文化・芸術社会学、特に文化生産論、の必読文献について
文化社会学や芸術社会学、特に文化生産論(Cultural Production Perspective)の系譜については、日本の多くの研究はあまり国際的な動向を踏まえられてない。これにはいろんな理由があるが、ひとえに主な担い手に計量研究者がいないことが一つとしてあるだろう(文化をテーマとして計量研究をやっているケースのほとんどは文化x階層研究でdistinction(Bourdieu)系の論点である)。
文化生産論について質的研究者が中心に行われていると当たり前だが、計量の実証研究は引用されない傾向が幾分かあるのでそこら辺の主要な研究蓄積は見過ごされる。
ただ実際欧米の実証研究の分厚い蓄積があまり日本に輸入されてないのは勿体無い。そこで今回は私自身はここが本丸の専門なので、興味をもった人がぶち当たるためにリーディグリストをいかに記す。
また、読解に必要な統計学や機械学習の学習のパッケージ(書籍や勉強法)についても記載する。現状の社会学の教育ではこの点はシステマティックに行われておらず(教員によって教える粒度も内容もcodingについてもまちまちなのが現状である)、私自身はフランスで教育の恩恵を被った部分が多いので、その反省点を踏まえ未熟な知見だがしるそうと思う。
引用形式は私がつけているリーディングリストからひっぱってきているのでバラバラになってしまっている部分は容赦してほしい。ただ識別はできる由。
<文化生産論に関する創設的論文>
Peterson, Richard A.,1976,“The Production of Culture: A Prolegomenon,” American Behavioral Scientist, 19(6): 669-84.
Peterson, Richard A. and N. Anand.,2004,“The Production of Culture Perspective,”Annual Review of Sociology,30: 311-34.
<文化生産論に関する学説史的論文>
-文化生産論に関する学説的な見取り図が一番わかる
Santoro, Marco, 2008, “Culture As (And After) Production,” Cultural Sociology, 2(1): 7-31.
(-以下は広い文化社会学の議論が追える)
佐藤成基, 2010,「文化社会学の課題 : 社会の文化理論にむけて」『社会志林』56(4): 93-126.
柳原良江, 2016,「カルチュラル・ソシオロジーの系譜と構造解釈学派」『現代社会学理論研究』10: 102-114.
<文化生産論-有名な研究>
-文化生産論における有名な研究でよく修辞的に引用されるもの
DeNora T. 1995. Beethoven and the Construction of Genius. Berkeley: Univ. Calif. Press
Harrison C. White and Cynthia A. White, Canvases and Careers: Institutional Change in the French Painting World (Chicago and London: University of Chicago Press, 1993).
<文化生産論-「革新」研究および題材が音楽>
-文化生産論では題材として最もポピュラー音楽が特に計量研究では用いられる。そしてそのテーマの多くは「革新inovvative」研究の枠組みである。革新研究とはどんな条件ならば既存の秩序に対して革新的な文化産品が生まれるのか、および、多様なものが生まれるのか検討するテーマである。
Peterson, Richard A. and David G. Berger,1975,“Cycles in Symbol Production: The Case of Popular Music,”American Sociological Review, 40(2): 158-73.
Peterson, R. A., & Berger, D. G. (1996). Measuring Industry Concentration, Diversity, and Innovation in Popular Music. American Sociological Review, 61(1), 175–178. https://doi.org/10.2307/2096413(上記論文のfollow-up論文)
Kim de Laat, 2014, “Innovation and Diversity Redux: Analyzing Musical Form and Content in the American Recording Industry, 1990-2009,” Sociological Forum, 29(3): 673–97.
<文化生産論-ネットワークやそれに由来する効果の研究>
-特に組織社会学との交錯がここらの論点でもあるが、その見取り図は佐藤論文の先行研究パートを読むとよくわかる
佐藤郁哉,1998,「アート組織」『組織科学』 31(3): 4-15.
Uzzi, Brian, and Jarrett Spiro. 2005. "Collaboration and Creativity: The Small World Problem." American Journal of Sociology, 111(2): 447–504.
DiMaggio, Paul. 2011. “Cultural Networks.” In The SAGE Handbook of Social Network Analysis, edited by J. Scott and P. J. Carrington, 286–300. Thousand Oaks, CA: Sage Publications.
<文化生産論-音楽社会学における文化生産論の議論>
Timothy J. Dowd, 2004, “Production perspectives in the sociology of music,” Poetics, 32(3–4): 35-246.
<文化生産論に関するレビュー論文>
Alexander, Victoria D., and Anne E. Bowler, 2014,“Art at the Crossroads: The Arts in Society and the Sociology of Art,”Poetics,43: 1–19.
