泥だらけのスニーカー
オレはスニーカー。生まれはコンバース、性別は白色、素材はキャンバス生地。
生まれて初めて聞いた言葉は「26.5センチありますか?」
オレをサイズで見るな。オレ自身を見てくれ!と叫ぶがそんな声は届くはずもない。サイズが重要なのは知っている。
ひとくくりに「靴」といっても性格はさまざまだ。コンバース家は元気なヤツが多い。
ニューバランスは優しくて、アディダスはみんなから好かれる人気者。リーボックは寡黙で、スタンスミスは親しみやすいんだけどなんだか渋い。バンズはちょっと闇を抱えてる。
エアジョーダンは熱血漢でいつも筋トレしてる。
オレの故郷は東京にある小さな靴屋さんだ。
陽の光があたると眩しくなるような真っ白さを持ち合わせていたオレは、ほかのヤツらとは一線を画していた。
恍惚な表情でシューズ売り場に置かれる。
オレを手にとったのは大学に入学したての若々しい男だった。
「自分への入学祝い♩これ履いてがんばるんだ〜!」
どうやら地方から上京してきた彼はなんだかナヨナヨしていて、正直に言うと、オレの相棒としてはふさわしくはなかった。
お前はオレを気に入っているが、オレはお前を気に入っていないんだ。ごめんよ。
そうして彼の大学生活は始まった。
朝起きて大学にいき、マジメに受講して、夜はアルバイトへと向かう。親の仕送りもなかったため、たくさん働かなきゃいけないようだった。
飲食店のキッチンをしていたのだが、バイト用の靴を買うお金もないため、油まみれの床の上をオレで歩く。
オイオイまじかよ。油くさいしせっかくの白が汚れるし、最悪だ。
それから彼は、毎日早起きをして、授業もちゃんと行き、夜は遅くまで働いていた。寝る時間なんてほとんどなかったと思う。
でも、彼は弱音ひとつ吐かなかった。
…まあまあガッツがあるじゃねえか。
彼は母子家庭で育った。どうしても就きたい仕事があり、母と離れてひとり東京に来たのだ。
「母さんと約束したから」
そう言って靴ひもを締めなおす姿を何度も見てきた。
そして4年後、彼は無事に大学を卒業した。好きな仕事にも就くことができた。
まわりの友人は「お前はいいよな〜」と言ったが、オレは彼が誰よりも努力していたのを知っている。
4年間休みなく使われたオレはもうボロボロで、とても白色とは呼べないくらいに汚れていた。
「たくさん汚しちゃってごめん」
そう言って彼はオレを洗ってくれた。すこし汚れは落ちたが、まだまだ真っ白とはほど遠い。
でも、いいんだ。この汚れはお前ががんばった証だ。オレにちゃんと刻まれてる。
お前は、最高の相棒だ。
「 アタイにだって言いたいことがある。」
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文章:しみ
イラスト:じゅちゃん
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