製造業アジャイルについて対話を重ねたスクラムフェス三河2024
スクラムフェス三河2024にリアル参加してきました。
新幹線が通っている豊橋駅から徒歩10分程度のemCAMPUS STUDIOという綺麗な施設で開催され、関東在住の人間としても参加しやすかったです。
三河は製造業アジャイルの聖地と呼ばれているそうで、スポンサー企業さんを見ても分かる通り、製造業関連の企業の参加が多かったです。
そのため、登壇内容やセッション合間も「製造業あるある」の話をすることが多かったので、そのあたりを中心に感じたことを添えてまとめブログを書きます。
平鍋さんの上ロジと下ロジの話
Day1の平鍋さんのkeynoteセッションは終始ぶっ刺さりまくりでした。
組織論と絡めて、製造業アジャイルが普及するには「上ロジ」と「下ロジ」が大事だというお話をされていました。
「ロジ」は「路地」(道)という意味とLogistics(兵站)の意味を掛けていたようですが、私はこの話を聞きながら失敗の本質をずっと思い浮かべてました。
すなわち、現場(戦いの前線)と本社(大本営)とでロジが伸びきってしまっているのではないか、現場の状況を本社も理解してないし、本社の方針も現場は理解していないのではないか、ということです。
メカアジャイルの事例を紹介
Day2には登壇もさせていただきました。
自分たちの取り組みを基にしてハードウェアアジャイルの実例を紹介させていただきました。
その中ではQA2AQの話もして、組織の壁を乗り越えられるような仕組みづくりの話もしました。
製造業アジャイル「あるある」話の数々
これらのセッションを契機として、いろんな会社さんとセッションの合間にお話をしたり、「83らじお」なるラジオで対話させていただきました。印象に残った話を共有しておきます。
おじゃる様問題
「83らじお」では、話を上にあげていくときに、いろいろな会議体を通さないといけない、その会議体ごとに事前会議みたいなものがあり、その時に情報が欠落する、あるいは誤った情報が伝わってしまう、という話をしました。
ここから「おじゃる様問題」についても話をしました。
これはまさに平鍋さんの「ロジ」の話にも繋がると思っていて、ビジネスという「戦争」において、情報という「補給品」が、ロジが長すぎて分断されて伝わっていかない状況が起きているのではないか、という話です。
また、戦場で決裁もらうためにこんなに時間使ってたらやってらんないよね、みたいな話から、潜水艦艦長の話もしました。
個別チャットが多すぎる!
アジャイルやスクラムに限らず様々な学びあいの場としてコミュニティを作るのですが、運営側としては基本的に情報はオープンにしてみんなで共有しようと呼びかけます。
ところが、相談事項は個別個別にチャットが来ることが多いです。
情報の秘匿を考えると分からなくもないのですが、とても良い事例だし様々な知見があると思うし、「こんなことで困っているんだよ」というのはぜひもっとオープンにした方が様々な協力を得られるチャンスがあっていいよね、なんて話をしました。
ところで、サブタイトル「個別チャットが多すぎる!」は豊橋を舞台にしたアニメ「負けヒロインが多すぎる!」からインスパイアされています。たぶん多くの皆さんは気付きましたよね。
(会期中はちょうどアニメ放映中だったため、個人的にもいろいろな場所に聖地巡礼してきました。これを語りだすとこのブログが3倍くらい長くなるので、写真を1枚だけ掲載しておきます)
今後この「〜が多すぎる!」はちょっと流行らせていこうかな、とひそかに目論んでます。
技術流出に繋がる可能性がある?
