木村拓哉という“頑張らないスター”
数々の有名企業のテレビCMに出演。契約社数は事務所のTOP3
新会社の設立に、相次ぐ独立の表明――。旧ジャニーズ事務所が揺れる中、木村拓哉の存在感が強まっている。
岡田准一、二宮和也、生田斗真、風間俊介――。性加害報道を受けた記者会見の後に独立を発表したタレントたちは、皆ドラマ出演も多ければ、CM出演も多い点が共通している。
中でも、近年、ジャニーズ事務所所属のタレントの個人CM契約社数TOP3は木村拓哉・岡田准一・二宮和也の3人で占められていて、契約解除が相次ぐ前の2023年9月時点で、木村拓哉と岡田准一が9社、二宮和也が8社だった。生田斗真も4社、風間俊介も2社と、グループに所属したことのないタレントの中ではトップの2人だった。
もちろん、独立したタレントたちを責める意図は全く無い。
旧ジャニーズ事務所(SMILE-UP.)タレントのマネジメントなどを行う新会社「STARTO ENTERTAINMENT」の代表取締役CEOとなった福田淳氏は、設立自体が、テレビ局やCMクライアントなどからの分離を求める声を受けてのものだったと明かしている。また、二宮和也は独立の理由を、記者会見後「怖くなったし、不安な気持ちにもすごくなった」と吐露しているところから、彼らへの仕事の影響や風当たりの強さは、明かされていない部分でも相当大きなものがあることが予想される。本意ではないまま独立を余儀なくされたとすれば、彼らも「被害者」という言い方ができるだろう。
新会社CEOも「最初に木村拓哉に会った」
だが、そんな中でも木村拓哉は独立を表明していない。福田氏も全タレントの中で最初に木村拓哉に会ったことを明かしているなど、新体制下でのその存在感は強まっている。東山紀之がタレント活動からの引退をする年以降、新会社での“長男”的な立ち位置を担うのも木村かもしれない。
ネット上には“キムタク下げ”の声もあるようだが、その姿勢は評価こそされても、少なくともバッシングされる類のものではないはずだ。
とはいえ、とんでもない逆風の中、それでも木村拓哉がジャニーズに残り続けるという選択をする誠意を見せていることにいささか疑問に思う人もいるだろう。世間的には、木村拓哉はどちらかといえば、孤高で、組織や集団に従順ではなく、自分を貫くようなイメージも強い。
たとえば『HERO』ひとつとっても、11話全てが視聴率30%超えという日本の連ドラ史上唯一の快挙や、劇場版の興行収入81.5億円いうとんでもない記録、そしてその役柄がそのイメージを強くしている部分もあるのかもしれない。
自分が「すごい」と思う後輩を称賛する一面も
だが、少なくとも最近の木村拓哉は、そんなイメージとは程遠い。
2020年にはシンガーとしてソロデビューを果たすが、同じ年にデビューしたSixTONESやSnow Manに同期と言い張り、「さすがにそれは無理がありますよ」とツッコまれたりしている。(*1)
後輩に崇められても「先輩後輩っていうのは事実かもしれないけど。体育会系のノリはありつつも、どっちが上っていうよりかは、すげえものはすげえでいいんじゃない?」とあくまで年齢ではなく、実力で認めあおうと提案。
その上でSnow Man、SixTONES、Travis Japanといった後輩グループを「今までジャニーズがやってた踊りじゃない」と称賛。「正直に言う。俺できないって思うもん。ラウールがやる動きだったり、岩本(照)君の考える振り付けだったり、キンプリの髙橋(海人)がやるパフォーマンスとか見てると」と、素直に後輩のスキルを称賛する。(*2)
キャリアを重ねても、自分がすごいと思うスキルに関してはきちんと後輩を称賛し、時に自分を下げる。これは、社会で働く50代と考えても、なかなかできるものではないだろう。
ドラマ現場では「おせっかいおじさん」
一方で、年長者としての責任もしっかりと果たす。ドラマ『グランメゾン東京』では、楽屋ではなく前室(共演者と交流できる部屋)に木村がずっといたことを共演者の及川光博が語っている。(*3)
さらに、機材をガシャンと置くなど、雑に扱っているスタッフに対しては、丁寧に扱うように指示も出していたという。共演者の中村アンはそれを木村が“優しい”として「言いづらいことをちゃんと言ってくれる」と証言している。(*4)
それを自分で「おせっかいおじさん」と謙遜するが、現場の空気に敏感にアンテナを張り、必要なことはきちんと言って、全体の士気を上げる役割を担っているのだ。近年、木村がドラマや映画に出演すると必ずと言っていいほど、こうやって出演者や周囲のスタッフのことを考え、空気を作ってくれたという類のエピソードが登場する。
かつては、そう上手くいかなかった時期もあったようだ。“キムタク”ブームのさなか、その呼ばれ方に抵抗があったことも証言している。
「現場でも『キムタク』というソフトにしか見られていなくて。スタッフとの関係性も良くなくて、全てが嫌だった」(*5)
もし木村が世間に抵抗したり、我を通す人に見えたりしていたとすれば、それは周囲のスタッフ、そしてそれを受け取る者たちが木村のことをソフトとして、商品として扱っていたからではないだろうか。
真摯に向き合ってくる人には真摯に対応する
その証拠に、若い頃から真摯に向き合ってくるファンに対してはとことん誠実だ。なんと、コンサートの質問コーナーで彼女がいるかファンに聞かれたときに「いるよ」と返している。さすがにこれは事務所に怒られたという。(*6)
一方、結婚発表のときには、芸能レポーターに「お相手は工藤静香さんですね」と問われると、「それ以外誰がいるんですか」と、少し抑えめなトーンで返していた。
つまり、思慮が浅く失礼なマスコミには手厳しく返し、真摯に向き合ってくるファンには真摯に返す。木村拓哉とは、対峙する者の姿を映し出す“心の鏡”のような存在なのかもしれない。
そして、決して“孤高のスター”などではない。こうして、周囲への感謝を口にするからだ。
「一人じゃ、なんっにもできないんですよ。『自分一人で』という感覚は、僕の中では皆無です」(*7)
こんなことも言っている。
「僕は『がんばる』って言葉の語源があまり好きじゃないんですよ。『“我を張る”』ということなので」(*8)
木村拓哉は、どれだけ実績を重ねても決して“我を張らない”スターなのである。こう考えると、木村が独立をしないのも、実は一貫性のある選択なのかもしれない。