サービス

舞台に立つ人は普段からサービス精神が豊かな人が多くて、凄いなと思う。自分も勿論、舞台上ではサービス精神は山盛りであるし、出来るだけお客を楽しませたいと常に思っている。でもライヴが終演して舞台を降りたらもう全部どうでも良くなるタイプ、ただの一人の人間になるので、常にサービス精神がある人を見ると、尊敬こそしないが、凄いなと思う。芸人なんぞ特に犬みたいな奴ばかりで、舞台を降りてからも、お客さんを相手に、ありがとうございます!とか言ってペコペコ、ニコニコしたり、ちょっとジョークとか交えて笑わせたりしている。写真撮ってくださいって言われたら、え?ぼくで良いんですかぁ!なんて大袈裟に言って、差し入れ貰ったら、うわぁ!ありがとうございますぅ!って感激したフリをしている。相手がエロティックなギャルならばそれも分かるけれど、大抵の売れていない芸人はたとえお客がどんな芋であろうと、楽しくやさしく微笑むのだ。これはもうサービス精神以外の何物でもない。

そして当たり前のように、サービス精神豊富な奴ほど人気が出る。私のような塩対応の陰気な腑抜けは好かれない。たとえば写真撮っていいですか?と言われても笑顔になることはなく、なったとしても引きつって、撮ったら撮ったで、ハイもういいですか、と呟き、妙に気まずくなって終わる。何か差し入れを貰っても、あぁどうも、ありがとうございます、って言うだけで、無粋極まりない。それで後になってから、ちょっと自己嫌悪になって落ち込んだりする。だけど、どう考えても自分は悪くないと思う。だって、散々舞台で色々演って、へろへろ疲れて早く休みたいのに、終わってからのサービスが上手く出来なくて、それで何故おれが落ち込まなければならぬのだ。せっかく楽しいライヴだったのに、ああ!もう少し明るくニコニコすれば良かったんか、と謎の反省をする羽目になる。

だから、これは本当にお客からすると不思議な話かもしれんが、良い出来のライヴの後ほど、さっさと皆帰ってくれ…!と自分は思ってしまうのだ。たとえば単独ライヴとか、やり切ったな、っていうような舞台が終わると、もう極力、誰とも会わずにいたい。お客からすれば、面白かったです!とか、何か感想を一言伝えたいとか、そういう人もいるだろう。その気持ちも分かる。

自分の場合は、舞台だけで十分に満たされる。良いライヴの後は、早くひとりになりたいと思う。だって、とても良いライヴだったから、さっき舞台でしっかり共鳴出来たから、もう十分じゃん、この気持ちのまま皆帰ろう、って。そんなことを思いながら楽屋にひとりで閉じこもり、しばらく経ってドアを開けるともう誰もいない、演者たちは打ち上げでも行ったのかな、出待ちとかしてる女子はおらんのか、おらんの、とにかく全員サーって去ったみたい、あ、そう、なんかさみしい、ってひとりで不貞腐れてる。


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ヤング嶋仲
何もいりません。舞台に来てください。