「内之浦宇宙空間観測所」は「かんそくじょ」か?「かんそくしょ」か?~臼田と内之浦 ふたつの宇宙空間観測所の表記に関する考察~
先日このようなつぶやきをしたところ、いくつか反響をいただきました。
それまで全然考えたこともなかったのに、急に「あれ?観測所って『かんそくじょ』だっけ『かんそくしょ』だっけ?」と気になったので、調べてみました。
タイピングゲーム的になんか影響ある?
タイピングゲーム的に、「しょ」と打つか「じょ」と打つかは、少し違いがあります。「しょ」の場合は一般的に
sho
syo
のどちらかで打つことが多く、「じょ」の場合は一般的に
jo
が多いのですが、「じょ」は右手だけで完結する一方で、「しょ」は左手と右手を使うことになります。どちらが速く打てるか、間違いなく打てるかは人によって異なるのですが、私の場合は「sho」に比べると「jo」の方が打ちやすいし速いです。
また、タイピングゲームの中には打ったローマ字のアルファベット文字数によってスコアが決まる場合があります。そのため、アルファベット3文字の「しょ」はアルファベット2文字の「じょ」よりもスコアが高くなる可能性があります。
タイパー(タイピングゲームにハマっているゲーマーのこと)の中には、「水増し打ち」という裏技を使う方もおり、たとえば「しょ」を
shilyo
と6文字で打つ方もいます。
つまり、「しょ」と読むか「じょ」と読むかはタイピングゲームのスコアに関わることであり、ゲーム的にはわりと重要なのです。
また、単純に表記ゆれがあると気持ち悪いので、正しておきたいですよね。
そもそもWikipediaの表記は正しいのか?
まず検証したのは、Wikipediaの表記が正しいのかどうかです。
Wikipediaには「なぜウィキペディアは素晴らしくないのか」というページがあります(自分で自分のことを「素晴らしくない」と言っているあたりに好感が持てますね)。
そこで記事の品質について語っているのですが、以下のような記載があります。
Wikipediaは誰もが編集可能であるという特性があるため、そもそもここの記載が公式であるとは言えず、正しいと言えない可能性もあります。
今回の場合、臼田宇宙空間観測所のページ↓
では、
と表記があり、内之浦宇宙空間観測所のページ↓
では、
と表記がありましたが、このひらがな読みが公式・正式なものとは限らないのです。
JAXA公式を見てみると?
じゃあ、公式をちゃんと確認しよう!ってなりますよね。
ということでJAXAの紹介ページをあたってみました。
ひらがな読みが書いてねぇ…。
念のためリーフレットや施設案内ページをくまなく探しましたが、少なくとも私が確認した限りは公式の読み方が見当たりませんでした。
ひらがな読みはキッズページ(ファン!ファン!JAXA!)に載ってるのでは?
次に考えたのが、大人向けページだとなかなかひらがな読みが書かれないかもだけど、キッズページならちゃんとひらがな読み表記がされているのでは?ということで、「ファン!ファン!JAXA!」*をあたってみました。
*「ファン!ファン!JAXA!」自体はキッズページというより一般の方向けにわかりやすく宇宙や航空の解説をしたりコンテンツを掲載しているページですが、その中にキッズ向けのページが存在します。
ですが、ここにもひらがな読みは記載がありませんでした。
っていうか、ここの案内ページさっきのJAXA公式のものと大差なくない?
国土地理院的には?
次に考えたのが、国土地理院が発行する地図データなどです。
以前「地名等の英語表記規程」を発行されていたのを覚えていたので、こういった施設一覧のひらがな表記の規定なども作られているのでは?と考えました。
https://www.gsi.go.jp/common/000138865.pdf
ですが、結論から言うとそういったものは見つけられませんでした。
もしご存じの方がいればぜひ教えてください!
観光情報はどうだ?
次に考えたのが、観光情報です。
一般に公開されている観光情報が公式な情報かと言われると微妙なところはあるのですが、参考にはなりそうです。
例えば臼田については「アソビュー!」に以下のような表記を見つけました。
お!「カンソクジョ」って書いてある。
一方で内之浦の方はどうでしょう?
鹿児島県観光サイト「かごしまの旅」では以下のような表記を見つけました。
おお!「カンソクショ」って書いてある!
他はどうでしょう?
