第7話

克己は自身の左後方の女生徒が気になって仕方がない。
なぜこれほどまで気になるのかは自身でもわからない、はじめての体験だからだ。
現在席は窓側から出席番号順…ようするに名前順になって着席している。


あの位置だと出席番号は6番か
となると名前はカ行かサ行からはじまるかも
ってかそもそも入学式ととき居たか?
居たならなぜ気づかなかった?


いろんな思考が目まぐるしく回る
入学式のときに気づかなかったのは席の位置関係と教室に訪れた順番からある意味当然だった。
入学式の際に教室に入ったときは多くのクラスメイトは入室していなかった。
その上、優希也と里奈と馴染みのある2人と一緒に行動していたため周囲をそこまで気にしていなかった。
さらに座席位置が2人は克己より前だったため自然と視線や意識はそちらに向けられる。
それによりあとから入室する人や後ろにいる人を注視する必要がなかったのだ。

気になる…

せめて名前だけでも知りたい…

しかし名前を知るきっかけがない…

そわそわしてしまい周囲の声が入ってこない。。

「全員プリント行き届いたかぁ〜?」

ぼう然としていたところに盛田の声が飛んできた。
おもむろにプリントに目をやると、プリントの目次に席の番号順に名前が表示されてるページ(一覧)があることが記されている。

「それじゃあ一ページ目から説明していくぞぉ〜」

盛田の言ってることを気にも止めず克己は自分の目的を果たそうと勝手にプリントをめくる。


あった!


と心の中でつぶやいた克己は自分の席の左斜め後ろの席の女生徒の名前を確認した。

黒木華

くろき……か?げ?
さすがにそれはないか。
とすると『はな』かな?
自問自答しながら、たぶんそうだろうという回答にたどり着いた。


………


学校の諸説名や部活動のことなど
いろいろ話していたようだが、克己はほとんど頭に入ってこないでいた。
平静を装っていたものの、どこか昂る感情があることに驚きつつも自覚していた。

「バーっと説明したからわからないとこもあると思うけど、大体のことはプリント見ればわかるから…ん〜まぁ各自確認しとけなぁ〜〜。」

相変わらず気怠そうな声の盛田

「あっ、そういえば出席とってなかったっけかぁ?…一応とっとくかぁ〜…」

あからさまにめんどくさそうな顔をしたままそう言うと出席をとりはじめる。

「名前呼ばれたら返事しろよ〜?わかったな?…じゃあまずは男子から〜」

相川友和
東優希也
石川隆


知野克己


渡邊明彦

「はい、続いて女子なぁ〜」

青柳辰美
飯塚遥
伊藤千香
大貫尚子
加藤望

「いよいよ次だ…」

心の中で逸る気持ちを抑える克己
盛田により黒木の名前が読み上げられる

黒木華(はな)

やはり『はな』だった。
当然といえば当然だが、確証を得られることで心のモヤモヤを取り除かれた。

「はい…」

華は消え去りそうなくらい小さい声で返事をした。
その声に克己に限らずクラスメイト全員が華に意識を奪われて、人によっては思わず華の顔を見る動作を取った。
克己は斜め前にいるため身体を捻らせないと見ることができないため、振り向きたい気持ちとは裏腹に振り向かずにいた。我慢したのだ。
振り向いたらたぶん自身でも驚くくらいのリアクションをとってしまう…それはきっと相手に不快な気持ちにさせてしまう恐れがあると瞬時に判断してのことだった。


克己のその判断は正しかった。
華はやっぱりそういう反応するよな、といった心境だったのだ。

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