メディアに刺さる”切り口” まず意識すべき4つの視点
広報・PR担当者に求められる「メディア掲載」。
とくにスタートアップで求められる”攻めの広報”は、どれだけメディアにアプローチし、どれだけ掲載出来たか、が期待されていると思います。
ただ、どんな情報を提供すれば掲載されるのか分からない、広報関連書籍を参考にしているが上手く実践できない、とお困りの方が多いようです。
それを解決するには記者・ディレクターが取材をしたくなる「切り口」「メディアバリュー」を理解することが先決だと思います。
広報としてプレスリリースの執筆をしたり、記者に挨拶の電話をしたり、メディア関係者との食事会を実施してみたり、などの”どう情報を届けるか”を実践する人は多いです。
しかしそれでも記事にならない場合は”考えるノウハウ”を強化してみましょう。
本記事では広報・PR歴10年の私が考えるメディアに掲載される「メディアバリュー」を具体的かつ、なるべく実践できるレベルで解説したいと思います。
どう届けるかの前に、どう考えるか
意外と使う場面がこない「初」「新」「最大」「話題性」
広報関連書籍を読むと、メディアは「初」「新」「最大」が好き、と記載があります。しかし、なかなか「日本初」「日本最大」の分かりやすい製品の広報を担当する機会はやってきません。実際の現場では「初」「新」がない中でどうメディアに取り上げてもらうか?が論点になるのではないでしょうか。
また「話題性」を意識しろ、とも紹介されていますが、そもそも話題性がない商品をどう話題化させるかで困っている、という声を聴きます。
そこで私が効果的かつ、再現性が高いメディアバリューを高める4つの切り口ご紹介します。
①1億人に関係させる
例えば、気象情報は毎日のようにTV・新聞などの各種メディアで報じられます。他にも法改正や電力、ガソリン代、円安の影響などの話題も高頻度で報じられます。
バラエティ番組では「コンビニの人気商品ランキング」「百均のおススメグッズ」などをよく見かけるのではないでしょうか。
これは国内の1億人規模の人々の生活に影響を与える事象だからです。
基本的には記者、ディレクターは貴社のサービスを取り上げたいのではなく、人々(1億人)の生活の変化を取り上げたいと考えていると認識しましょう。サービスの機能や競合他社との比較の話は、1億人の多くに関係ないので興味を持たれづらいのです。
自社サービスを取り上げてもらうなら
「自社サービスは人々の生活様式のどんな変化を現す商品か」
「自社のサービスがないと人々の生活はどうなるか」
を語った方が興味を持たれやすくなります。
例えば以下ニュースは、3つとも1億人規模に関わるトピック、人々の生活の変化に絡めて特定の企業の商品・取り組みが取り上げられています。
商品の成分・価格・機能・競合の情報などは出てきません。
・気温の変化がきっかけで保湿グッズが取り上げられたケース
・年賀状を配達するロボットを開発したベンチャーが取り上げられたケース
・ 住宅ローン金融の専門家が選ぶ一都三県の「住みたい街ランキング」が取り上げられたケース
「1億人に関係させる」の実践方法
実際に自社の情報を「1億人に関係させる」ように変換します。
例① ベンチャー企業が採用管理ツールを新たにローンチ
ベンチャー企業が新サービスをローンチする、という話題はそのベンチャー企業にとっては重要な話ですが、多くの人々にとっては無関係です。
メディアバリューを高めるには、就活生全体の話にして関与人口を増やす手があります。
変換例「近年採用市場が●●に変化。それに合わせた新サービス・・・」
例② 化粧品会社が他社よりも色落ちしない口紅を新発売
他社商品との比較情報は消費者に店頭で訴求するときには必要ですが、メディアバリュー上はあまり有効ではありません。
メディアバリューを高めるには、人々の生活の変化の話にしてトレンドと関連付ける必要があります。
変換例「コロナ禍のマスク着用義務が解除され口紅が再注目 トレンドは・・・」
②弱きを助ける
自社のサービスが、誰の何を解決するサービスかを語るとき、社会の変化の中で人知れず困っている方、業種にスポットを当てて語るとメディアバリューは高まります。
例えば、物価高で苦労している業界で活用されていないか、コロナで生活が変わってしまった人々を助けていないか、などに注目しましょう。
キャディ株式会社というメーカーの調達部と町工場のマッチングサービスを提供しているベンチャー企業さんを事例に挙げさせていただきます。
キャディさんが提供するのは調達部と町工場の双方をサポートするサービスです。
しかし、メディアで紹介されるとき「町工場を助けるサービス」と紹介されます。「メーカーの調達部を助けるサービス」と紹介されることはあまり見かけません。
これは一般的に調達部よりも町工場の方が苦境に立っていそうなイメージがあり、「弱きを助けるサービス」として取り上げたいメディアの意向があるからだと推測されます。