「かごぶら!」では以下のような表記を見つけました。
おおお!こっちも「カンソクショ」って書いてある!
もしかしたら、臼田は「かんそくじょ」、内之浦は「かんそくしょ」がやっぱり正しいのでは?という気持ちになってきます。
NHK的には「かんそくじょ」も「かんそくしょ」もありっぽい?
そんな中で、ある有力な情報をいただきました。
なんと!
こちらで引用されている「音訳の部屋ー読み方辞典」では以下のような記事がありました。
こちらで引用されている「NHKことばのハンドブック第二版」によれば、観測所は「(~ショ)(~じょ)の2通りの発音を認める語」とのことです。
これを見て気付いたのですが、言われてみれば「観測所」だけでなく「~所」という用語は他にもいろいろあります。
宇宙関連でも「通信所」などがあります。
ですが、確かに「~ショ」と読む場合と「~ジョ」と読む場合が混在しています。
「市役所」は「しやくしょ」とは読みますが、「しやくじょ」とは読みません。
逆に「洗面所」は「せんめんじょ」とは読みますが、「せんめんしょ」とは読みません。
そんな中で、「観測所」は「かんそくしょ」「かんそくじょ」のどちらも認めるとされているようでした。
なお、「音訳の部屋ー読み方辞典」については以下のような記載がありました。
確かに、視覚障害者の方にとって「読み方」はとても大切なものですよね。
YouTubeではどうよ?
この「音訳」にヒントを得た形になったのですが、「そういえばYouTube動画でどう発音しておけば見ればいいじゃん!」って気付きました。
こちらで取り上げていただきました。
確かに動画を見ると、「~かんそくじょ」って発音しているんですね。
(37分18秒あたり。打ち上げ直後に「~イプシロンロケット6号機は~内之浦宇宙空間『かんそくじょ』から打ち上げられました」と言っています)
もちろん、この動画しか見てないのでもしかしたら他の動画では「~かんそくしょ」って言ってるかもしれないですし、この発声をもってして「公式」と言えるかどうか微妙なのですが、少なくともWikipediaの表記(「~かんそくしょ」)とは異なる発声をしているようだ、ということは分かりました。
前後の言葉によって読み方が変わる?説
このような説もいただきました。
確かに、前後の言葉の表記や読み方によって、その読み方が変わる、ということはありそうな気がします。
先の例でいえば、「市役所」は「しやくしょ」と読むとされていますが、「所」の前が「く」となっています。
「観測所」も「所」の前が「く」なので、同様に「かんそくしょ」と濁らない方が美しいようにも思えます。
役割・所管によって読み方が変わる?説
次に、「もしかして経緯や役割によって読み方が変わるのでは?」ということを考えました。
臼田の方は主に探査機との通信を役割としており、64mパラボラアンテナでは「小惑星探査機はやぶさ2」などと通信を行っています。
JAXA統合追跡ネットワーク技術部が維持管理を行い、宇宙科学研究所が運用を行っています。
一方で内之浦の方は主にロケット打ち上げを役割としており、イプシロンロケットなどの打ち上げが行われます。
もともとは宇宙科学研究所付属の東京大学鹿児島宇宙空間観測所でしたが、現在はJAXAの「鹿児島宇宙センター」という組織における「種子島宇宙センター」の傘下にある施設、という位置付けになっています。
つまり、臼田と内之浦は同じ「宇宙空間観測所」ですが、その役割と所管はだいぶ異なるのです。
もしかしたらこれがなにか関係しているのでは?と思って探ってみたのですが、結局「JAXAのWebページにひらがな表記が無い」問題のため、特に何も分かりませんでした。
アンケートをしてみよう!
では一般的にどちらで読んでいるのか?
Twitterで簡単なアンケートを行ってみました。
97人もの方にご協力いただき感謝です!
