人の目センサー敏感です
うちの妻は人の目が気になるタイプだ。
これをやったらどう思われるかなとか、誰かに迷惑かかるかもしれないなとか、そういったことを先回りして考えて「やっぱやめとこ」になることが多い人である。
人の目センサーとやらがスパイ映画の赤外線レーザーのように張りめぐらされていて、少しでも人の目を感知すると本部に緊急事態速報が入る。
そんな気にしいな妻が、唯一ガバガバになっている感覚がある。
外見だ。
自分の外見に関しては、この人の目センサーがいっさい感知しなくなるのである。
たとえば僕と出会ったころは「前髪かきあげロングヘアー」だったが、ある日突然「前髪作ろうかな」と言い出して、少しも悩まずサクッと眉毛の位置まで前髪を切った。
そのあとも「なんかショートにしたいな」と言ったかと思えば、毛の後半部分とあっさりバイバイしてボブみたいになった。聞くところによれば「初ショート」らしい。
いや悩まんのかい。人の目気にならんのかい。
外見って、人の目センサーの要注意エリアじゃないのか?
レーザーどころではない。赤外線ライトセーバーをもったダースベイダーが中央に鎮座している、あの要注意エリアではないのか?
ふつうはカタログを読み漁り、親しい人に「わたしショート似合うかなあ?」と聞いてまわり、「でもな〜」を繰り返し、ようやく決心しておびえながらも美容院の門を叩くほどのことだろう。
気になって聞いてみた。
「ショートにするのこわくないの?」
「ん?こわくないよ?」
「人の目気にならないの?」
「だってショートのほうがラクそうじゃん」
回答になってない。回答になっていないほど人の目が気になってない。
なぜこの人は、外見に関してだけ人の目が気にならないのだろう。ということが気になってきた。
妻のこれまでの行動、あの日の言動、忘れっぽい僕はかすかな記憶たちをかき集め、ガリレオのように数式を書きはじめる。
そしてなんとなく答えが出た。
おそらく妻は「人に迷惑をかけてしまう」のが嫌なだけであって、それに該当しないことに関してはセンサーがガバガバになっている。
電車の中で息子が騒いだら「人に迷惑をかけてしまうから」人の目が気になる。
自分がショートにしても「誰にも迷惑がかからないから」人の目が気にならない。
こういった方程式だと推測した。
妻は田舎からひとりで上京したが、地元の友人にどう思われるかは気になっていないようだった。
さらにはひとりで海外によくいくが、職場の人に「ひとりで海外いくのね」と思われることについては気にしていなかった。これらは誰にも迷惑をかけていないからだ。
そう考えてみると、いろいろと納得できた。
「人の目センサー」にも種類があって、自分が気になってしまうエリアについては敏感にレーザーが反応する。
妻にとっては「人に迷惑をかけるかどうか」という基準が最重要であり、迷惑をかけそうなエリアに入ったら最後、ダースベイダーのお出ましだ。
ただ、それ以外のエリアであれば気にならないことも多く、こちらがびっくりするほどアグレッシブに突き進む。
この「人の目が気になるエリア」を自分で知っておくことが大事なのだろうなと思った。
そんなこんなで最近の妻はサングラスをかけ、日除けのハットをかぶり、好きな柄の服を身にまとい、フジロック常連みたいな格好で幼稚園に送り迎えにいっている。
いいのだ。誰にも迷惑はかけてない。エリア外だ。
人の目を気にせず、どこまでも外見の変化を楽しむ妻は、最高に輝いて見えた。
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表紙とアナザーカットたち↓
⌇ 絵 えりちゃん(妻)
✎ 文 しみさん(夫)
夫婦で絵本をつくるのが夢です。
日記のようなエッセイを書いています。
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