話ではないか。高度経済成長⋯⋯。こういうことか。
バングラデシュのビーチに沿ってマリンドライブ
(sight 11)
「マリンドライブも完成しました」。「マリンドライブ? ここはバングラデシュだよ」。世界の最貧国のひとつといわれたバングラデシュ。インドのムンバイの海岸沿いの道、マリンドライブをヒントにしたのか。後日、ロヒンギャ難民キャンプに行った帰りにまわってみた。たしかに海沿い。こんな道でした。ちょっとしょぼい?
(sight 12)
シャムラプールからコックスバザールまで、50キロほどのマリンドライブを車で走った。なにしろ世界でいちばん長いビーチ。マリンドライブはバングラデシュの若者の間ですでに知られているようで、ビューポイントはこんな感じ。バイク組が多かった。バングラデシュは着実に変わった。
(sight 13)
海に沿って進み、コックスバザールのビーチに戻った。やはりここがビーチリゾートの中心。いまは雨季で観光客も少なかったが、季節が変われば⋯⋯。しかしイスラム色の強いビーチは、僕らのイメージとは違います。水着姿は皆無。女性はしっかりとスカーフで髪を覆ってビーチに。海に入るのは子供だけ。
(sight 14)
道路の拡張工事や駅の建設、マリンドライブ⋯⋯。しかしコックスバザールの街に入ると、自転車リキシャの世界。雨季の重く、激しい雨のなかでも、彼らは雨具をつけてペダルを漕ぐ。客は工事用のシートで雨を防ぐ。いつもの雨季に光景が街に広がる。リキシャを漕ぐ男たちはフォトジェニック。バングラデシュの原風景。
(sight 15)
雨が街を襲うと、あっという間に水が道に溢れる。リキシャはそれをものともせずに進み、すぐに渋滞。リキシャ夫たちは雨のなかで待ちつづける。これが1日に何回も繰り返されるのがバングラデシュの雨季だ。この時期のバングラデシュでは靴は家に置いたまま。誰もがサンダル。足はいつも濡れている。
【次号予告】次回は9月9日。コックスバザールの朝市、寺、僕らが運営にかかわる学校⋯⋯。コックスバザールに暮らす仏教徒、ラカイン人の暮らしを。