Godart, Frédéric, Sorah Seong, and Damon Phillips. 2020. "The Sociology of Creativity: Elements, Structures, and Audiences." Annual Review of Sociology, 46(1): 489–510.
<文化生産論-Genre研究>
-Geren研究の嚆矢的論文で、以下はポピュラー音楽研究の枠組みから始まった。Franco, Fabbri., 1982a, “What kind of Music?,” Popular Music , 2: 131-143.
Franco, Fabbri., 1982b, “A Theory of Musical Genres: Two Applications,” In: Horn, D. and Tagg, P., Eds., Popular Music Perspectives, IASPM, Exeter, 52-81.
Lena, J. C., & Peterson, R. A. (2008). Classification as Culture: Types and Trajectories of Music Genres. American Sociological Review, 73(5), 697–718.
Lena, Jennifer C., 2012, Banding Together: How Communities Create Genres in Popular Music, Princeton: Princeton University Press.
+α
柳原の論文を参考にしていただきたいが、Petersonに対してYaleのAlexanderを筆頭に文化社会学の論争があり、この点についてはまず1本目の論文を読んで、二つ目のprefaceを読んでいただきたい。理論的な部分の議論がわかると思う。また3本目のDimmagioの論文も読むと理論的な流れがさらによくわかる。
今Alexanderは現在https://www.palgrave.com/gp/journal/41290のチーフeditorである。
Pugh, A. J. (2013). What good are interviews for thinking about culture? Demystifying interpretive analysis. American Journal of Cultural Sociology, 1(1), 42–68. doi:10.1057/ajcs.2012.4.
John W. Mohr, Christopher A. Bail, Margaret Frye, Jennifer C. Lena, Omar Lizardo, Terence E. McDonnell, Ann Mische, Iddo Tavory, and Frederick F. Wherry, 2020,Measuring Culture,Columbia: Columbia University Press.
DiMaggio, P. (1997). CULTURE AND COGNITION. Annual Review of Sociology, 23, 263-287.
上記以外にも正直山ほどあるが一旦雑ではあるがざっとまとめてみた。選択の基準としては比較的そのテーマの見取り図がわかりやすいものなどを選んだが恣意性は多分にある。
私が文献をdigるやり方としては、基本は引用されている研究を見て、一つ一つ当たってみる。そしてアブストだけ読んで関係のありそうなものを見極めて、読む。回帰分析の場合は推定式も書き下す。そして毎度、批判を最低でも3こあげるようにする。基準としては、
①先行研究の構造化(ドメイン知識) ②手法の妥当性と操作化(メソトロジー) ③新奇性or書き方(学的貢献or書く技術)
各一つくらいである。まず冒頭に挙げたPetersonの二つの創設論文をぜひ読んでほしい。このテーマの見取り図や視点がどう違うのかわかると思う。この論文のABSの特集号の他の論文も面白いのでぜひ読まれるといいかもしれない。
次に計量研究のパッケージである。巷にはRを題材に社会学者が資料を提供しているが私は全くそんなことはしないし、codingについてそれに譲る。
まずぜひ統計検定2級を目安に頑張ってほしい。
統計検定2級の教科書としては、
である。これをこなしながら2級の過去問をまずやろう。次に合格したら、久保川先生の以下をやろう。
正直2級合格程度ではかなり難しいだろう。コツとしては丹念に数式を追いながら、線形代数や微分積分の大学受験程度の教科書や解説書を手元に置きながら読んで証明を行うのが良い。準一級を次に目指さそう。多分なんとか一周できれば合格はできる。1級の目指して頑張るのは全然良いが、研究のためにという意味ではここらへんで実際は十分である。
まずもって久保川本を苦しみながらでも一周できたら社会学の計量研究だったらtopジャーナルの論文も難なく読める(おそらく経済学では不十分な気がしている)。最近のトピックとして、因果推論や自然言語処理もあるが、この数学力と統計力があれば実際は大した話ではない(両者のトピックもいつかまとめる)。
とにかく統計学とそれを支える数学ができれば社会学であればおそらく大抵の論文は読める。GPTなど生成AIを用いて勉強を行えば、かなりの理解は進む。そして少しわかるようになってきたがnospareのセミナーなどで興味があるものがあれば受けてみるといいかもしれない。
お金は高いが学ぶところは多いし、日本のトップの研究者がやってるので内容は申し分ないし、座学のみならず手を動かして学ぶ機会はあると良い(回しもんではないよ)。
一旦こんなもんであろうか。これら以外にも機械学習やデータサイエンスのトピックもまとめたいが疲れたのでこの辺で。
興味がある人で聞きたいことある人いれば私に連絡くだしゃい(profileにメアドあるよ)。
こちらの記事は定期的に更新します。また、基本は私の個人の意見です。なので間違っているかもしれないです。指摘を送ってもらっても結構です。