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【宇宙開発の報道】H3ロケット試験機1号機~3号機の社説に見る"失敗を許さない雰囲気"【事例研究】

日本の宇宙開発と報道について

日本の宇宙開発と報道については昔から関心があったのですが、ここ1~2年で様々な事例が増えてきたように思います。

今日は特にH3ロケットについて整理しようと思います。
と言っても、備忘録的にXで呟いていたので、それを整理するだけです。

自分のスタンス

私はもともと宇宙開発の現場にいたのですが、今は一線から離れています。これはいくつか理由があるのですが、そのうちの理由のひとつが、日本の宇宙開発を少し俯瞰的に見てみたい、と思ったからです。

ですので、積極的に応援する立場でも、非難する立場でもありません。
また、ジャーナリズムに対して何か一言モノ申したい、というわけでもありません。
ほぼ、自分の興味関心になります。

…いや、ちょっと違いましたね、日本の宇宙開発を応援したい気持ちはとてもあります(笑)。ですが、事実は事実としてきちんと冷静に見ておきたい、社会的にどう思われているのかも知っておきたい、という気持ちがあるということです。

社説に着目する理由

報道、と一言にいってもいろいろな切り口があるのですが、私が着目したのは新聞の社説です。

社説に注目するのは、それが最もその社の意見を代弁していると思うからです。それぞれの新聞社の意見や主張の違いが分かりやすいから、とも言えます。

これは、決して社説以外の新聞記事やテレビニュースなどを軽視している、という意味ではありません。
むしろ、そういった一般報道と合わせて見ることで、より違いが浮き彫りになってくると感じています。

なお、チェックするのはいわゆる「5大全国紙」(読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、日本経済新聞、産経新聞)に絞っています。

H3ロケット試験機1号機の場合

早速H3ロケット試験機1号機の時を見てみましょう。
H3ロケット試験機1号機は2023年3月7日に打ち上げられましたが、第2段エンジンの不具合により打ち上げは失敗、ペイロードのALOS-3(だいち3号)を軌道に投入することはできませんでした。
以下は翌日2023年3月8日のポストです。

それぞれの新聞社の社説のリンクと私の所感は以下の通りです。

さて、いろいろ見方はあるのですが、まず私が着目したのは、5社とも翌日社説を出した、ということです。
社説は各社1日1〜2本で前もって「この日に掲載しよう」みたいなのが用意されていることが多いので、前日の出来事を差し替えるのはそれだけ大きく取り扱ってるということだと理解しています。

また、私がこの社説で気になったのは以下の点でした。

この時点でH3ロケットはまだ試験機ですので、実用ロケットを大量に打ち上げているスペースX社の状況と比較することはあまり意味がありません。
それよりも、もし新聞社として今回の打ち上げ失敗について言及するのであれば、日本としての科学技術に対する姿勢や組織やプロセスなどを問いただすべきかと感じました。

また、もう1点不思議に思ったことが、どの社説も実用衛星(だいち3号)を搭載して結果的に喪失した件についてほとんど言及がなかったことです。

上記にも繋がりますが、もし日本の宇宙開発に対して批判をするのであれば、政策責任について批判をするべきだったのではないか、と感じました。

H3ロケット試験機2号機の場合

H3ロケット試験機2号機は2024年2月17日に打ち上げられ、正常に飛行した上でペイロードのCE-SAT-IE等を軌道に投入することが出来ました。打ち上げは成功です。
以下は翌日2024年2月18日のポストです。

まず、「試験機1号機が失敗した際には5社とも翌日に社説を出してきたのに、今回は3社だけか」というのが率直な感想でした。

以下がそれぞれの社説とその所感です。

ちょうど10年間で1兆円規模の宇宙戦略基金について話題になっていた時期ですので、それに絡めている社説が見受けられました。
また、社説を出している3社とも今回の成功を評価した上で、宇宙戦略基金に伴う宇宙事業への投資や人材の育成などにも言及しているところが特徴です。

H3ロケット3号機の場合

H3ロケット3号機は2024年7月1日に打ち上げられ、正常に飛行した上でペイロードのALOS-4(だいち4号)を軌道に投入することが出来ました。打ち上げは成功です。
以下は翌日2024年7月2日のポストです。

「いや、どこも社説書かないんかい!」というのが率直な感想でした。

H3ロケット試験機1号機:5社
 ↓
H3ロケット試験機2号機:3社
 ↓
H3ロケット3号機:0社

となれば「もう興味失っちゃったのかな?」と心配にもなります。思わずこんなポストをしてしまいました。

念のため申し上げておくと、その後もチェックしましたが、確認できたのは打ち上げ成功から1週間経ってから掲載された読売新聞の社説のみでした。

仮説

以上を踏まえた上での私の仮説です。

  • 社説は失敗を批判することの方が興味が大きく、失敗を指摘する文化を悪い意味で醸成しがちなのではないか

  • 組織の体制の「ゆるみ」など精神的な批判が散見され、具体的な戦略・戦術に関する指摘が少ないのではないか

  • 具体的な指摘が出来るほど日本の宇宙開発の実態(特に政策や体制上の課題など)について取材が出来ていないのではないか

  • 失敗を批判するのと同じくらい(またはそれ以上に)成功を評価しなければフェアではないのではないか

他の事例も踏まえて考えてみないとまだ結論とは言えません。
ただ、少なくともH3ロケットの3回の打ち上げ結果から見えてきたのは、社説に対するこのような疑問に近い仮説でした。
私は新聞社の社説に対してリスペクトを持っているつもりですので、もし異なった見方をしている方がいらっしゃれば、ぜひご意見を伺ってみたいと思っています。

以上です。



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