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職場に潜む妖怪の蒐集 note版

はじめに

このnoteは、先日公開した「職場に潜む妖怪の蒐集」というスライドについて言葉やリンクを補足して解説してみたものです。

経緯

私の立場

私は立場上、所属している企業の課題に日々向き合っています。また、その流れで過去所属していた会社や他の大企業・老舗企業・製造業の会社などの課題にも向き合っています。

"向き合う"といってもやっていることはかなり地味で、悩みや課題を持っている人のお話を聞くといったことから始まり、そのような課題を具体化したり抽象化したりしながら、少しずつそのメカニズムを考え、出来ることであれば対応策(処方箋)を考えたりしています。

そんな日々の過程で分かってきたことがあります。
それは、あまりにも課題が多すぎて複雑に絡み合っている、ということです。

複雑に絡み合う課題たち

例えば「プロジェクトがうまくいっていない」という課題があったとします。その話を聞いていくと、「人が育成されていない」「社風が悪い」「プロセスが実態とあってない」「組織がプロセスとあってない」など、別の課題が出てきます。

そして、それらの課題は相互に影響し合っており、「社風が悪いから組織が変わらない」などといった別の複合的な課題に進化したりします。

また、誰か一人の人が悪いとか、なにかひとつの課題が悪いとか、そんなに単純なものではありません。なのですが、話を聞くと誰かが誰かを憎んでいたり、課題の原因について大きな誤解をしていたりすることがあります。その結果、全体として悪い結果が生まれているのです。

私はそんな状況に直面し、20年ぐらい前に読んだスポーツノンフィクションのフレーズを思い出しました。金子達仁さんの『秋天の陽炎』です。

誰かに対して悪意を抱いていたものは、
最初、一人もいなかった。
なのに、すべてが終わった時、
フィールドには様々な誤解が
転がっていたーー

秋天の陽炎より抜粋

きっかけ

スクラムフェス三河2024

そんな中で、スクラムフェス三河2024であるセッションと出会いました。正確に言えば、このイベント自体にはリアル参加をしたのですが、このセッションが行われている時間は別のことをしておりリアルタイム聴講が出来なかったため、後からスライドを確認し、登壇されたご本人ともお話をさせていただいた、という経緯になります。

その中で、ワークショップ「妖怪ウォッチ」というものが紹介されていました。これは、『組織が変わる――行き詰まりから一歩抜け出す対話の方法2 on 2』という本に書かれている手法で、2on2の中で組織の中で見かけた課題に妖怪のような名前を付けて挙げていくというものでした。

私はこれを知った時、「なるほど妖怪か、面白そうだな」と思いました。ただその時は、単に面白そうと思っただけで、それがどう面白いのか、本当に役に立つものなのかはよく分かりませんでした。

チェンジ・モンスター

もうひとつのきかっけは、ボストンコンサルティングが20年ぐらい間に提唱をしている「チェンジ・モンスター」という概念についてたまたま知ったことです。

これは、日本企業の改革を妨げる様々な課題をモンスター(怪物)という形でコミカルに表現しているもので、やっていることはほぼ前述の「妖怪ウォッチ」と同じようでした。

前編と後編の記事のリンクを貼っておきますので、興味がある方はぜひご覧ください。

両者ともに、課題を誰かのせいとか特定の組織のせいとかにするのではなく、妖怪(モンスター)のせいにしてしまおうというものなのです。

つまり、アニメ『妖怪ウォッチ』のテーマソング「ようかい体操第一」になぞらえて言えば、「妖怪のせいなのね そうなのね」ということです。

【閑話休題】妖怪・鬼・怪物・怪異・化物

妖怪について調べていくと、妖怪はそもそも社会に対する風刺や警鐘といった意味で作られたものであるという説に出会います。

子供に「鬼が出るぞ」と言うのも、「その場所や行為には危険が多いがその危険の度合いが伝わりづらいので"鬼"という子供にも伝わりやすいメタファーで伝えている」ということだそうです。

