「冷酷 座間9人殺害事件」(小野一光)
構成
・座間9人殺害事件の犯人白石隆浩との面会記
・公判記録
事件の概要
twitterを通じて出会った男女9人を殺害、解体した。全員が自殺ないし殺される願望を口にし、直接会う段階で殺して現金を奪う。また、殺害の前後に強姦する。
メモ
二ヶ月間のうちに被害者の物色と殺人を済ませ、それが9人に及ぶ。犯人は風俗のスカウトマンの経験があり、弱っている女性が操りやすいと考えた。SNSで検索する際には疲れた、寂しい、死にたいといったワードで行う。当初は女性のヒモになって生活を送る計画だったが、一人目の被害者と金銭トラブルになることを恐れて殺害する。その後、金銭よりも性欲を満たすことに比重が置かれる。
金づるにする女性と強姦してすぐ殺す女性との判別は経験則でわかる(らしい)が、回数を重ねるにつれて判別にかける時間が短くなった。SNSで物色した女性全員を殺害したのではなく、普通に付き合いを続けた女性もいる。
大まかな殺害までの論理は次の通り。
不仲の父親から自立することが出発点
→詐欺脅迫は手口が浮かばなかったためラクなヒモを目指す
→ヒモの関係は長期的には維持できないのでお金を引っ張れるだけ引っ張る方向に転換
→心が弱っている女性は操りやすいとのスカウトマン時代の経験からSNSで物色する
→一人目の被害者と金銭トラブルになる徴候が出たので事件になることを恐れ殺害する(当時は別件で執行猶予期間のため)
→以後、性交し、所持金を奪い、殺すことを繰り返す
感想
面会録を読むと2ヶ月で9人を殺したとは思えないどこにでもいそうな人という印象だった。筆者と会うにあたり事前に著作を読んで、しかも持ち上げる感想を話すのでコミュニケーションも上手い。聞き上手だったようだ。反面で、受験勉強に打ち込まず、その後後悔するように易きに流されやすい人物なのかとも感じた。これは面会で謝礼を要求する、ヒモを目指す、とできるだけ簡単にお金を得ようとしているので、そう感じるだけかもしれないが。強姦の快楽と強盗殺人・死体解体の苦労は割に合わないのではないかと思うが、犯行に慣れると解体に2時間程度で終わらせたというのだから釣り合っていたのだろう。強姦に快楽があり、殺人や死体解体はあくまで証拠隠滅のためとのこと。捜査員に事情聴取されたときにすぐに自白したり、9人も殺して死刑を回避できないだろうと控訴しないと明言したりするのも自棄か面倒事を流したいのかと思った。
犯行の発覚を防ごうと、自発的な失踪と思わせる書き置き、携帯の破棄を命じる、駅から自宅まで距離を取って案内する、真面目に捜索されない(と考えた)若い女性をターゲットに絞るなど入念に計画し、解体後は防臭に力を入れるなどネットで調べて試行錯誤するなかで様々な手を打っている。向上心と倫理観を備えていたら普通に暮らしもしかしたら社会的な成功も収めたのではと思った。
女性観も憎悪を伺わせる発言はなく、事件と並行して心を通わせていた女性もいた。ただお金を持っていて、簡単に見つけることができたのが自殺願望のある女性だった。後には性交での気持ち良さも加わる。被害者への申し訳無さを述べる場面もあり、何も感じていないというのでもない。
周辺取材がなされていないので詳細な生育歴もない。突如として短期間に連続殺人を犯すようになったのだが、単に事件を起こすまでは幸運にも条件が揃わずに平穏な生活を送っていたのだろうか。死刑が確定したので、新しい情報が出る可能性は低く疑問は解消されないだろう。
死刑が確定すれば家族や友人以外との面会ができなくなるので、結婚相手募集の記事を出してくれと言っていたのが印象的だった。
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