ゼー六

本町通りにある老舗の店「ゼー六」は、時折無性に行きたくなる。ここはアイス最中と珈琲の店で、元々の菓子店ゼー六は大正時代からあるという。栄えた大通りにぽつんと立つ古い一軒家はそこだけ戦時中から時間が止まっているかのような佇まいである。

店先販売のアイス最中は、店主が小窓越しにアイスクリームをよそって白い最中で包んでくれる。暖簾をくぐると激シブの狭い店内には小さな机が3つだけあり、5人も入ればもう満席である。そこで自分はいつも珈琲とアイス最中のセット390円を頼む。実は自分は昔からアイスクリームというものが苦手で、嫌いではないのだが上手く食べられない、それに食べるのに矢鱈と時間が掛かるためいつも終盤はドロドロにしてしまう、といった具合なので普段はまず食べぬ、コンビニでアイスクリームを買った経験など一度も無く、ガリガリくんなど以ての外、ハーゲンダッツならば3口ほどで満足する、もしも冷たい麦茶と高級アイスクリームが並んでいれば躊躇無く冷たい麦茶を手に取るだろう、と、そのような人間なのだが、何故かゼー六のアイス最中だけは好物なのである。

味はバニラ味、非常にさっぱりとした甘さで、瑞々しく爽快感がある。分かりやすくいうと、カルピスとかミルクセーキとか、そんな感じだ。これはいわゆる、アイスクリン、というもので、昔はたまに屋台のアイスクリン屋が近所を通っていたことを思い出す。アイスクリームよりも乳脂肪成分が少ないため、その分安価なのだが自分はこちらの方が好みである。最中なので手で食べる。大きさも程良く小ぶりで、私のようなアイス下手でも溶けること無く最後まで食べられる。

そして自家焙煎の珈琲は、滅茶苦茶に美味い。何とも幸せな気持ちになる。店内を見渡すと、包む用の新聞紙が椅子に山積みにされていて、黒電話が鳴れば出前の注文が入る。おじさんの常連が手団扇で入ってきて、最中とホット頂戴、と言うと、はいよ、店主がサッとアイスをよそって、渡す。そのどれもが、これぞ商人の街、大阪といった様子である。大阪観光に来た人には、次からはゼー六を勧めることにしよう。ここは決して長居するようなサ店では無いので、一息ついたらすぐに店を出る。すると、これは毎回そうなのだが、矢鱈と気分が良くなり、回復した心持ちになる。まるでひとっ風呂浴びたような、すっきりとした身体になり、ふう、あぁ、気持ち良かった、といつも思う。回復という言葉がぴったりなのである。そんな店は、他にあまり無い。

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ヤング嶋仲
何もいりません。舞台に来てください。