寒くて温かい夜
とっても寒がりな私の身体も、少しずつ、冬の温度に馴染んできた。
それに、そろそろ本気で痩せなきゃとも思っていたので、早く帰れる日は最寄りの一駅前で降りて、川沿いの土手を歩くことにしている。
この川は桜の名所で春には多くの人で賑わうのだが、
今の時期は寒さのせいか、ひっそりとしている。
設置されている遊具も、どこか寂しそう。
落ち葉を踏む、乾いた音が心地良い。
左右からぬぅっと伸びる木々の影を見て、幼い頃の絵本に出てきた、大木のお化けを思い出した。
夜の少し不気味な雰囲気も好きになれるぐらいには、
大人になったみたい。
…
今日も歩こうと一駅前の改札を出ると、見慣れた後ろ姿があった。
妹も同じことを考えていたらしい。
ちょっと嬉しくなって、改札すぐのパン屋さんで、クロックムッシュを2つ買った。痩せる目的はどこへやら。
土手を少し歩いて、ブランコに座って、2人で食べた。
冷え入る空気の中で、口から白い湯気を出して食べる熱々のクロックムッシュは、格別だった。
帰り道は、イヤホンを半分こして、冬のプレイリストをかけて歩いた。
back numberの「ヒロイン」と「クリスマスソング」。
このバンドは、冬がよく似合う。
一緒に口ずさみながら、イヤホンが落ちないように腕を組んでくっついて、歩調を合わせる。
やっぱり妹は歌がうまい。
人の体ってこんなに熱伝導効率よかったっけ、と思うほど、妹の体温が伝わってくる。
少し窮屈だったけど、右側がぽかぼかして温かくて、
気づいたら寒さも忘れていた。
…
家に着くと、遅くなったことと夕飯前にパンを食べたことで、母に小言を言われた。
でも、それでもお釣りがくるぐらい、楽しい楽しい夜だった。
なんでもない日常の特別な1ページを、忘れないように、ここに残しておくことにする。