「弱きを助ける」の実践方法
この切り口を自社に活用いただくには、利用ユーザーに注目します。
BtoCのサービスであれば、性別は男性よりも女性、年齢でいえば働き盛りの年代よりも高齢者や若者を助けていないか? 「買い物難民」「ヤングケアラー」などのキーワードにも注目です。
(女性や高齢者を勝手に「弱きモノ」とするのは失礼な話ですが、あくまでメディア露出の傾向として受け取ってください)
BtoBのサービスであれば以下の業種の企業に導入され、活躍していないか?をチェックします。
医療 / 飲食 / 物流 / 介護 / 教育 / 農業 / 中小企業など。
注意点として、ユーザーから「私たちを勝手に社会的弱者として扱ってほしくない」と言われてしまうようなコミュニケーションは避ける必要があります。ステレオタイプなパブリックイメージを活用する切り口なるので、丁寧なコミュニケーションが求められます。
③なぜ今
”今取り上げる理由”がないと、記者から「今後ニュースがあるときに掲載を検討します」と言われ、そのときがやってこない、、、となりがちです。
広報界隈では「新商品」「新発売」のタイミングが重視される傾向にあると思いますが、実は社会情勢や季節、法改正のタイミングなどを活用し、”今取り上げる理由”があった方がメディアバリューは高まります。
例えば以下などです。
コロナの影響で~
来年の法改正を前に~
年末商戦のピークを前に~
普段は注目を浴びにくい裏方の企業やBtoB企業なども、「なぜ今」があれば取材されます。
以下ニュースはその例です。
「なぜ今」の実践方法
「なぜ今」の切り口と自社サービスを結び付けるには、連想ゲームを意識します。
その時の大きな話題から連想し、自社サービスと紐づけます。
例えば、以下のようにです。
”コロナ禍になり、リモートワークが長期化している、だからストレスを抱えるビジネスパーソンが増えている、それを解決するのが弊社のサービス”
このように、今の話題から4番目までに自社サービスが連想できれば成立です。4番目までに連想できなければ話題が遠すぎて不成立ということです。
「なぜ今」の切り口でプレスリリースや企画書を作成して、編集部に送れば採用される可能性が高まります。
④意外性
4つの切り口の中で、もっとも活用しやすい切り口です。
自社サービスの想定ターゲットとは反対の属性に利用されている、一見すると全く関係がないと思われる場所・物事で利活用されているなどは「意外性」がありメディアバリューが高まります。
具体的には以下などです。
男性向け商品が女性に人気
若者向けサービスだが高齢者も利用している
最新のツールを創業100年の老舗企業が導入している
地方でニーズがありそうなサービスが都心でも利用されている
「意外性」の実践方法
「意外性」はなんでも反対の属性をもってくれば成立する訳ではありません。実際に「反対の属性に売れている」「人気である」「導入されている」という事実(ファクト)が必要です。
そのため「意外性」の仮説をもってファクトデータを探しましょう。
例えば、「男性向け商品」を扱っている企業であれば、「女性に人気と言えないか?」と考えます。
そして、売上データを取り寄せ、「昨対比で女性の購入数は増加していないか?」を見ていきます。女性の購入者が昨年よりも増えていれば「女性に人気」と言える立派なファクトデータです。
注意点は、「男性よりも女性の方が売れている」データを見つけようとしてはいけません。恐らくそこまでの逆転現象は起きていないでしょう。
他にも、以下などがファクトデータになります。
昨対比売上データなどで実際に伸びている顧客層はいないか?
SNSで表出していないか?
同様の事例が複数存在しないか?
また、マーケティング戦略のターゲットと不一致にならないよう、文脈は「(マーケティング戦略のターゲットである)男性の利用が広がっており、さらに昨今は意外にも女性にも利用が広がっている」とする必要があります。
肝に銘じておきたいこと
ここまでメディアに取り上げてもらうための「メディアバリュー」について解説しましたが、メディアに取り上げられれば何でもOKではない、ということは肝に銘じておきたい点です。
例えばメディアに取り上げてもらう手法として「ユニークな社内制度をつくる」が挙げられます。
猫の日(2月22日)に猫を代表取締役に就任させたり、推しの芸能人が結婚した次の日を有休OKにすれば取材を受ける可能性は高いでしょう。
ただし、それが自社ならではのメディア露出なのか?自社にどんなメリットあがるのか?です。
経営層や社内から広報業務をきちんと理解してもらうためにも、広報・PR担当者として以下を肝に銘じておきたいと考えます。
メディアに取り上げられる=正義 ではない
適材適所の情報発信手段を
知名よりも認知を
自社だからこそのメディア露出を