「かんそくじょ」が84.5%で圧倒的に多い、という結果になりました。
ちょっと微妙なのが、
一般的に「観測所」は「かんそくじょ」って読む
って考えて「かんそくじょ」に投票した方と、
「内之浦宇宙空間観測所」について「かんそくじょ」って読む
って考えて「かんそくじょ」に投票した方が混在してそうだな、と思いました。
結論、「かんそくじょ」で統一することにした
ということでなんやかんやと調べたのですが、結論はいまいちはっきりしませんでした。
ただ、どちらかに決めなければなりません。
「かんそくじょ」でも「かんそくしょ」でもどちらで打ってもいいよ、というタイピングゲームにはさすがに出来ないのです。
さんざん悩んだ末に、タイピングゲーム上では臼田も内之浦もどちらも「~かんそくじょ」で統一することにしました。
うすだうちゅうくうかんかんそくじょ
うちのうらうちゅうくうかんかんそくじょ
これでいきます。
理由としては、
公式表記が見当たらない(公式に決まっていない可能性がある)
一般的にはどちらで読んでも構わないっぽい
かといって統一されていないと誤打を招くことになりゲーム的にもよろしくない
アンケート結果およびWebページの表記から「かんそくじょ」のほうが一般的っぽい
という理由です。
もちろんこれは、「かんそくしょ」という表記を否定するものではなく、あくまでタイピングゲーム上では「かんそくじょ」で統一するというだけになります。
UDSCとUSC
ところで、もうひとつ面白いことに気付きました。
もう一度、内之浦宇宙空間観測所と臼田宇宙空間観測所のWikipediaを引用します。
英語表記について、おや?と思いませんか?
そう、
臼田にはDeepが入り、略称にもDが入る
内之浦にはDeepが入らず、略称にもDが入らない
のです!おなじ「宇宙空間観測所」であるにも関わらず!
いやいや、なんでそんな統一感ないことしてるん?って思いませんか?
これについてもちょっと調べたのですが、これは先ほど紹介した役割・所管が関係しているのではないかと予想しています。
臼田は探査機との通信が目的であり、深宇宙(Deep Space)とのやりとりのイメージがある
内之浦はロケット打ち上げが目的であり、深宇宙(Deep Space)というイメージはあまりない
また、臼田も内之浦も両方とも「U」から始まるため、そのまま略称を付けたら同じになってしまうことから、わざと「Deep」を入れるのと入れないのとを分けたのではないかと想像しています。
ちなみに、先に紹介したJAXA公式ページを見ると、そこには英語表記も略称表記も記載がありませんでした。
記載ないんかい!
公式に記載が無いのが一番びっくり
今回ふとした疑問からいろいろ調べてみたわけですが、一番びっくりしたのが、公式にひらがな表記の記載が無い(見つけられなかった)ということです。
また、上記の通り英語表記も略称表記も記載がありませんでした(見つけられませんでした)。
臼田も内之浦もある程度公的な施設だと思いますので、何かしら公式な表記が間違いなくあるだろうと思っていたのですが、まさかの見当たらず、ということに一番驚きました。
漢字があまり読めない子供や、単純に読み方を知りたい方、英語で表記したい方、前述の音訳など、ニーズはいろいろあるかと思うので、そのあたりはすぐに検索できるように分かりやすく掲載しておいてもらえると助かるな、と感じました。
そもそも公式とは?
さらに話がデカくなるのですが、今回の件で「そもそも公式とは何か?」ということも考えました。
少なくともWikipediaの表記は公式とは言えなそうです。
ただ、JAXAのWebページをあたっているときに、「そもそもJAXAが表記したものが『公式』と本当に言えるのだろうか?」という疑問もありました。
JAXAが決めた表記ではなく、他の誰かが決めた表記をJAXAが転記しているだけかもしれませんし、仮にその過程で誤って表記していたら、本当は「公式は別にあるのにJAXAが誤って表記しただけでそれが公式っぽくまかり通っている」という事態もありえそうです。
国土交通省・国土地理院などが決めていれば、そちらの方が「公式」なのかもしれません。
あるいは、そういった施設の公式表記は都道府県や市区町村などの自治体の管轄の可能性もあります。
だとしたら、世の中に出回っている用語辞典はいったい何を「公式」としており、なにを「出典」としているのだろう?
科学館や博物館の表記とかも気を使っているのでは?
記者さんとか胃が痛くなる思いなのでは?
そんな話が、世の中のありとあらゆる用語についてあるのでは?
もしかしたらものすごく奥が深い話なのでは?
そんな思いにも駆られて、夜も眠れなくなりました。
臼田宇宙空間観測所と内之浦宇宙空間観測所。
この2つの「観測所」から「言葉の宇宙」の奥深さを観測した気持ちです。
(うまいこと言ったつもり)