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Tellusでモバイル空間統計が使えるようになった話

衛星データプラットフォームTellusのMarketにモバイル空間統計が追加されて以降「これは色々使えそうだな」と思っていたのですが、先日活用事例の記事が掲載されていたので、大変興味深く拝読しました。

「マーケティング観点で、人の動きという指標は様々な企業が喉から手が出るほど欲しいデータ」のあたりをもう少し深堀してみたいと思います。

差分を見よう

一般的に「マーケティング観点で欲しいデータ」には大きく2つあって、ひとつは「ある時にどうだったか」というスナップショットのデータ、もうひとつは「ある時とある時の差がどうだったか」という二次データです。

昨今のニュースでも既にモバイル空間統計を活用したデータが様々紹介されていますが、いずれのニュースにおいても前者を紹介しつつ「この数字は2月の数字と比べて約○%の落ち込みとなっており…」と後者も紹介している様に見受けられ、可視化表示も増減率で表示することが多いです。

なお、こちらのNHKのWebページはagoop社のメッシュ型流動人口データを使用していると思われます。

今回の宙畑の記事の場合、12/31と1/1、10/24と10/31でそれぞれグラフを作成(スナップショット)していますが、両社の比較は定性的(見た目)での判断に留まっているので、例えば各時間ごとの差分を出してグラフ化するとか、地域ごとにメッシュ化して増減率を表示するとかすると面白いかもです。(やりたい)

人流をどうマーケティングに活用するか

よく「人流解析をしたい」という小売・流通関連の方は多いのですが、実はその意図をヒアリングしていくと「単純に知りたい」以上のことが少ないように思われます。

これは因果推論みたいな話なんですが、「このイベントの時にこれだけ人流が増える」が分かり、さらに「人流が増えると売上も上がる」というのが仮に分かったとして、それをどう使うか?というのがポイントになります

「気温が上がるとアイスが売れる」*というのが分かった時に「だからと言ってアイスを売るために気温を上げるのはできないよね、魔術師じゃなんだから」という話になるのと同じで、ほとんどの小売店舗にとって街の人流を店舗単体の力で増やすのは不可能です。

なので、仮に人流が解析できた場合、まずは在庫や発注などの適正化に向けた取り組みを考えます。
例えば、「人流がこうなる時に売上がこうなる」というのが分かれば、その売上にあわせて(在庫量を見ながら)発注量を調整することが可能になるかもしれません。
これはマーケティングというよりどちらかというと店舗運営や経営の話に近いです。

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*気温とアイスの関係は実は大変興味深くて、気温22~23度がもっともよく売れる一方、30度を超えると氷菓(かき氷)のほうが良く売れる、というデータがあります。

また、気温というより「前日との気温差」や「湿度」が関係しているという説もあり、地球温暖化のあおりによる近年の異常気象も含め、これからも研究が進められていく分野だと思われます。

ダイナミックプライシングの話

マーケティングに関係すると言えば、ダイナミックプライシングの話。
例えば人が多くて何もしなくても需要が増加しそうな場合は、商品の単価を上げる、人が少なくて何かしないと重要が減少しそうな場合は、商品の単価を下げる、という手段を講じることができます。
状況に応じた販促活動の一種だと言えます。

これは倫理的に色々言われるケースがあるのですが(民衆が「欲しい!」と言うときに値段を吊り上げるという行為が非難されるケースがある為)、実はスーパーのお総菜コーナーは似たことをやっています(夜9時を過ぎると20%OFFのシール貼るやつ)。

ここでプライシングカードが電子か紙かでオペレーションが大きく変わってきます。
電子棚札は家電量販店で増えてきてますね。ノジマさんやビックカメラさんは既に導入が進んできています。

電子棚札を導入していると、このダイナミックプライシングがやりやすいと言われています(システムと連動して広い売場の値札を一斉に変更することができるため)。

ただ、このあたりまでくると「そもそも(店舗に入店しているとは限らない周辺の)人流と連動させる必要があるのか?」という話が出てきます。
そうなると、だいたい「入店カウンタと連動すれば良いんじゃね」みたいな話になります。

出店計画への活用の話

次によく聞かれるのが、チェーン店やイベント企画会社が「次にどの場所に出店するか(イベントを実施するか)を考える上で使用する」というものです。
これは根本的な課題がひとつあり、そもそも人口減少の日本において店舗を増やすということが少なくなってきており、むしろ「どの店舗を無くすか」という方向に舵が切られている様な印象を受けます。
または、出店はするけれども本当に儲かるところにしか出店しない、という考え方(出店抑制)もあります。

そこに人流解析を活用出来る余地は無くもないのですが、これもマーケティングというより経営のお話に近いですね。

定量的な証拠としての活用の話

もう少し違う観点からいうと、「特にこれが分かったからと言って具体的なアクションに繋げるわけじゃないけど、単純に定量的なエビデンス*として欲しい」という場合があります。

例えば、「雨天時よりも晴天時の方がUSJ付近の人流は多いであろう」というのは感覚的になんとなく察しはつくのですが、それが具体的にどれぐらい?と問われると、20%増なのか50%増なのかはよく分かりません。

そういった時に、具体的に「○%増でしたよ」ということは、納得感を高める意味でも効果があります。やっぱりそうか、そんなに増えていたのか、という議論に繋がり、「では、具体的に対策を考えていこう」という意志決定の補佐的な役割をすることもあります。

実はこれも大切なことで、こういったデータが無いと議論は堂々巡りになりがちです(特に日本の場合)。
その場合、こういった具体的なデータを示すだけで、経営者・管理職10人分の1時間の会議時間(コスト)を減らすことができるかもしれません。

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*余談ですが、『「原因と結果」の経済学』という名著ではエビデンスをもっと厳格な意味で用いていると言っており、「因果関係を示唆する根拠」として捉えています。
単なる「数値的な証拠」的な意味で使うと、たまに話が合わない場合があるので注意が必要です(経験談)。

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