会社の名前を出すと登壇できない、あるいは登壇の決裁が下りるまで2,3か月かかる、なんて話もありました。
製造業は特に知財・特許やアイデアが勝負だという意識も強く、情報を囲おうとする性質があります。これが先ほどの「個別チャットが多すぎる!」問題にも繋がると思っています。
参入障壁に繋がったりNDAを締結していたりする機微な情報はもちろんオープンにはできないですが、ノウハウやナレッジに関してはある程度情報は出尽くしていると思っていて、会社内で囲うよりもオープンにして語らい合う方がよっぽど学びも増えるしお互いにとっても良いと思います。
また、情報はオープンにすればするほどその人に情報が集まってくる、という性質があると思っています。つまり、オープンにしない手はないです。
現場の解像度が低い
とにかく経営層・管理職層の現場の解像度が低いよね、なんて話も出ました。これもロジの話に繋がりますね。
私はこの時、本田宗一郎が地べたに這いつくばるような形で、カーブを曲がるバイクをのぞき込んでる写真を思い出しました。
kyenoteの平鍋さんと共著を書かれている野中先生がこのあたりについて触れられています。
果たしていまの製造業に、現場にここまで密着出来ている上位層の方がどれぐらいいるのでしょうか。
また、逆に現場の人も会社や経営層についての解像度が低い、という話もありました。
ここでも私は『失敗の本質』を思い出していて、戦況が進むにつれて東南アジア諸国に戦線を拡大していくものの、距離が長くなりすぎてお互いに詳細な状況が分からなくなっているのかもしれないと感じました。
ただ、帰りの新幹線で考えていたのですが、不思議なことがひとつあります。
それは、第二次世界大戦(太平洋戦争)時であれば情報の伝達は限られた手段(人、電波など)しかありませんでしたが、現代ではインターネットがあります。オンライン配信の仕組みもあり、情報には事欠かないはずです。それなのに、なぜこのようなことが起きているのか?そこはもう少し探求が必要になりそうです。
ハードウェアファースト
平鍋さんのkeynoteでは、士農工商 メカ・エレキ・ソフト というキーワードが出てきました。
私も登壇でメカ・エレキ・ソフトについて触れたのですが、このあたりからハードウェアとソフトウェアの軋轢の話に広がりました。
やはり製造業ではハードウェアファーストになっていて、ソフトはおまけ、という風潮がまだ強いようです。
実際に売上の話になると、ハードウェアを1発売れば数百万円~数千万円なのに、ソフトウェア(SaaS)だと月額数万円とか、開発・営業コストに比べてわりに合わない(と考えている人が多い)、なんて話もありました。
ちょうどタイムリーに及川卓也さんの「ソフトウェアファースト」第2版が発行されたので、このあたりの思考の整理と合わせて読んでいるところです。
この話は「どちらがより権威が高いのか」という論争になると途端に泥仕合になります。「どちらを先に考えるとより人が幸せに仕事が出来るか」「どのような順番だと生産性が高まるのか」といった観点で考えるとよいのかもな、と感じています。
みんなで避難
Day2も終わりにさしかかろうというときに、会場の館内4階で火災発生のアナウンスがありました。
ですが、スクラムフェス三河参加者は大きな混乱も全くなく、みんな落ち着いて5階から階段を下りて避難していきました。
最後にはみんなで集合写真を撮ったりしてました。
(結果的に火災報知は誤報だったようです)
私はこれを見てて「あ、みんな自己組織的に動いてるすごい」って思いました。と同時に、階段を下りて避難しているときに、製造業の会社だともしかしたらあらかじめ決められた防災担当者が誰かを探し出し、その人から指示が出るまで待つ、あるいはその人の指示じゃない行動をしようとする人を咎めたりしていたかもしれないな、結果逃げ遅れてたかもしれないな、とか思ってました(半分冗談で半分本気です)。
改めて「製造業アジャイル」とは何か?
いくつかの課題を挙げましたが、「製造業にはポテンシャルがまだまだあるから、できることはたくさんありそうだよね」という話もしました。
改めて「製造業アジャイル」って何だろう?って考えてみると、
△ 製造工程でアジャイル開発する
〇 製造業という文化の温故知新
という感じかなと思っています。
登壇でも雑談でも別にアジャイル"開発"の話がメインではなくて(そういう話ももちろんありましたが)、そこに付随する組織構造とか社風とか文化とかそのあたりをいかによくしていくか、という話が多かったように思います。
また、これまでの悪い文化をバッサリ断ち切ろうという攻撃的な感じでもなく、良い文化は認めつつ、新しい考え方を知っていくということが大事なんじゃないかなと思っています(だから温故知新)。
製造業には「アジャイル」という言葉に眉を顰める方も多いです。
「適当」「低品質」「無計画」といった誤ったイメージを持っている方もいらっしゃいます。
私たちも、やりたいことは「よりよいあり方」であるはずです。
そのあたりの意識や文化のすり合わせが、今後も必要になってくるのかなと感じています。
まだ私も整理しきれてないのですが、なにか製造業アジャイルというものを進めていく上で大きなヒントをもらった、そんな2日間だったなと思っています。