死神のこども 4
創世課に向かう途中、昔のことを考えていた。そういえば、ヌエにも会っていない。私の親だ、「ヌエ」という。
ヌエは天使で、どちらかと言えば変わっている部類だと思う。他人とあまり関わりたがらないが、嫌いなわけではなく、心ここにあらず、という印象が強かった。口数は少ないが、私を可愛がっているのは分かった。そばにいるのが心地よい、それだけで私は満足していた。私がある程度成長し、進路を選ぶとき「死神にする」といったら、珍しく興味がありそうな顔をした。「ヌエが天使だろう?だから子供が死神だったらバランスとれるかなって」
へぇ、そういう考えもあるのかといい、ヌエはニコニコしていた。何が彼女(人間でいうところの女性的容姿をしているから彼女だろう)の琴線に触れたんだろう。
そんなことを考えているうちに、目的地についたらしい。「ヨル、どこに行く気なの」とヒカリに呼び止められて、ようやく目的地である創世課についたことに気づいた。随分と簡素な表向きだ。受付、とあるところで窓口担当に事情をはなす。
窓口の天使が言う。「こどもが崩れた、ですか。すぐには思い出せないですが、事象自体は何回か聞いたことがあります。」私は、抱えていたジウの甕を見せながら、聞いた。「砂になったのです。水鏡に全て集めてきました。この子を、元の姿に戻すことは可能なのでしょうか。」
「...それは今すぐに返答できないかと。ご存知のとおり、魂は個体特有のもので、天使も死神も、もちろん人間も1個体に1つの魂です。もし、この子の魂まで崩れた、としたら魂の消滅であり復元は不可能です。ここでは砂の中に魂の情報が完全に残っているか判別はできません。新しいこどもを申請する方が早いかもしれませんね。」
私は即答した。「可能性が残っているならば、この子を元の姿に戻したい。会ってたった一言だけど言葉を交わしたんだ、無理だ、あの瞬間の気持ちを知ってしまったら、諦めることができないんだ。」
窓口の天使は、何かを考えるように、眉間にシワを寄せて黙ってしまった。仕方なく、私、ヒカリ、ジウ(の甕)は備え付けのソファで、所在なさげに座っていた。誰も言葉を発しなかった。
「実際に、『こどもの入れ物に魂を吹き込む』仕事をされている方にお会いするのはどうでしょう。あの方達なら、魂の状態を判別することが出来るかもしれません。」創世課の下部組織である、「揺籃部」に「あの方達」がいるらしい。
何故、私はジウに拘るのか。想像もしていなかったジウとの一瞬の邂逅は、私に何か説明できない変化を与えた。分からない、なんなんだ、とにかく会いたい、諦めたくない。人間の、自分の子への執着と言うものは、このようなものなのだろうか。
一縷の望みをかけて「揺籃部」を訪れることにした。絶望が次第に私を侵食し、足取りは重かった。ヒカリが心配そうにこちらを伺っているのがわかる。希望はどんどん小さくなった。
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