先のアニメ『妖怪ウォッチ』も、以下のように紹介されています。

世の中の困った問題や不思議な現象は全て「妖怪のしわざ」とされており

妖怪ウォッチ Wikipediaより抜粋

妖怪の他にも、鬼・怪物・怪異・化物などいわゆる魑魅魍魎の数々は、細かい差異はあれど似たような文脈で生まれてきたというところもあるようです。

企業における妖怪蒐集

妖怪蒐集の旅

そういった経緯で、私は"職場に潜む妖怪"を集めることにしました。
まずは、自分が思いついた妖怪をExcelに書き出してみることから始めました。また、様々な対話の機会で妖怪について話をふってみました。

また、自分はまだ妖怪について何も知らないかもしれないと思い、「妖怪ウォッチ」「ゲゲゲの鬼太郎」「物語シリーズ」(化物語など)のような漫画・アニメや京極夏彦さんの書籍をあたりました。
もちろん学びのためです。

わかったこと

正直なところ、自分がやっていることは会社の人にとってみたら奇怪に映るだろうな(妖怪だけに)と思ってました。

ですが、実際に話題に出してみると、想像以上にみんなノッてきました。それも、普段はまじめでこのようなことに付き合ってくれるようなタイプではない方も「面白そう!」とか「それ、よさそうですね!」と言ってくださりました。
お、これは人を引き付ける何かがあるんだな、と思いました。

ポジティブな意見としては次のようなものがありました。

  • 名前つけるのいいね(名前をつけることで認識が出来る)

  • 誰も傷つけないね("妖怪のせい"なので)

  • ポップでユーモアがあるね

  • いわゆるパターンランゲージのひとつですね

  • これはみんなでワイワイ探したいですね

  • 視点を変える方法のひとつですね

  • イラスト・画像があるとさらにイメージ膨らみそうですね

【閑話休題】UNDEAD

ちなみにこのブログ書いてる間、ずっと『〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン』主題歌であるYOASOBI「UNDEAD」を無限ループで聞いてました。

以下の歌詞が今回の妖怪蒐集の物語にぴったりだな、と思ってました。

この世この世は奇怪奇怪ファンタジー
生き抜けこの化物ばかりの物語

YOASOBI「UNDEAD」より抜粋

見つかった妖怪の例

例えば以下のような妖怪が見つかりました。

妖怪モチベ削り

「こうしろ」「ああしろ」と指示したり「これはダメだ」と評価したりして、ひたすらまわりのモチベーションを削る

妖怪リアクション薄い芸人

「リアクション芸人」の対比概念。何を提案してもリアクションが少なく、適切なフィードバックが得られない

妖怪怒られたくないドリブン

発言や行動に対して批判されたり怒られたりすることが多いそれなら怒られないように黙っていよう・静かにしていよう

ところで、名づけはとても重要だなと思いました。センスが問われます。

そして、「イラスト・画像があると良い」という話から、早速「妖怪モチベ削り」を画像生成AI(Copilot/DALL-E)を使って画像にしてみました。

このように名前を付けたり画像にしたりしてみることで、これまで見えているようで見えていなかった課題がありありと可視化されてきたように思いました。実際には実体(実態?)のない妖怪が可視化される、というその現象が不思議で面白いなと思いました。

【閑話休題】蒐集

タイトルで私は「妖怪の"蒐集"」という言葉を使いました。
蒐集(しゅうしゅう)は収集とほぼ同じ意味を持つのですが、ある特定のジャンルを集めたりコレクター的な意味合いを持たせたりするときはこの言葉を使うことが多いようです。

私は単に「蒐」という字に「鬼」という字が含まれているのが、妖怪や怪異っぽくて雰囲気が出ている、という理由で使っています。

『組織が変わる』における妖怪

『組織が変わる』サマリ

さて、ここで少し話を戻して、前出のスライドで紹介されていた書籍『組織が変わる』について触れます。

この書籍では、組織の問題を"慢性疾患"というメタファーで解説しています。慢性疾患は根治が難しいもので、今すぐ人命にかかわるわけではないものの、何もしないと悪化の一途をたどる、とされています。
症状を落ち着かせてうまく病気と付き合っていくしかないのです。

そして、この慢性疾患にはセルフケアが大事とされており、相手との対話を積み重ねていくことが必要であるとされています。

『組織が変わる』における妖怪

そしてこの『組織が変わる』では、組織における問題に名前をつけることを「妖怪探し」と表現しています。そして、普段の職場において「あれ、おかしいな?」と思うようなセンサーを身に付けましょう、とありました。これは「ゲゲゲの鬼太郎」で言うところの鬼太郎の妖怪アンテナのようなもので、妖怪が近づいたらピーン!と髪が立つようなものだと理解しました。

自分には何ができるのか?

