クレーピーな気分

あまり人には言っていないのだが、自分はクレープに目が無い。こんなことを書くとまた甘いもの好きだと思われるかもしれぬが、クレープに関してはちょっと別物、決して甘いからクレープが好きなわけではなく、ただ、クレープが好きなのだ。クレープだからクレープが好きなのだ、と言えば分かるだろうか。クレープにしか無い楽しさと可愛さとファンタジーを、愛しているのだ。とはいえ、自分はしょっちゅうクレープを食べているわけではない。クレープというのは、時折食べるから良いのである。あの薄生地に包まれた甘美な世界、それでしか味わえぬ幸福を、自分は知っている。だから自分は、ちょっとしたご褒美にクレープを食べて、あ、でも、ちょっとしたご褒美でなくとも食べるわ。つまり、不意に食べたくなったら、食べるようにしている。不可欠なのは生クリーム、後はチョコレートとかアーモンドスライスとか、たまにオレオとかブリュレとか、そうしたトッピングのクレープが好み。バナナ、カスタード、イチゴ、アイスクリームなどは無くて良い。シンプルで王道なシュガークレープも確かに美味いのだが、やっぱり生クリームがうねうね入っている方が、可愛いし、結局頼んじゃう。けれども阿呆のひとつ覚えみたいに、大量の生クリームが入った、もはや生地からはみ出まくって超山盛り生クリームのマウンテンクレープ、みたいなのは、別に食べたいとは思わぬ。爆乳の女を抱きたいと思わないのと同じである。

さて、こないだクレープ屋で食べたクレープは非常に美味かった。偶然見つけた、というか車で移動中に「クレープ」と調べてマップに出てきたところへ行った。下町の路地を進めばこじんまりとあるその店、中は落ち着いた雰囲気で、メニューを睨む私に店主は「決まればいつでも言うてくださいね」と、丁寧な対応で良かった。クレープはそんなに簡単には注文出来ない。あれもアリこれもアリ、でもどうしよ、えっどうしよ、という幸せに小躍りしながら優柔不断を炸裂する時間。結局、私は「ヌテラバターシュガークレープ」を注文した。ヌテラというのはヘーゼルナッツチョコレートらしい。サイズはMで640円、決して安くは無いがその分期待も膨らむ。出てきたのはなかなか迫力のあるクレープで、生クリームは良い具合にこんもりたっぷり、これは完全に当たり、と呟きつつ頬張れば、口の中に広がる真っ白で甘美な海、されど甘すぎず、ヌテラチョコレートの恍惚とした口溶け、ナッツのほのかな風味がクリーミィに合わさって、舌の上は多幸に沸き立つ。それでいてバターシュガーだ。じんわりバターが染みた薄茶の生地はモチっとしており、粒立ったシュガーのガリっと食感もアクセントに良く、たとえ指に生クリームが付いても関係あらへん、あまあまと食べ進めては止まらない。もうお腹いっぱいと思いつつも余裕で平らげた。ベリークレーピーな気分。自分だけのお気に入りにしたいので、店名はひみつにしておく。


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ヤング嶋仲
何もいりません。舞台に来てください。