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詩の感想「薄明」立原道造
薄明 立原道造
音楽がよくきこえる
だれも聞いてゐないのに
ちひさきフーガが 花のあひだを
草の葉のあひだを 染めてながれる
窓をひらいて 窓にもたれればいい
土の上に影があるのを 眺めればいい
ああ 何もかも美しい! 私の身体の
外に 私を囲んで暖く香よくにほふひと
私は ささやく おまへにまた一度
ー はかなさよ ああ このひとときとともにとどまれ
うつろふものよ 美しさとともに滅びゆけ!
やまない音楽のなかなのに
小鳥も果実も高い空で眠りに就き
影は長く 消えてしまふ ― そして 別れる
◇感想(評)ー音楽のような律動が植物にも息づいているー
まずメタファーが素晴らしい詩だなと思います。
たとえば、音楽はこの詩の中で個々の瞬間や感情を音符のように表現しているな、っと。私には、花や草の間を風がそよぐことで美しさを表しているように感じられました(風とは書かれてはいませんが)
窓をひらいて、は新たな予感を示唆し、土に影がかかるのは人生に例えているかのようで。(人生というワードもかかれていませんが)
立原道造は瞬間、瞬間に自然の美しさを響かせる音楽を読みとっている。だが同時に儚さを強調して、美しさとは一過性の現象で、すべてのものは時間と共に消え去ることを暗示しているように思えてきます。
最終連で、小鳥や果物が眠りにつく場面からは、美しさは喪失を常に含んでいると言いたげで、影が長く消えてしまうという節は、美しさが時と共に過去へと去っていくことを暗示しているかよう(瞬間の美を永遠にとどまらせることができない感傷に詩人は浸る)
また『薄明』という詩のタイトルが秀逸だな、と思いました。