以上のようなことを理解した上で、改めて自分には何ができるのか?を考えました。

対話の機会をもつ

まずは何よりも、対話の機会を持つことが大事だと感じました。
妖怪は会議や報告資料からはなかなか見つかりません。普段から職場を観察したり、人とお話をしたりする中で見えてくるだと思われます。

まずは自分の組織内で、少し広げて部門横断的な取り組みの中で、あるいはアジャイル関連のコミュニティの取り組みの中で、またはSNSなどで、対話の機会を持ってみようと試みました。
今このnoteを書いているのもその一環です。

汎化して伝える

『組織が変わる』では、問題を単純化しない、ということが書かれていました。これは私もたいへん同意です。
対話を進めていくことでさまざまな事例(怪異の物語)に出会うと思います。それらの事例を汎化することで、何かしらのパターンに集約していけると良いのではないか、と思っています。
それが妖怪のようなメタファーとして整理できれば、それを伝えていきながらさらに対話を醸成できるはずです。

「こんな妖怪いるよね」で終わりにしない

対話と汎化を繰り返していけば、おそらく妖怪はどんどん集まっていくと思われます。これは、先述の経験からして興味関心を持ってくださる方は多いでしょうから、いろいろな物語が集まってくると思うのです。
それをExcelにまとめていけば、いつしか「妖怪大図鑑」が出来ることでしょう。

それはそれでもちろん大きな成果なのですが、私は別に怪異譚や妖怪物語の蒐集家ではありません。それで終わってしまっては組織は変わりません

対話の中で妖怪に対する向かい方も考えていく必要があり、妖怪vsわたしたちの構図にしていきたいと思っています。

気を付けたいこと

ここでひとつ、気を付けたいことがあります。
それは、妖怪に気を取られるあまり"その世界"に取り込まれてしまわないようにしたい、ということです。

職場の課題に取り組んでいると、様々な状況が見えてきます。これはいわば、サッカーでボールを取り合ってデュエルしているところから一歩離れてフィールド全体を俯瞰してみると、他のプレイヤーがどのようなポジションを取っているかが分かる、ということに近いです。

そして状況が分かるがゆえに、人のお話の課題や背景が分かってしまうので、深く納得したり「わかるわかる」と共感することが多くなります。そしてそれが課題に対する文句や愚痴のようなものだったとしても、それに共感したくなってくるのです。

ところが、このような文句や愚痴のようなものに共感をし始めると、だんだんと"その世界"に誘われているような感覚を覚えるのです。これはとても自然な誘(いざな)いなので、よほど注意深く意識しておかないと、そのまま"その世界"にもっていかれてしまうような気がしています。

そうこうしているうちに、いつか自分自身が妖怪になってしまうことがあるのではないか、という恐怖が湧いてきました。そのような展開の漫画やアニメがあったように思いますが、それは漫画やアニメの世界だけにしておきたいものです。

【閑話休題】画像生成AIによる妖怪

私は上に掲載した「妖怪による誘い」の画像がとても良くできていると思っています。雰囲気が出ていますよね。
ただ、"妖怪"というのは日本独特の文化のようで、海外発の画像生成AIに妖怪と言っても、幽霊や怪物のようなものが出てくることが多かったです。妖怪とはいったいなにか、ということを画像生成AIに教え込むと、だんだんとイメージした妖怪が出てくるようになりました。

おわりに

職場に潜む妖怪とその蒐集について書いてみました。
この物語はまだ始まったばかりで、アニメで言えば1クルール12話のうちの第1話がようやく終わったといったところかと思います。
これから様々な妖怪に出会うことになると思いますが、自分自身が妖怪にとらわれないようにしながら、職場に潜む妖怪たちとうまく付き合っていきたいと思います。

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